中央水研ニュースNo.16(平成9年4月発行)掲載

【情報の発信と交流・研究室紹介】
加工技術研究室(加工流通部)
Food Processing Section, Food Processing and Preservation Division

加工技術研究室の目指すもの
 「従来型加工技術の原理を解明し、それに基づいて水 産物の個々の特徴を生かした加工技術の改良、開発、省 力化・省エネルギー化、種々の先端技術導入による新技 術開発、及び食品素材化技術の開発に資する」が、平成 元年における機構改革での加工技術研究室の設置主旨で す。
 現在、当研究室では、設立主旨に基づき、主として魚 肉タンパク質の特性の解明および利用加工への応用研究 を行っています。特性に関わる研究の中では、特に、魚 介肉タンパク質のゲル形成機構の解明が中心になってい ます。魚肉に塩を加えてよく擂り、加熱すると独特の弾 力を持ったカマボコになります。これをゲルと呼びます が、この食感は魚肉と畜肉で著しく異なり、また魚種間 でも大きな差があります。こうしたゲルが形成される機 構については、多くの研究者が精力的に研究し、魚肉タ ンパク質の主要成分であるミオシン重鎖の多量化反応や タンパク質間の非共有結合などの関与が明らかにされつ つあります。しかし、魚種間のゲルの性質の違いや強弱 をもたらす因子については、十分に明らかにされている とは言えません。そこで、ゲル物性に及ぼす各種添加物 の影響に関する研究から魚のゲル形成能の特性を明らか にしようとしています。また、魚種間のゲル物性の差異 はその分子構造にあるのかもしれないということで、ミ オシンの一次構造からゲル化機構を解き明す試みも始め ようとしています。
 こうした研究以外にも、未利用資源の利用ということ で、加工排水中に廃棄されている水溶性タンパク質を回 収し超高圧によって組織化する研究など、様々な利用加 工に関わる研究も遂行しています。
 魚肉ゲルに関する研究は、旧東海区水産研究所以来の 課題であるために旧態依然の研究と考えられがちですが、 この課題は水産生化学上根源的な魚肉タンパク質の特性 に関わる問題を含んでいるため、水産利用加工上最も重 要な研究課題であると考えています。新しい切り口から この研究を推進することにより、今まで利用されていな かった魚やゲル形成能が弱くて利用できない魚から魚肉 タンパク質を取り出してゲル形成能を付与したり、加工 適性を調節したりして新しい食品素材として活用できる ことが可能になり、水産資源の生産効率、利用効率を高 めることができるものと期待しています。

世界に飛躍する加工技術
 当研究室では、オーストラリアをはじめアメリカ、中 国、中米などの水産あるいは食品関連研究所と積極的に 研究交流を図っています。その中で、最近、つくばにあ る国際農林水産業研究センターの側面支援と言う意味も あって、中国産淡水魚の利用加工に関する研究を始めま した。淡水魚には克服すべき課題も多いのですが、その 利用技術の開発は、今後の世界的な食料不足を克服する 上での有効な方策の一つと考えられます。さらに、今ま での海産魚中心の研究に新たな知見を与えてくれるもの と期待されています。
 こうした内外での研究を通じ、日本の優れた水産利用 加工技術および知識を広め、世界の食糧事情に貢献した いと考えています。

(中村弘二)
参考写真
淡水魚類の中で世界最大の生産量を誇るハクレンのすり身化試験(上海市において)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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