中央水研ニュースNo.16(平成9年4月発行)掲載

【情報の発信と交流】
平成8年度栽培漁業開発推進事業太平洋中ブロック協議会報告
廣瀬慶二

 この会は平成6年度から始められた日本栽培漁業協会 (日栽協)が主催する会議である。全国を太平洋北、太 平洋中、日本海、瀬戸内海、九州・南西諸島ブロックに 分けて、栽培の技術に関する研究及び開発について討議 する場である。本年度は三重県鳥羽市で10月23日に 会議がもたれ水産庁開発課、中央水産研究所、中央ブ ロック各県の試験研究機関、日栽協が参加した。会議は 当研究所の座長で全国共通課題とブロック内の課題に分 けて話が進められた。
 全国共通課題では、
1)疾病対策:
初めに日栽協が進めたウイルス性神経壊死症(VNN,Viral Nervous Necrosis)の 防御技術開発の現状と今年度から建設を開 始したウイルスのための隔離飼育施設の状況について説 明があった。これからウイルスフリーの親魚育成を目指 すことになるが、親魚数が限られるので遺伝子の多様性 の問題が起こることが考えられる。VNNについてはシ マアジでの検査手法はできたが、他の魚種に応用できる かどうかを検討する必要があるとの指摘があった。
 つづいてクルマエビのウイルス性疾病PAV(Penaeus japonicus Virus)の 検査方法についで説明があり、 現在用いられているPCR(ポリメラーゼ連鎖反応、 Polymerase Chain Reaction)法は感度は非常に良いが 核酸抽出の操作上でコンタミによる誤診があるとの指摘 があった。その対策として抗原抗体反応を利用した ELISA(Enzyme-linked Immunosorbent Assay)法の利 用が可能であることが報告された。
 平成8年1月のPAV対策会議で確認した「ウイルス を持ち込まない、持ち出さない、出さない(発症させな い)」のコンセプトにより今年度の発症例は減少した。 しかし、親エビの検査では検出されなかったが中間育成 後の放流前にウイルスが認められた例があり、その原因 についても討論があった。
 2)ヒラメの無眼側体色異常魚の出現要因の究明と防除対策:
ヒラメは全国で2,100万尾以上が放流され、 漁獲の10%以上が放流魚で占められるまでになってい ることから、日栽協は全国でヒラメ価格のアンケートを 行った。その結果、体色異常魚の価格は正常魚の3~8 割の値段であった。平成7年度からこの対策に取り組ん でいるが、さらに強化するために平成9年1月に情報交 換会を開くとの説明があった。各県の種苗生産機関では 栄養強化により体色異常は改善しているが、高密度飼育 のストレスによる発生もありうるとの興味深い指摘も あった。

 ブロック内の課題では、
 1)親クルマエビの養成技術:
初めに日栽協百島分場での成果が報告された。産卵 は卵巣の成熟状態と関係が深く、卵巣卵の表層胞が発達 している個体の75%以上が産卵する。環境との関係で は水温25℃で15時間以上の長日処理が有効である と報告された。さらに、卵巣の生検による熟度判定法が 紹介された。
 2)健苗性:
現状では受精率、照化率や産 卵盛期等により量産するかどうかの判断をしている。中 央水研が開発した生化学的手法も健苗性の判定に有効と 考えられるが、短時間に行えるかが問題であるとの認識 が示された。さらに、今後は遺伝子の多様性や疾病への 感染についても考慮した総合的な判断が必要である。
 3)ワムシ培養法の再検討:
各県からの現状の報告では、 ・高密度培養を取り入れた県と従来の培養法を続けている 県があるが、いづれの方法でも確立しておらず、各機関 で培養法の確立のために一層努力する必要があるとの認 識が示された。
 4)トラフグの養成親魚と採卵技術の開発:
漁場の状況により親魚を確保することが困難である との問題提起があった。続いて、現在養成親魚から採卵 に成功している例が報告された。また、中央水研からト ラフグは自然産卵で良質な受精卵を得にくい種であり、 生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)のコレス テロールペレットにより排卵させ受精卵を得ている例を 紹介した。
 全国協議会には全国共通問題の他いくつかのプロック 内の問題を事務局と幹事県で選び提案することとし会議 を終了した。栽培漁業では、経済的な側面以外では疾病 と生物多様性に係わる問題を今後避けて通ることが出来 ないとの印象が一段と強くなった。特に、当研究所生物 機能部は共通基盤的研究として遺伝的多様性に係わる問 題への取り組みが必要となろう。

(生物機能部長)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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