環境庁予算による表層炭酸ガスプロジェクト
我々の研究室では、平成7年度から環境庁の
地球環境研究総合推進費予算で海洋表層の炭酸ガス
分圧を測定することとなった。この研究の全体的目
標は、リモートセンシングで得られる水温情報や今
後得られると期待されているクロロフィル情報など
を利用して、海洋表層の炭酸ガス分圧を精度よく推
定する方法を確立することにより、この海域で炭酸
ガスは吸収されているのか、放出されているのかを
時空間的に把握しようとすることである。そのため
には詳細なモニターとモデル化が必要である。調査
船を利用できる中央水研はこの中でモニターと生産
力が炭酸ガス分圧に与える影響の把握を分担してい
る。
表層炭酸ガス分圧のモニター
大気中で炭酸ガス濃度は現在約360ppm(0.036%)
であり、徐々に増加していて地球温暖化の要因と
なっている。海洋表層の炭酸ガス分圧がこれより高
ければ炭酸ガスは海洋から大気へ移行(放出)し、
低ければ大気から海洋に移行(吸収)される。この
移行速度は風速などの要因で決まるが、放出か吸収
かは海洋表層の炭酸ガス分圧の値によって決定され
る。この分圧問題は、地球温暖化における海洋の役
割を考える上で重要なため、日本では気象庁の研究
者が中心となって分析方法が検討されてきた。原理
は、表層海水を容器の中に入れてシャワー方式と呼
ばれる方法で海水と大気のガス分圧を平衡にして、
そのようにして得られた大気中の炭酸ガス量を赤外
線分析器で測定する。この方法では容器が一定の大
きさをもつために、平衡させるのにかなりの時間が
必要となり、実際には約1時間に一回のデータしか
得られず、変動の激しい日本近海での測定には時間
分解能が粗すぎる。また容器が大きいため蒼鷹丸の
研究室に導入することは不可能であった。
新しい分圧測定器
このプロジェクトのサブチームに「海洋表層二酸
化炭素分圧測定の高度化」があり、その一部は筑波
にある通産省の計量研究所が担当している。同所は
以前サンゴ礁における分圧測定にチャレンジして、
開発した機器についてはDeep-Sea Researchに掲載
され、この機器で得られた結果を用いた論文は
Scienceに掲載された。今回のプロジェクトでは、
この機器をさらに改良して蒼鷹丸のような調査船で
用いることを目指した。新しい機器のアイデアは、
水は通さないがガスは通すチューブを用いて海水と
平衡となる空気を得ることにある。実際には、船底
近くから汲み上げられた海水が直径約15㎝、高さ
約20㎝の円筒に導入され、この円筒の中には、赤
外線分析器と連結されたチューブがセットされてい
て、チューブの中を循環しているガスと海水中のガ
スが平衡になり、炭酸ガス値が分析器で連続して測
定されることになる。この分圧計の応答時間は約1
分半でシャワー方式の機器に比べて非常に速い。蒼
鷹丸に搭載した分圧計の写真を示すが、約40㎝の
立方体の大きさである。機器の下の部分はガスの流
量を調節するなどのバルブ切り替え装置であり、そ
の上に赤外線分析器が載っている。
新しい分圧測定器で得られたデータの紹介
蒼鷹丸における試験運転は昨年の12月に行い、
今年の1月の航海で改善した機器を搭載して三陸沖
で調査を実施した。得られた結果の一部を紹介す
る。この図は、東経144°線を北緯33°から42°
まで航走した時のデータである。この図で赤が表面
水温(TEMP(NAV))で単位は右側である。北緯37°付
近で18℃となり、北緯38°付近から減少して42°
では3℃となった。北緯37°前後の17℃付近が黒
潮であり、北緯41°付近の水温7℃前後より北が親
潮であり、その間が混合水域である。空色が蛍光で
あり、植物プランクトン色素クロロフィルaを表
し、一番下の黒色が動物プランクトンを表す。炭酸
ガス分圧は青色(fC(NAV,dry))で示されていて、単
位は左側に示されている。これを見ると、黒潮域は
約290ppmであり、親潮域では330~390ppmという
ことが明瞭に示されている。大気中の炭酸ガス分圧
は約360ppmなので、1月には黒潮域は炭酸ガスの吸
収域、親潮域は放出域ということが出来る。今後こ
の機器を利用して、季節を変えて調査することによ
り、このプロジェクトの所期の目的が達成されるば
かりでなく、小型で取り扱いが容易なことが明らか
となれば、水研の他の調査船でも利用されることに
なると期待している。
(海洋生産部物質循環研究室長)
- 参考
- 蒼鷹丸に搭載した小型炭酸ガス分圧連続測定器
- 図.1月の東経144°線上の表層のガス分圧
nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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