中央水研ニュースNo.17(平成9年9月発行)掲載

【研究情報】
「五訂 日本食品標準成分表-新規食品編-」の公表について
飯田 遥、横山 雅仁

 日本食品標準成分表(成分表)は我が国における 食品成分の基礎データを提供するものであり、各種 給食等の栄養管理・栄養指導面はもとより、国民の 栄養・健康の維持への関心の高さから、複数の出版 杜からのダイジェスト版が一般家庭における食品の 栄養評価にも広く使われている。また、国民栄養調 査の実施、食料需給計画の作成などの行政や教育・ 研究面で活用されている。
 成分表は昭和6年に初めて発表され、現在広く用 いられている四訂成分表は昭和38年に作成された 三訂成分表を改訂して昭和57年に発表されたもの である。三訂では878食品であった収載食品数が 四訂では1,621食品と倍増している。
 四訂成分表が発表されて15年が経過し、この 間、四訂で測定した16成分以外の成分の収載に対 する要望に応えて、四訂日本食品標準成分表のフォ ローアップとして昭和61年に改訂日本食品アミノ 酸組成表、平成元年に日本食品脂溶性成分表、平成 3年に日本食品無機質成分表、平成4年に日本食品 食物繊維成分表、平成5年に日本食品ビタミンD成 分表、平成7年には日本食品ビタミンK、 B3、B12。 成分表が公表された。この結果、成分項目は廃棄率 や水分あるいはナトリウム量から計算する食塩相当 量などを含め37項目及び脂肪酸組成となった。し かしながらこれらのフォローアップでは、四訂成分 表に収載されている食品のすべてについて分析した わけではない。さらには、魚介類について述べれ ば、近年養殖や輸入が増加し、さらに流通機構の整 備によって、これまで地方特産でその地方でしか消 費されていなかった魚介類が広く流通するように なってきた。このため四訂成分表発表当時にはあま り馴染みのなかった種類の魚も大量に流通するよう になってきている。これは魚介類に限ったことでは なく、他の野菜や果物などの食品においても品種改 良によって成分値が変動していたり、魚と同じよう に輸入品の量や種類の増加が見られる。そこで、最 新の調査分析データに基づき成分表の一層の充実を 図ることになり、科学技術庁は平成6年に四訂成分 表の全面改定に着手した。
 中央水産研究所は東海区水産研究所の時代から食 品成分表の編纂に関わってきているが、この度、五 訂日本食品標準成分表-新規食品編-が発表された ことから、その慨要などについて紹介する。

「五訂 日本食品標準成分表-新規食品編-」の概 要
 五訂成分表-新規食品編-は四訂成分表の全面改 定の一環として、四訂成分表に収載されていない新 規食品の成分値をまとめたもので、平成9年3月28日 に発表された。本成分表には新たに分析した202 食品が収載され、そのうち魚介藻類が58食品 である。四訂成分表の全面改定が総て終了し、公表 されるまでの間、本成分表に収載されていない食品 については四訂成分表を参照することになる。
 四訂成分表の全面改定に付随して、食品成分の データベース化が検討されている。これは、各方面 の研究機関が分析した食品成分値も取り込もうとす るもので、そのためには分析方法の統一が必要とな る。そこで、食品成分分析マニュアルの作成も行わ れた。本成分表もこのマニュアルに沿って分析した 値を基本にしている。このマニュアルは、この原稿 を書いている時点では準備段階であるが、水研 ニュースが届く頃には発表きれているはずである。
 先にも述べたように、成分項目が増加したため、 これまでのB5版見開きからA4版見開きと大きく なった。成分値の扱いについては、四訂成分表では 「きくいも」と「こんにゃく」には主成分である糖 質に難消化性のイヌリン及びグルコマンナンが多く 含まれること、「藻類」及び」「きのこ類」について は「日本人における利用エネルギー調査」を行った ところ被験者ごとの測定値の変動が極めて大きかっ たことからエネルギー換算計数を定めることが困難 と判断し、エネルギー値を算出せずに「-」表示と なっていた。このため「-」と「0」と混同し、こ れらはいくら食べても肥満しないダイエット食品で あるとの誤解が生まれた。そこで、本成分表では魚 卵製品や藻類および板こんにゃく、きのこ類などに ついては Atwater のエネルギー換算係数(1g当 たり炭水化物4Kcal、脂質9Kcal、たんぱく質 4Kcal、いわゆる4・9・4係数)を適用して計算 し、藻類や板こんにゃく、きのこ類についてはさら に0.5を乗じた値を採用している。
 食物繊維は最近生理作用が見直されている成分で あるので、四訂成分表では炭水化物として糖質と繊 維(粗繊維)に分かれていたものを廃止し、フォ ローアップに関する調査報告Ⅳ以降、炭水化物とし て一項を設けるとともに、食物繊維の項を新たに設 け、プロスキー変法で測定している。今回の新規食 品編のうちの魚介藻類では海藻類で適用された。

