中央水研ニュースNo.17(平成9年9月発行)掲載

【情報の発信と交流・研究室紹介】
生物特性研究室
Comparative Biochemistry Section, Bio-function Division
良永 知義

 生物特性研究室は、「水産生物の生理および生態 に係わる生物機能に関する比較生化学的な調査及び 研究を行う」と位置づけられています。室長以下3 名で構成されており、現在、2つの研究プロジェク トに参画しています。ここでは、参画しているプロ ジェクト研究の内容を中心に紹介したいと思いま す。

生化学的手法による浮魚の卵の種判別手法開発
 管理型漁業に不可欠な資源量推定のための手法の 一つとして、海に漂っている魚卵や椎仔魚の数から 産卵親魚の資源量を推定するという手法が取られて います。調査のためには採集した魚卵の種を判別す ることが不可欠です。しかし、卵稚仔のなかにはマ サバとゴマサバのように形態学的には種の判別が困 難な魚種もあり、生化学的な種判別法の開発が必要 とされています。そこで、二枚貝の幼生の種判別で 同じような問題を抱えていた南西水研の石岡室長ら と協カして種判別手法の開発のプロジェクト化を行 い、平成7年度より3年間の予定で特別研究「魚種 判別」を開始することができました。生化学的な種 判別手法としては、DNAを用いる方法と抗原抗体 反応を利用する方法が一般的です。前者は判別の感 度・精度は高いものの採集試料の固定法に工夫が必 要であり、後者は感度・精度では劣るものの通常の ホルマリン固定試料に適用が容易であるというふう に、それぞれ長所・短所があります。本研究室では 浮魚卵(マサバ・ゴマサバ、アジ科魚類)を対象に、 抗原抗体反応を用いた種判別手法の開発を担当して おります。これまでに、マサバ、ゴマサバおよびマ ルアジのそれぞれの卵膜タンパクに特異的に反応す る抗体を作製することができました。プロジェクト の予定期間は一年を残すのみとなりました。この一 年でこれらの抗体を用いた種判別手法を開発しよう とがんばっているところです。

魚類寄生虫と宿主の相互作用
 海の中の生物の生残や成長は水温や塩分濃度等の 環境因子に強く影響されていることはもちろんです が、他の個体や生物種との間の相互作用も無視する ことはできません。個体間や種間の相互作用の例と しては、特定のイソギンチャクに寄生するクマノミ の例が挙げられます。本研究室では、このような個 体間・種間相互作用のモデルの一つとして魚類寄生 虫と宿主間の相互作用に関する生化学的研究を行っ ています。この研究の一部は、大型別枠研究「バイ オルネッサンス計画」の課題として行っています。 これまでに、海産魚に寄生する自点虫が宿主細胞に アポトーシス(細胞の自殺)を引き起こし、その細 胞を餌としていることを明らかにしました。現在 は、この現象を利用して、白点虫のin vitro培養 法の確立に努カしています。さらには、魚類の体表 に寄生する単生類について、その幼生がどのような 機構で宿主魚類を認識し体表上に着定するのかとい う点についても研究を進めています。

 ここに紹介したプロジェクト研究の他にもいくつ かの経常研究を行っていますので、簡単に紹介しま す。細菌や原生動物の侵入を受けやすい泥や砂の中 に生息している魚類は体表上に他の魚種とは異なる 生体防御系を発達させていると考えられますが、あ まり良く分かっていません。そこで、ウナギを材料 にその体表上皮における生体防御系を調べていま す。現在は、その最初のステップとしてタンパク質 分解酵素の役割を検討しています。また、本号でも 紹介したように血液凝固や骨形成に重要な役割を持 つビタミンKについても研究を行っており、これま でに、その量や組成が魚の食性と深く係わっている ことを明らかにしてきました。この現象をもとに、 ビタミンKはそれぞれの魚の食性や食履歴を表す指 標として用いることができるのではないかと考えて います。現在は、指標として用いるために必要な基 礎的な情報としてビタミンKの魚体内での代謝に関 する知見の集積を行っています。

(生物機能部)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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