中央水研ニュースNo.17(平成9年9月発行)掲載

【研究情報】
蒼鷹丸搭載機器の紹介
--ジョイスティックコントロールシステム--
石井 裕二

 最新鋭のハイテク船と宣伝されて就航した4代目 蒼鷹丸は平成8年11月で3年目を迎えた。
 艤装時に初めて見たおびただしい数の最新機器類 へ戸惑い、習熟航海、引き渡し直後のびくびくしな がらの回航、不具合事項に関する造船所への対応、 本格的に始まった調査航海で発生したトラブルヘ の対応等々忙しい日々を経験してのあっという間の 月日であった。
 現在では種々の機器類の取り扱いにも十分に習熟 し、余裕もでてきた。
 本船装備の航海関係機器類の中で最も活躍し、こ れからの調査船の標準仕様として必需とも考えられ るものの1つにジョイスティックコントロールシ ステムが掲げられる。
 この装置のおかげで、風力階級7(13.9~17.1m/ sec)という荒天時においても円滑な海洋観測が可能 となった。
 本稿ではこの装置の性能を、平成9年1月の荒 天時に行われたCTD観測時の記録を基に紹介する。

ジョイスティックコントロールシステムの概要
 ジョイスティックコントロールシステム(以下、 JOY)は、オートスピードコントロール機能、自動 船首方位保持機能等を有する操船援助装置である。 希望する速力並びに船首方位をタッチパネル画面 上で設定するだけで、舵、プロペラ翼角、バウスラ スタ(回頭力制御装置)翼角、各々の制御ハンドル を一切操作することなく自動的に速力並びに船首方 位を保持し、ジョイスティックレバーのみでも微妙 な操船を可能にする装置である。
 オートスピードコントロール機能は、リングネッ ト、モクネスネット、表中層トロール等、2~5ノッ トの低速力の保持を重視する観測において使用さ れ、確実な速力保持ができ乗船調査員からも満足を 得ている。
 自動船首方位保持機能は、LNP,CTD観測等ワイヤ を鉛直に投入して行う観測作業で使用され、良好な 結果を得ている。特に、20日間の海洋観測で100回 以上の頻度で行われるCTD観測ではその性能が十分 に発揮されている。
 ジョイスティックモードは、黒潮域内等の海流の 強い海域において、風向と流向の関係が複雑な場合 に船首方位保持機能と併用し、速力調整を主な目的 として用いられている。
 次葉写真中央がJOYである。
JOYを使用したCTD観測について
 CTD観測は、風や潮流がほとんど無い凪であれば JOYを使用せずに船体をそのまま漂泊して行うこと ができるが、まず希なことである。CTD観測は右舷 前部甲板で行われるため、風力4以上の海況では風 を正船首から右舷10度程度の範囲に受け、決して 左舷から受けないように投入から回収までこの状態 を保持し続けねばならない。風を左舷や右舷正横方 向から受けたりしたならば、投入されたワイヤーが 船底に入り込んだり、船体動揺による急激な張力変 動によってワイヤーを痛め、高価な測器を亡失する おそれがある。
 JOYの性能を、平成9年1月23日、風力7と いう荒天下、海中1500mまで測器を投入したCTD 観測時の記録を基に紹介する。
<<調査時の海気象について>>
 1月21日常磐沖に達して急速に発達した低気圧 990hpaは、22日道東沖に達しその勢力を972hpaに 強めた。
 この間観測を待機していたが、低気圧の通過を待 ち23日正午頃より開始した。風速は落ちてきたも のの低気圧通過直後のため、大きなうねりは残って いた。有義波高は3.5mではあったが、時々4mを 越える波が襲来し、観測開始を躊躇するほどの海況 であった。
 大波によって船体が激しく動揺し、投入ワイヤーに たるみが生じ急激な張力変化が発生するため、投入 速度は通常の半分で行わなければならず、観測時間 は2時間を越えた。
 は当時の天気図で、●印が蒼鷹丸の位置であ る。
<<観測時の状態>>
1)対水船速は約0.2ノット(10㎝/sec)程度を保 持できていた。
2)設定船首方位に対する船首偏角を平均すると0.3 度で、船首方位保持機能は十分に発揮されていた。 最大偏角は左舷方向に17度偏ったが、2分以内に設 定方位に復帰していた。
3)相対風向は、平均すると右舷8.6度方向から受け ており、希望した船首方位保持を行うことができ た。
 JOY作動中、航海士が行った操作は、風向の変化や 投入ワイヤー傾角の変化に応じて船速と船首方位を 設定するだけであった。
4)観測の開始と終了時の船位から求めた船体移動距 離は1.0マイルであった。2時間に及ぶ観測中の移 動距離を速力にすると0.25ノットに相当し、荒天 下にしては移動距離は大変わずかで、定点保持効果 が認められた。
5)投入ワイヤー長は1600mを要し、所定水深と約 100mの差でほぼ鉛直(ワイヤー傾角20°)に投入す ることができ、観測時間の短縮にも役立った。

参考
観測時の風速変化
設定包囲に対する船首包囲と風向の偏角
おわりに
 調査観測中、船橋の航海士はたった一人で操船作 業、見張り、観測作業の監視や指示、野帳記入等を 行わねばならず、特に荒天時や船舶交通の輻輳する 海域においては、正に神経をすり減らす思いで当直 に当たっている。
 操船作業をJOYに任せる(もっとも100%信頼し てはならないが)ことにより、その分の注意を観測 作業の監視や見張り等に向けることが出来るように なり、一層安全確実な観測活動の遂行が可能となっ た。
 現在まで数多くの調査観測においてJOYは用いら れ十分に使い込まれてきており、JOYに対する信頼 も確固たるものとなっている。
(蒼鷹丸二等航海士)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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