旧ソ連・ロシアによる日本海における放射性廃棄物の
投棄海域で行われた第1回共同海洋調査を踏まえて、第
2回日韓露共同海洋調査(1995年8月15日~9月15日)が
前回と同様にロシア極東水理気象研究所所属
の調査船「オケアン」により行われた。調査に参加した
日韓露三ヶ国と国際原子力機関(IAEA)により、放射性
廃棄物の海洋投棄の影響を検討するための専門家会合
(1996年9月9~11日)がIAEAのモナコ海洋環境
研究所で開催された。
1.調査船「オケアン」による調査航海
第2回日韓露共同海洋調査は三ヶ国間の合意に基づき
「極東海域」とされた。その理由は、ロシア政府の主張
する相互主義により、旧ソ連・ロシアによる投棄海域か
らサハリン中部沖合、オホーツク海、カムチャツカ半島
太平洋沖合の5地点に、1955~69年に日本が行っ
た投棄海域から房総沖の3地点(ロシアの投棄量の0.1
%以下の微量で、継続した放射能調査も行われており、
汚染は全く認められない)、および1968~72年に
韓国が行った日本海の投棄海域から、1地点が加えられ
たからである。第1回の調査地点と併せると今回の調査
により、結果的には極東における放射性廃棄物の投棄海
域を一通り網羅した共同海洋調査が実施されたことにな
る。
調査航海には三ヶ国とIAEAから48名が参加した。日
本側調査団は科学技術庁(防災環境対策室)を事務局と
して、海上保安庁(水路部)、気象庁(気象研究所)、水
産庁(中央水産研究所)、日本原子力研究所、および日
本分析センターで組織された。水産庁からは専門調査員
として、吉田と森田技官が派遣された。
サハリン~カムチャツカ海域での前半の調査を無事終
了し、釧路に向かって航行中、霧の釧路港沖でパナマ船
籍の大型貨物船に激突、船首部を損傷するアクシデント
に見舞われた。1969年進水の老朽船であり修復が懸
念されたが、関係各位の努力により約3日間で応急修理
を終え、後半の調査地点でも、概ね予定通り海洋観測と
放射能分析試料(海水、海底土、プランクトン)の採集
を実施できたことは幸いであった。約1年後までに詳細
な放射能分析(137Cs,
60Co等のガンマ線放出核種、
90Sr,
239+240Pu,
238Pu)を終了し、海洋投棄の影響を検討す
るための専門家会合を行うことを約して調査航海を終了
した。
2.モナコ海洋環境研究所での専門家会合
本会合の参加者は同研究所からバクスター所長以下5
名、ロシア、韓国から各2名、日本からは6名(調査を
担当した各機関から各1名)であった。主な議題は①分
析結果について各国からの報告、②IAEA分析比較試料の
各国の分析結果の相互比較(分析値の信頼性の確認)、
③結果についての議論、④報告書のとりまとめ、⑤今後
の作業予定であった。全体で15名の小人数であり、主
要メンバーは「オケアン」乗船者でお互いに気心のわ
かった人々であったこと、座長を勤められたホビネック
博士(IAEA)の温厚なお人柄と洗練された議事進行によ
り、アットホームな雰囲気で実のある議論が行われた。
各機関から提出されたIAEA分析比較試料の分析結果は
良く一致し、分析値の信頼性は確認された。比較試料の
核種濃度に比べて採取試料の濃度はかなり低かったため、
分析機関によっては、分析下限値以下として核種濃度を
求め得なかった試料や他機関の分析値と比較して有意に
かけ離れた値が若干認められた。それら一部の分析結果
を厳密な検討(分析法、計測法、相互比較等)により除
き、評価に採用する分析値を決定した。
各試料の放射性核種濃度は各分析値の中央値で代表さ
せることとし、中央値をもとに各地点のインベントリー
や種々の放射能比の算出を参加者が分担して行い、それ
らの結果に基いて、放射性廃棄物の海洋投棄の影響を検
討した。検討の結果、「今回の調査海域において、地球
規模の放射性降下物以外の影響は認められない」とする
結論に達し、本会合の共同報告書を作成した。今後、外
交ルート等を通じて各国政府間の最終調整を行い、署名
及び公表を三国同時に行うことに合意し閉会した。
(海洋生産部海洋放射能研究室長)
nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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