中央水研ニュースNo.17(平成9年9月発行)掲載 | |
【情報の発信と交流】
清水 昭男
平成8年度科学技術振興調整費による国際共同研 究(二国間型;環境汚染物質が魚類性成熟に及ぼす 分子生物学的影響)に伴う研究者の交流がスウェー デンとの間で行なわれたのでその概要を紹介する。 スウェーデンは原子力発電の廃止決定等でも判る とおり、環境問題意識の高い国であり、有名なウプ サラ大学がある等、純粋学問の分野への意欲も高 い。また、非常に閉鎮的な環境にあるバルト海をは さんで環境問題意識が必ずしも高いとはいえない旧 ソ連諸国と向い合っており、水質汚染の研究への関 心を常に高く持っている。 12月9日から22日にかけて、筆者と黒島良介 生物検定研究室長、池田久美子研究員がスウェーデ ンを訪れた。最初に訪問したのはスウェーデンのほ ぼ西端にある港町エーテボリで、エーテボリ大学の Lars Förlin助教授を中心に研究情報の交流を行 なった。彼の研究室では汚染物質のバイオマーカー の研究を主に行なっていて、特に、薬物代謝酵素の チトクロームP450の研究を精力的に進めている。 研究室のスタッフ、近隣の研究室の人達、さらに 我々3人を含めたメンバーで研究室紹介、各自の研 究発表、研究手法や最新の環境汚染問題の情報交換 等を進めていった。バルト海での多様な水質汚染や 雌性ホルモン類似物質(スウェーデンではパルプ廃 液から出るものが特に問題となっている)による環 境汚染が大きな問題になっていることが実感でき た。 途中ウプサラ大学でPeter Part教授の研究室を 訪れた後(ここでは日程も短く、彼も大変多忙であ り、詳しい話が聞けなかったのは残念であった)、 北部の小さな町ウメオにあるウメオ大学のPer-Erik Olsson 助教授の研究室を訪問した。彼は環境汚染関 連の分子生物学が専門で、特に、メタロチオネイン (金属結合タンパク質)とビテロジェニン(卵黄前 駆タンパク質)の関係を分子生物学的手法を用いて 研究している。ここでも雌性ホルモン類似物質(特 にPCB)の影響をゼブラフィッシュを材料にして調 べていた。施設を見学後、エーテボリ大学と同様に 多くの人達と研究交流を行なった。3つの大学を訪 問して共通に感じたことは環境保全に関する研究環 境の違いであった。例えば、我々が行なっているよ うな、海産魚に対する有害物質の長期的な影響を実 験的に調べる研究は施設の問題でスウェーデン国内 ではほとんど不可能のようであり、実験に用いてい る魚もほとんど淡水魚のようであった。対照的に、 汚染された水域にケージを置いて魚を飼育し、現場 の水質汚染の影響を調べるような方法が盛んに行な われており、この種の研究は我が国では大変困難な 面が多い。互いの研究交流、研究協力によって水質 環境保全分野の発展が大いに期待される所以であ る。 明けて、2月22日から3月3日にかけて、今度 はスウェーデンの研究者が来日した。Förlin、 Olsson両助教授の他に、ウメオ大学のPeterK ling 博士を加えた3人である。横須賀庁舎で我々の施設 を見学した後、研究室紹介、セミナー、情報交換を 行なった。当庁舎に設置された海水魚の長期毒性試 験装置とその排水処理装置には皆大変興味を持った ようで、見学後、Förlin助教授から「我々の所で手 に入る排水をそちらに送って影響を調べるような研 究を行なえないか」との問い合せがあるほどであっ た。確かに面白い提案であるが、大量の水の輸送の 問題等があり、実現には多くの困難が有ろう。続い て横浜庁舎においても施設見学、各研究室の訪問、 情報交換を行なった後、ちょうど来日中であったス トックホルム大学のBengt-Erik Bengtsson助教授 を含めた4人の研究者による講演会を講堂で開催し た。所内の研究職員の他、近くの横浜市立大学から も多くの研究者が聴講に訪れ、活発な議論が展開さ れた。バルト海のサケで起こっているM74 Disease という奇病(汚染物質の関与が疑われているが証明 されていない)やPCBがゼブラフィッシュに引き起 こす奇形に関する発表等が関心を集めていた。 多忙な時期に当らぬよう2月末という招へい時期 を選んだのですが、例のナホトカ号事故の対応が急遽 舞込みました。当部の職員や企画調整部の協力を 得て、なんとか乗りきることが出来ました。この場 を借りて感謝の意を表します。 (環境保全部生理障害研究室長)
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