中央水研ニュースNo.16(平成9年4月発行)掲載 | |
【研究調整】
山澤正勝
平成8年11月28日に標記会議が中央水産研究所で開催 された。この会議は、水産物の利用加工技術の向上を目 的として、水産物の利用加工に係わる産・官の交流、相 互理解、協力を深めるために、中央水産研究所所長が主 催し、年1回開催される。参加者は民間・団体33人、農 林水産省7人、中央水産研究所23人であった。 本会議では、事務局より、昨年の本会議で認められた 「水産物利用加工技術研究会」の会則について説明し、 了承された。今後、民間懇として、水産物利用加工に関 する情報と技術の交流を図り、研究開発の振興に寄与す ることを目的とした研究会を開催することとなった。 次いで、平成9年度食品流通局、水産庁の利用加工関 連事業について関係各課から説明がなされた。また、水 産加工室長より今年10月発足予定の水産加工課の組織の 概要について説明がなされた。 最近の利用加工関係研究の紹介では、中央水産研究所 利用化学部の村田主任研究官が「水産脂質の栄養生理的 評価」について報告し、アサリ中にEPAやDHAと同 様の機能を有するn-3系の脂肪酸の存在が認められ、特 に免疫機能へ影響を与える可能性のあることが示された。 また、日本水産中央研究所塩谷研究員は「脂肪組織の分 布状態による養殖魚の肉質評価」について報告し、養殖 魚の脂ののり具合の新しい有効な評価法が紹介された。 次いで、食品総合研究所一色上席研究官から「食品の 安全性確保-病原性大腸菌や遺伝子組換え食晶対策につ いて」、東京水産大学藤井教授から「水産物の微生物制 御」の話題提供があり、病原性大腸菌0-157を中心に食 品の微生物汚染とその制御を主たるテーマとして討論を 行った。 まず、病原性大腸菌0-157による食中毒については、 昨年5月に岡山県からはじまり、その後大阪府堺市で大 規模に、さらに全国で発生が認められた。しかし、原因 食品や感染経路が特定できないため、また、予防ワクチ ンや発症後の治療法が確立されていないため国民の食生 活に不安をもたらし、特に生で食べる野菜や生鮮魚介類 に大きな影響を及ぼした。このような危害に対しては、 食料の生産から消費までの一貫した新しい衛生管理手法 HACCP(危害分析重要管理点監視方式)の導入が有効と 考えられており、農林水産省では早速、病原性大腸菌0-157 対策としてHACCP方式の考えを取り人れた「かいわれ 大根生産衛生管理マニュアル」を作成した。しかし、 HACCP方式は、製造工場内のような汚染区域と非汚染区 域とが分けられる場合は非常に有効であるが、野菜のよ うに自然環境では限界のあることが説明された。 また、病原性大腸菌O-157がすでに国の内外に広く分 布している状況下において汚染防止を図るためには、食 晶製造現場における担当者はもちろんのこと、管理部門、 販売も含めて食晶を取り扱うすべての人が基本的な取り 扱いを確実に実行してもらいたいこと、とくに工場の従 業員の一人でも手抜きをすれば汚染防止対策が成り立た ないことが強調された。 さらに、水産物の病原性大腸菌0-157による汚染は、 現在までのところ、公的機関の検査及び民間の自主検査 のいづれからも確認されていない実状が明らかにされた が、二次汚染による危険性は常にはらんでおり、今後と も国による発生源対策や二次汚染防止対策への取り組み が要望された。 一方、水産物による食中毒に関係の深い微生物は腸炎 ビブリオであり、昨年も新潟県で腸炎ビプリオに起因す るべニズワイガニによる集団食中毒事件が発生した。腸 炎ビブリオは非常に増殖速度が速く、最適な条件下では 7~8分で世代交代を繰り返し、lgの魚肉の最初の菌 数が100個と仮定すると、夏場の室温に2時間も放置さ れると10万個にまで増える可能性があること、腸炎ビブ リオの食中毒発症量は1g当たり100万個であり、これ を10g食べれば食中毒にかかる可能性のあることが説明 された。その他に、サバやカツオの赤身魚に生成される ヒスタミンによるアレルギー様食中毒やポツリヌス菌食 中毒の発生原因およびその制御等についての説明があっ た。 今回の講演及び討論を通じて、今後、水産業界におい ても、より安全性の高い水産物を国民に提供していくた めには、漁獲後の船上での取り扱いから、市場を経て加 工場、消費者に至るまでのHACCP方式のチェーンの確立 の必要性を強く認識させられた。 (前加工流通部長現利用化学部長)
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