第3回酸処理剤検討委員会
【研修と指導】
第3回酸処理剤検討委員会
杉山 元彦

 海苔養殖の現場では、その養殖過程で葉体に付着し、品質の低下や病害をもたらす雑藻類等の駆除を 目的として、様々な酸処理剤が使われている。この酸処理法は昭和50年代の前半から使われはじめ、54 年末頃には全国的に普及したと言われている。
 しかし、その普及にともなって、海苔の食品としての安全性や漁場環境への影響を懸念する声があが りはじめた。
このため、昭和59年9月に水産庁から、①酸処理剤の成分を食品添加物として認められており、かつ天 然の食品中に含まれ、自然界で分解されやすい有機酸に限定すること、②残液についても中和等、適正 な処理・処分を行うこと、③酸処理剤の使用にあたっては、都道府県の試験研究機関の指導に従うこと、 を骨子とした次長通達が出されている。
 この次長通達をうけて、全国漁業協同組合連合会(全漁連)ならびに全国海苔貝類漁業協同組合連合 会(全海苔連)は系統内指導指針を作成し、会員を指導するとともに自主的に酸処理剤の適格性審査を 実施してきた。
 しかし、酸処理剤に関する基本特許期間が終了したことにより、今後その種類やメーカーの増加が予 想され、また、省力化を目的とした酸処理船の導入等、従来とは異なる使用方法が近年、普及しはじめ た。このため、全魚連と全海苔連は今後の対応を検討することとし、平成7年度から学識経験者等で構 成する酸処理剤検討委員会を発足させ、

①安全性の評価方法及び基準
②有効性の評価方法及び基準
③成分の許容範囲
④使用方法
⑤残液の廃棄方法

等に関しての検討を開始した。筆者も委員の一人としてこの委員会に参加し、漁場環境保全の立場から、 これらの諸問題に関する論議に加わった。

   酸処理剤を開発あるいは改良する立場からすれば、その効用を高める方向に力点を置くことは当然の ことと考えられる。しかし、酸処理剤は主として雑藻等の生育を抑制または排除するために用いられる ものであり、これがノリ漁場で使用されると、その効用が高いほど、ノリ以外の生物に与える影響等、 その海域の生態系に与えるストレスが大きくなる危険性は否定できない。国連海洋法条約や生物多様性 条約等に見られるように、生態系の保全は社会的・国際的ニーズとなっており、酸処理剤の開発や使用 にあたっても、生態系に対する悪影響を可能な限り低減することを考慮に入れる必要がある。
 この様な見地から、筆者はこれまでの検討委員会の場でも、酸処理剤の使用や残液処理の方法に加え て、第3者機関による海産魚介類に対する酸処理剤の毒性試験を今後とも実施し、その結果を適格性審 査の主要な判定基準とすることの必要性を強調して来た。また、その許容基準をとりあえず、アサリ等 の生態系を構成する生物に対する影響がある程度解明されている、従来の標準的な酸処理剤の値を参考 にすることなども提案した。
 また、近年、酸処理剤はその効用を高める成分が多様化し、かつ、栄養剤と称する種々の成分も混合 されるなど、酸処理剤の成分は複雑になる傾向が強い。その一方で、生態系を保全するためにも、また、 海苔の食品としての安全性を保障する上でも、酸処理剤の使用にあたっては、その組成を把握しておく 必要がある。このため、筆者は成分の分析方法についても検討を行い、いくつかの提案を行った。しか し、組成の不明な混合物中にどのような物質が、どの程度の割合で含まれているかを分析することはか なりの困難を伴うことが多く、適格性審査申請時の所用時間の短縮や費用の節減のためにも、メーカー による組成表提示の制度化の必要性を提言した。
 なお、8月30日に開催された第3回酸処理剤検討委員会では、これまでの論議の取りまとめを行った が、その結果は全漁連や全海苔連に対し、答申の形で報告される予定である。

(前環境保全部長 現内水面利用部長)


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