生物検定研究室(環境保全部)Bioassay Section, Environment Conservation Division
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研究室紹介・生物検定研究室(環境保全部)
Bioassay Section, Environment Conservation Division
村上 眞裕美、阿部 信一郎

 生物検定とは、生物の反応を用いてある特定の物質の量などを測定することであり、従来から行わ れているフグ毒、貝毒の測定などはこの一例であろう。ところで当研究室には生物検定という研究室 名の前に環境保全という冠がついており、このことからお分かりいただけるように、当研究室では主 に環境(特に海洋環境)を汚染する物質の毒性を、水生生物を用いて測定する方法を研究しており、 その研究成果が水産資源の維持あるいは増大に寄与する事を最終目的としている。
 生物検定研究室としての歴史は、平成元年の東海区水産研究所の機構改革に始まり、比較的歴史は 浅いが、研究の実質的歴史は古い。環境汚染が世間で問題視され始めた頃、現在の国立環境研究所( 設立時は国立公害研究所)は設立されておらず、国立の研究機関では水産研究所の研究が主なもので あった。したがって水産研究所での環境汚染の生物影響に関する研究の歴史は古く、当研究室の研究 は淡水区水産研究所及び東海区水産研究所水質部の生物環境研究室の研究が土台となっている。
 当研究室の最近の研究は、海産魚類を用いた急性毒性試験法及び慢性毒性試験法の開発ならびに毒 性評価指標の研究を中心としている。試験法の開発ではいまさら急性毒性試験の開発をして何になる と怪訝に思われるかもしれない。確かに淡水魚を用いた急性毒性試験法はほぼ確立し、実用化されて いるが、意外なことに海産魚を用いた急性毒性試験は我が国では開発されていないのである。検討の 結果、魚種としては汚染物質に対する感受性(どの程度の濃度で影響を受けるか)の高いこと、入手 しやすいことなどを考慮してマダイ、シロギス、アミメハギを選定した。
  また、紙面の都合で詳細は書けないが、試験条件も各魚種毎に定めている。海産魚を用いた急性毒性 試験法がほぼ確立されたため、次なる目標である海産魚を用いた慢性毒性試験法の開発を現在進めて いるところである。
 以上は試験方法開発に関しての研究紹介であるが、ある化学物質に生物を曝露したとき、その生物 がどのような反応あるいはどのような影響を受けるかといった影響評価指標の研究も行っている。例 えば重金属結合タンパクであるメタロチオネイに関する研究では、マダイ肝臓から本タンパク質を単 離・精製し、そのアミノ酸配列をほぼ決定し、さらに遺伝子レベルでの発現を調べつつある。また、 魚類血液成分の変動に関する研究は、人間あるいは哺乳動物の健康診断と同様に、魚類でも環境汚染 物質による影響を臨床検査項目により診断しようとするものである。ただし、魚類では一部の酵素で 臓器特異性が認められ、血中でその酵素の活性が変動した場合、特定の臓器の傷害を推測できるが、 その他の項目では魚類の生理機構などとの関係が十分明らかになっていないためその診断意義が必ず しも明らかになっておらず、人間の健康診断と同様の評価を行うにはさらに多くの研究が必要となっ てくるであろう。

(前生物検定研究室長 現水質化学研究室長)


マダイの飼育水槽
 
庁舎本館から試験地眺望


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