中央水研ニュースNo.16(平成9年4月発行)掲載

【研究情報】
OECD水産委貝会の成果とこれからの漁業管理研究
中西 孝

 先進工業国が構成メンバーであるOECD(経済協力 開発機構)水産委員会ではここ5年近く海洋生物資源管 理の経済的側面を集中的に研究してきた。この会議や専 門家会合に何度か出席する機会に恵まれたので,ここで 行われた研究の概要とこの成果を今後の漁業管理研究に どのように利用していくかを示したい。

1.0ECD水産委員会と議論の経過
 0ECDは1960年にフランスのパリで設立された 機関で,この機関は直接的な投資や経済的助成を行なう のではなく,社会・経済のすべての分野でよりよい政策 を研究し,さらに国内政策と国際政策の軋櫟を少なくし, 加盟国が多面的に協力する機関である。1)
 水産委員会では水産関係の経済社会産業動向をOECD 事務局の農業局水産課の協力のもとに研究・検討して いる。現在の議長は水産庁野村参事官が勤められている。
 OECD加盟国の水産業を見ると,漁獲量は日本,ア メリカ,ノルウェーの順に多く,水揚げ金額では日本, ノルウェー,米国の順となり,摂取蛋白質のうち魚の占 める割合はアイスランド,日本,ポルトガルの順となっ ている。
 0ECD水産委員会において実施された経済的助成に 関する論議において,経済的助成が漁獲努力量等を増大 させ,乱獲や過剰装備等につながるとの指摘や,経済的 助成について検討するよりは漁業管理研究を国際協調し て行なうことのほうが重要であるとの指摘から,IQ (漁獲量個別割当制)に関するワークショップ (1992年)2), 取り締まりに関するワークショップ (1993年),統計に関するワークショップ (1994)が開催された。さらに経済的助成に関する 専門家委員会では漁業管理の研究・論議が引続いて行わ れた(1993年~1996年)。この研究が行われた 当初は漁獲可能量(TAC)による漁業管理の情報が乏 しく,この研究に参加することによって得られた成果は 現在のTAC等に関する研究の基礎となっている。

2.加盟国の漁業管理の概観
 多くの国における漁業管理の目的は食糧生産と地域振 興だが、漁業がメインの産業ではないオランダでは生物 種の存続である。日本は「海洋生物資源の保存及び管理 に関する法律」(示唆に富んだ内容ですのでご一読をお 薦めします)の中で海洋生物資源の保存及び管理を図り、 漁業の発展と水産物供給の安定が目的とされている。一 般的に漁業管理は沿岸3~12マイルを地方自治体、そ れ以遠~200マイルを国が行なう。主としてTAC制 により管理されているが、これ以外の参入制限等の漁獲 努力量規制や技術的規制による管理も行われている。そ れぞれの地域にねざした自主的な管理組織がある。ノル ウェーやオーストラリアでは企業が取り締まり経費等を 負担し、取り締まり経費の内部化が行われている。

3.漁業管理手法
 OECD水産委員会では漁業管理手法を次の3つに分 類して検討を行った。
産出量規制(Output controls)として漁獲可能量(TlAC)、 個別割当(IQ)、漁期別漁獲割当等の漁獲量を 規制する手法。0ECD加盟国24国中18国でTAC を利用。TACによる漁業管理はEU等の国際的な機関 でも行われている。免許制、漁具、漁船、漁期、操業時 間、漁場等の規制等の投入量規制、技術的規制の組合わ せによる漁業管理が行われているが、効果を上げている 事例は報告されていない。IQはTACを個々の漁業経 営体に配分して漁業管理する手法で、24国中10ヵ国 でIQによる管理が行われている。IQは資源の配分と 財の分配を結果的には同時に行なうことになり・配分分に 求められる「効率」(生産性を配慮した漁獲量枠の個別 割当)と分配に求められる「公平または公正」(皆が満 足する)を満たす必要がある。このIQが譲渡可能とな ると譲渡可能個別割当制(ITQ)となり、配分の効率 と分配の公正を「市場」にゆだねることになる。
投入量規制(Input Controls)として免許制、個別漁獲 努力量割当(IFQ)、漁獲努力量規制等の参入・漁獲 努力量の規制の手法。
技術的規制(Technical measures)として体長・性別 漁獲規制、漁期・漁場規制等の漁獲努力量の規制の手法。
 我が国の漁業制度で漁業管理に関係するのは、前述の 法律により②、③に加えて①の産出量による手法も加わ り、すべての漁業管理手法が制度として整備された。

