中央水研ニュースNo.16(平成9年4月発行)掲載

【研究情報】
第2回日韓露共同海洋調査と専門家会合
吉田勝彦

 旧ソ連・ロシアによる日本海における放射性廃棄物の 投棄海域で行われた第1回共同海洋調査を踏まえて、第 2回日韓露共同海洋調査(1995年8月15日~9月15日)が 前回と同様にロシア極東水理気象研究所所属 の調査船「オケアン」により行われた。調査に参加した 日韓露三ヶ国と国際原子力機関(IAEA)により、放射性 廃棄物の海洋投棄の影響を検討するための専門家会合 (1996年9月9~11日)がIAEAのモナコ海洋環境 研究所で開催された。

1.調査船「オケアン」による調査航海
 第2回日韓露共同海洋調査は三ヶ国間の合意に基づき 「極東海域」とされた。その理由は、ロシア政府の主張 する相互主義により、旧ソ連・ロシアによる投棄海域か らサハリン中部沖合、オホーツク海、カムチャツカ半島 太平洋沖合の5地点に、1955~69年に日本が行っ た投棄海域から房総沖の3地点(ロシアの投棄量の0.1 %以下の微量で、継続した放射能調査も行われており、 汚染は全く認められない)、および1968~72年に 韓国が行った日本海の投棄海域から、1地点が加えられ たからである。第1回の調査地点と併せると今回の調査 により、結果的には極東における放射性廃棄物の投棄海 域を一通り網羅した共同海洋調査が実施されたことにな る。
 調査航海には三ヶ国とIAEAから48名が参加した。日 本側調査団は科学技術庁(防災環境対策室)を事務局と して、海上保安庁(水路部)、気象庁(気象研究所)、水 産庁(中央水産研究所)、日本原子力研究所、および日 本分析センターで組織された。水産庁からは専門調査員 として、吉田と森田技官が派遣された。
 サハリン~カムチャツカ海域での前半の調査を無事終 了し、釧路に向かって航行中、霧の釧路港沖でパナマ船 籍の大型貨物船に激突、船首部を損傷するアクシデント に見舞われた。1969年進水の老朽船であり修復が懸 念されたが、関係各位の努力により約3日間で応急修理 を終え、後半の調査地点でも、概ね予定通り海洋観測と 放射能分析試料(海水、海底土、プランクトン)の採集 を実施できたことは幸いであった。約1年後までに詳細 な放射能分析(137Cs, 60Co等のガンマ線放出核種、 90Sr, 239+240Pu, 238Pu)を終了し、海洋投棄の影響を検討す るための専門家会合を行うことを約して調査航海を終了 した。

2.モナコ海洋環境研究所での専門家会合
 本会合の参加者は同研究所からバクスター所長以下5 名、ロシア、韓国から各2名、日本からは6名(調査を 担当した各機関から各1名)であった。主な議題は①分 析結果について各国からの報告、②IAEA分析比較試料の 各国の分析結果の相互比較(分析値の信頼性の確認)、 ③結果についての議論、④報告書のとりまとめ、⑤今後 の作業予定であった。全体で15名の小人数であり、主 要メンバーは「オケアン」乗船者でお互いに気心のわ かった人々であったこと、座長を勤められたホビネック 博士(IAEA)の温厚なお人柄と洗練された議事進行によ り、アットホームな雰囲気で実のある議論が行われた。
 各機関から提出されたIAEA分析比較試料の分析結果は 良く一致し、分析値の信頼性は確認された。比較試料の 核種濃度に比べて採取試料の濃度はかなり低かったため、 分析機関によっては、分析下限値以下として核種濃度を 求め得なかった試料や他機関の分析値と比較して有意に かけ離れた値が若干認められた。それら一部の分析結果 を厳密な検討(分析法、計測法、相互比較等)により除 き、評価に採用する分析値を決定した。
 各試料の放射性核種濃度は各分析値の中央値で代表さ せることとし、中央値をもとに各地点のインベントリー や種々の放射能比の算出を参加者が分担して行い、それ らの結果に基いて、放射性廃棄物の海洋投棄の影響を検 討した。検討の結果、「今回の調査海域において、地球 規模の放射性降下物以外の影響は認められない」とする 結論に達し、本会合の共同報告書を作成した。今後、外 交ルート等を通じて各国政府間の最終調整を行い、署名 及び公表を三国同時に行うことに合意し閉会した。

(海洋生産部海洋放射能研究室長)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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