「五訂 日本食品標準成分表-新規食品編-」にお ける水産物に関する記載
 最初に述べたように近年新顔の魚が増えてきたこ とに加えて、四訂成分表では幾つかの近縁の魚種を まとめて成分値を決めている場合があった。例え ば、マフグ、トラフグ、カラス、ショウサイフグ、 ナシフグなどの成分値は「ふぐ」の成分値で一括処 理している。「たら」の成分値はマダラとスケトウ ダラ、「こち」の成分値はマゴチとメゴチをまとめ たものであった。さらに、「さけ」はシロサケの分 析値をもって代表させていた。最近はスーパーマー ケットなどでも輸入ギンザケやアトランティック サーモンが販売され、これらのサケ類の成分値を一 つの値とすることにはいささか無理があるように なってきた。このような状況下で四訂成分表に未収 載の食品あるいは四訂成分表で幾つかの魚種が一括 して収載されてたものをそれぞれの魚種に分割した 成分値が要望されてきた。そこで、以下のような近 縁種の分割、及び新顔の魚の成分値が掲載された。
 四訂成分表の「かじき」はマカジキ、メカジキ、 クロカジキなど成分値を一括掲載していたのを削除 し、新たにクロカジキ、メカジキ、マカジキのそれ ぞれの成分値を掲載した。「かれい」は食用とされ るマガレイ、マコガレイ、アカガレイ、メイタガレ イ、ムシガレイなどを一括していたのを削除し、マ ガレイとマコガレイの成分値を掲載した。「こち」 はマゴチとメゴチを、「たら」はマダラとスケトウ ダラを一括して扱っていたのを削除し、それぞれの 成分値を掲載した。「さけ」として生はシロサケの みの成分値、「ます」としてカラフトマスとサクラ マスの一括値およびニジマスの成分値であったが、 最近各種のサケ・マス類が輸入されているので、新 たにギンザケ、アトランティックサーモン(大西洋 サケ)、ベニザケ、マスノスケ(キングサーモン)を 測定して追加し、「ます」を削除してカラフトマス、 サクラマス、海面養殖ニジマスのそれぞれの成分値 を「にじます」に追加して掲載した。四訂成分表で は「さけ」と「ます」が別建てになっていたが、上 記サケ・マス類はアトランティックサーモン( Salmo 属)を除き Oncorhynchus 属であるので 「さけ・ます類」でまとめている。「ふぐ」は前記の ような食用種を一括していた成分値を削除し、トラ フグ、マフグの成分値を掲載した。
 上記サケ類の他に四訂成分表の魚類分類に追加し た魚種として、「あじ」にムロアジを、イトヨリダ イにすり身の成分値を、「たい」にイシダイを、は ぎ類としてカワハギを、「まぐろ類」にビンナガと メバチマグロを追加した。四訂成分表にはアコウダ イが収載されているが、新たに「めぬけ類」として アラスカメヌケとオオサガを追加した。
 分割や追加でない種類として、アマゴ、イワナ、 オコゼ(オニオコゼ)、オヒョウ、カサゴ、シマダ イ、タカサゴ(グルクン)、チカ、ハマフエフキ、ヒ ラマサ、ホンモロコ、マジェランアイナメ(メロ、 ギンムツ、ミナミムツ)、メジナの14魚種、アゲ マキ、イタヤガイ、エスカルゴの3種の貝類、ブ ラックタイガーおよびキャビアが収載された。海藻 では、海藻サラダなどで使われるムカデノリと海葡 萄とも呼ばれるクビレヅタの2種が新規に収載され た。
 四訂成分表の分類に追加した食品については元か らある食品は四訂成分表の値をそのまま転載し、新 規の食品と比較しやすいように配列されている。一 方で、アマゴ、イワナはサケ・マス類にまとめても 良いと思われるが、一般の消費者がこの両種はサ ケ・マス類であると認識している率は少ないとの理 由で独立している。他の食品ではパン類とか卵類の ように食品別にまとめているが、魚類だけ「あじ 類」のように魚種別のまとめ方になっている。分類 学的にまとめた方が良いのか、食品的にまとめたら 良いのかあるいは総て標準和名の「あいうえお」順 に並べた方が良いのかの整理が必要なように思われ る。

(加工流通部食品特性研究室長、 利用化学部高分子化学研究室長)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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