4.漁業管理組織
 管理組織としては地域杜会、国レベル、国際的な組織 等の地域の大きさにより管理や取り締まりが異なり、地 域社会では漁業者の直接的な参加も多くなるが、国や国 際レベルでは直接的参加は少なくなる。
 地域社会レベルでの検討では漁業管理組織・手法とし て共同漁業管理(Co-management)に関心が持たれてお り、これは資源状態、市況、漁業管理手法等の情報の流 れ、漁業の利用者の総意等における政府と漁業の利用者 との権利と責任の分担と考えられ(漁業者と行政庁が責 任分担して漁業管理を推進する)、トップダウンではな くボトムアップによる漁業管理と考えられる。日本、デ ンマーク、オランダから詳細な報告が行われた。
 我が国は現在推進中の資源管理型漁業を事例報告し、 この研究へ大きな貢献が出来た。この資源管理型漁業は 共同漁業管理であり、この特徴は免許・許可制度を基盤 においた漁業管理構成員の限定化、漁業協同組合の漁業 管理組織への貢献、海区漁業調整委員会の役割、知事許 可漁業のもつ漁業管理としての側面、行政庁の制度や財 政的援助、地域社会の均質性等が検討された。
 共同漁業管理では漁業管理費用と漁獲費用が減少し、 この柔軟性は多くの利益を生み(例えばオランダでは漁 獲割り当ての利用が改善)、取り締まり経費も減少して いる。これらの3カ国の漁業者は経済的安定性が増し、 経済的リスクが減少しているとの指摘があった。日本の 共同漁業管理に関しては安定性が特に強調された。

5.おわりに
 今回の研究を通じて先進工業国は漁業管理にあたって はTACのみではなく、許可・免許制度、漁獲努力量規 制等との併用で漁業管理を行なっていることが明らかに なった。このTACと投入量規制、技術的規制の組合わ せによる漁業管理は現在の管理組織のもとでは効果を上 げている事例はなく、TACを個別割当することにより 効果の見られる事例があり、さらにTAC,IQ,IT Q等と共同漁業管理(行政と漁業者が責任を分担して漁 業管理)の組合わせによる管理手法の有効性が指摘され た。
 我が国の免許・許可制度はいわいる遠洋漁業として公 海における漁業もカバーしており、他の国の自由参入と は、大きな違いを見せている。この免許・許可制度は漁 業管理の立場からみると漁業管理の権利と貢任分担を明 確にするとともに、参入制限により漁業管理の組織化が 容易になる。現在我が国で推進されている資源管理型漁 業は共同漁業管理として、高い評価を受けた。
 これらの成果をもとに、我が国で従来から利用されて きた漁業管理手法をソフト面での貴重な財産として再評 価し(特に意思決定と合意形成においては豊かなノウハ ウが蓄積されている)、さらに今回整備されたTAC制 度を組合せて「効率」と「公正」を達成する漁業管理の 仕組を調査・研究したいと考えている。さらに取り締ま りの強化だけに頼るのでなく「まともな漁業活動」がス ポイルされることのない漁業管理手法も検討したいと考 えている。このことは地域にねざした自主的な漁業管理 を県レベルや国レベルにも拡げる重要な点と考える。

(経営経済部漁業管理研究室長)
1)詳しくはホームページ(http://www.oecd.org)を参照ください。
2)このワークショップの提出論文等はThe use of individual quotas in fisheries managementとして1993年にOECDより刊行されています。
3)OECD水産委員会の総合報告書(1996)(未定稿)による。

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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