【研究情報】
蒼鷹丸搭載機器の紹介
--ジョイスティックコントロールシステム--
石井 裕二
最新鋭のハイテク船と宣伝されて就航した4代目
蒼鷹丸は平成8年11月で3年目を迎えた。
艤装時に初めて見たおびただしい数の最新機器類
へ戸惑い、習熟航海、引き渡し直後のびくびくしな
がらの回航、不具合事項に関する造船所への対応、
本格的に始まった調査航海で発生したトラブルヘ
の対応等々忙しい日々を経験してのあっという間の
月日であった。
現在では種々の機器類の取り扱いにも十分に習熟
し、余裕もでてきた。
本船装備の航海関係機器類の中で最も活躍し、こ
れからの調査船の標準仕様として必需とも考えられ
るものの1つにジョイスティックコントロールシ
ステムが掲げられる。
この装置のおかげで、風力階級7(13.9~17.1m/
sec)という荒天時においても円滑な海洋観測が可能
となった。
本稿ではこの装置の性能を、平成9年1月の荒
天時に行われたCTD観測時の記録を基に紹介する。
ジョイスティックコントロールシステムの概要
ジョイスティックコントロールシステム(以下、
JOY)は、オートスピードコントロール機能、自動
船首方位保持機能等を有する操船援助装置である。
希望する速力並びに船首方位をタッチパネル画面
上で設定するだけで、舵、プロペラ翼角、バウスラ
スタ(回頭力制御装置)翼角、各々の制御ハンドル
を一切操作することなく自動的に速力並びに船首方
位を保持し、ジョイスティックレバーのみでも微妙
な操船を可能にする装置である。
オートスピードコントロール機能は、リングネッ
ト、モクネスネット、表中層トロール等、2~5ノッ
トの低速力の保持を重視する観測において使用さ
れ、確実な速力保持ができ乗船調査員からも満足を
得ている。
自動船首方位保持機能は、LNP,CTD観測等ワイヤ
を鉛直に投入して行う観測作業で使用され、良好な
結果を得ている。特に、20日間の海洋観測で100回
以上の頻度で行われるCTD観測ではその性能が十分
に発揮されている。
ジョイスティックモードは、黒潮域内等の海流の
強い海域において、風向と流向の関係が複雑な場合
に船首方位保持機能と併用し、速力調整を主な目的
として用いられている。
次葉写真中央がJOYである。
JOYを使用したCTD観測について
CTD観測は、風や潮流がほとんど無い凪であれば
JOYを使用せずに船体をそのまま漂泊して行うこと
ができるが、まず希なことである。CTD観測は右舷
前部甲板で行われるため、風力4以上の海況では風
を正船首から右舷10度程度の範囲に受け、決して
左舷から受けないように投入から回収までこの状態
を保持し続けねばならない。風を左舷や右舷正横方
向から受けたりしたならば、投入されたワイヤーが
船底に入り込んだり、船体動揺による急激な張力変
動によってワイヤーを痛め、高価な測器を亡失する
おそれがある。
JOYの性能を、平成9年1月23日、風力7と
いう荒天下、海中1500mまで測器を投入したCTD
観測時の記録を基に紹介する。
<<調査時の海気象について>>
1月21日常磐沖に達して急速に発達した低気圧
990hpaは、22日道東沖に達しその勢力を972hpaに
強めた。
この間観測を待機していたが、低気圧の通過を待
ち23日正午頃より開始した。風速は落ちてきたも
のの低気圧通過直後のため、大きなうねりは残って
いた。有義波高は3.5mではあったが、時々4mを
越える波が襲来し、観測開始を躊躇するほどの海況
であった。
大波によって船体が激しく動揺し、投入ワイヤーに
たるみが生じ急激な張力変化が発生するため、投入
速度は通常の半分で行わなければならず、観測時間
は2時間を越えた。
図は当時の天気図で、●印が蒼鷹丸の位置であ
る。
<<観測時の状態>>
1)対水船速は約0.2ノット(10㎝/sec)程度を保
持できていた。
2)設定船首方位に対する船首偏角を平均すると0.3
度で、船首方位保持機能は十分に発揮されていた。
最大偏角は左舷方向に17度偏ったが、2分以内に設
定方位に復帰していた。
3)相対風向は、平均すると右舷8.6度方向から受け
ており、希望した船首方位保持を行うことができ
た。
JOY作動中、航海士が行った操作は、風向の変化や
投入ワイヤー傾角の変化に応じて船速と船首方位を
設定するだけであった。
4)観測の開始と終了時の船位から求めた船体移動距
離は1.0マイルであった。2時間に及ぶ観測中の移
動距離を速力にすると0.25ノットに相当し、荒天
下にしては移動距離は大変わずかで、定点保持効果
が認められた。
5)投入ワイヤー長は1600mを要し、所定水深と約
100mの差でほぼ鉛直(ワイヤー傾角20°)に投入す
ることができ、観測時間の短縮にも役立った。
- 参考
- 観測時の風速変化
- 設定包囲に対する船首包囲と風向の偏角
おわりに
調査観測中、船橋の航海士はたった一人で操船作
業、見張り、観測作業の監視や指示、野帳記入等を
行わねばならず、特に荒天時や船舶交通の輻輳する
海域においては、正に神経をすり減らす思いで当直
に当たっている。
操船作業をJOYに任せる(もっとも100%信頼し
てはならないが)ことにより、その分の注意を観測
作業の監視や見張り等に向けることが出来るように
なり、一層安全確実な観測活動の遂行が可能となっ
た。
現在まで数多くの調査観測においてJOYは用いら
れ十分に使い込まれてきており、JOYに対する信頼
も確固たるものとなっている。
(蒼鷹丸二等航海士)
nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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