【研究情報】
宇宙開発事業団(NASDA)との共同研究の本格的始動
-衛星観測システムの海洋系研究及び水産業への利用のための基盤技術に関する研究-
奥田邦明

平成8年度第2回研究成果報告会の開催
 平成8年8月17日ADEOS衛星(みどり)が成功裡に打ち上げられ、中央水産研究所と 宇宙開発事業団(NASDA)との共同研究「衛星観測システムの海洋生態系研究及び水産 業への利用のための基盤技術に関する研究」が実質的なスタートを切ることとなった。
 ADEOS衛星は、搭載各センサーとシステムの慎重なテストを経て順調に作動すること が確認された後、11月から本格的な観測に入った。受信された素画像は、NASDAのホー ムページを通して公開されており、共同研究の対象となっている我々が最も関心を持つ OCTS(海色海温走査放射計)についても最新の画像を見ることができる。この画像は、 現場観測データにより補正されていないため、現在それらから知ることのできるのはご く定性的な特徴に限定されるが、中規模の渦とリンクした興味あるクロロフィル分布の 特徴が捉えられている。また、水温分布も分解能が700mとNOAAの海面水温センサー (AVHRR)に比べて解像度が倍になったため、これまでのNOAA画像には見られなかった パターンが現れている。これらの特徴は、今後共同研究で水産チームが実施する現場観 測との比較によって検証され、実態が解明されることになるだろう。これからの本格的 な研究の進展が期待されるところである。
 中央水研ニュース第14号で熊田海洋生産部長が報告したとおり、中央水産研究所は平 成7年12月の共同研究契約の締結を受けて、水産庁研究所、都県水産関係試験研究機関 及び学識経験者からなる「海洋生態系観測システム研究会」(会長:原 武史中央水産 研究所長)を結成し、研究集会の開催等を通して、研究計画の絞り込み、観測・分析手 法の標準化等、効率的な研究推進に向けて準備を行ってきた。11月18・19日の両日、こ れまで実施してきた作業を総点検し、問題点の解決と精度の高い研究の実施に向けて最 終的な研究態勢の調整を図るため、宇宙開発事業団地球観測データ解析研究センターに おいて、平成8年度第2回研究成果報告会を開催した。
研究会では、水産チームとして協力して実施すべき重要課題、効果的な研究推進のため 早急に解決すべき問題への対応策及びNASDAの今後の衛星観測計画を踏まえた共同研究の 将来構想等に関して意見交換が行われ、以下の合意が得られた。重要研究課題これまでの 各チームの検討結果を踏まえ、本共同研究において水産チームが協力して向かうべき調査・ 研究の目標を以下の3点に集約した。

(1)高精度現場データの収集と衛星データの検証
 ADEOS/OCTSデータは、現場検証データにより補正・検証されてはじめて、定量的に信 頼されるデータとなる。共同研究における水産チームの最も重要な任務は、現場観測に より、衛星データを補正するための水温・クロロフィルデータを収集し、衛星画像が正 しく海洋の緒現象を捉えているのかの検証を行うことである。同データは、我が国のみ ならず諸外国のユーザーに配布されることから、水産チームの研究成果が衛星データの 精度を左右することになり、その責任はきわめて重い。そのため、高精度な信頼できる 現場データをできるだけ多く収集することを水産チームの最優先課題として取り組む。
(2)海洋基礎生産力の把握
 ADEOS/OCTSが直接観測するのは表層のクロロフィル分布であるが、地球環境研究、海 洋生態系研究にとって重要な情報は、植物プランクトンバイオマスであり、また、海洋 基礎生産力である。OCTSデータと詳細な現場観測、綿密な既存海洋観測データ解析を総 合することにより、これらに関する一定の評価が可能である。そのため、参加機関は協 力して現場検証データの収集に加えて、生産力評価のための観測と評価のための手法開 発に取り組む。
(3)漁場形成機構の理解と漁場探査への活用
 OCTSは水温分布とクロロフィル分布を同時に測定する。水温分布は海況の指標であり 、クロロフィル分布は餌料環境の指標とみなすことができる。
OCTSあるいはOCTSの簡易型受信解析装置(DTL)による水温・クロロフィルマップと漁場位置を比較することに より、これまでの水温分布だけに基づく手法に比べてより確度の高い漁場探査手法開発 の可能性がある。
 一方、漁場位置とOCTS画像との単なる重ね合わせではなく、海洋構造、動物プランク トン、魚群分布等の現場観測を踏まえた解析により、漁場形成機構に関する新しい知見 が得られることが期待される。各チームは漁場形成機構の理解に基づいた新しい漁場探 査手法の開発を目指す。

問題点と対応策
 これまでの取り組みを踏まえ、各機関から早急に解決すべき事項に関していくつかの 指摘があった。多くの機関から指摘されたのは、クロロフィル分析手法の標準化の必要 性であった。また、DTLの調査船への設置に関して、観測面、予算面からいくつかの障害 があること等の指摘があった。研究会における意見を踏まえて事務局で検討し以下の対 応策を決定した。
(1)クロロフィル分析手法の標準化と観測精度管理システムの導入
 水産チームが多くの機関の集合体であること、担当者が必ずしも専門家ではないこと 、試料の採取から分析まで相当の日数がかかる事態も予想されること等から、一定以上 の精度を持つ高品質のデータを継続的に収集するためには、分析手法の標準化と何らか の精度管理システムの導入が必須である。そのため、①抽出溶媒には抽出力と保存性に 優れたDMF(N,N-dimethylformamide)の使用を原則とする、②定期的に標準検体の分析 を全機関で実施するとともに、航海ごとに採取する一定数以上の複数サンプルの相互分 析を行い、分析精度の管理を行う、③観測から分析に至る総合的なクロロフィル観測マ ニュアルを作成する、等の対応を決定した。
(2)DTL観測への対応  DTLの調査船への設置には多額の工事費がかかることのほか、調査船に設置した場合、 常時モニタリングを実施できない等研究推進上も問題があるとの指摘があった。この件 については、現在すぐに調査船に配備できない機関は、当面研究所に設置してモニタリ ングを行うこととし、次年度のドック時における工事の可能性や研究の進捗状況等を総 合的に判断して、調査船へ移設すべきかどうか決定することにした。
 その他、現場検証データの迅速流通方法、クロロフィル鉛直分布観測への水中蛍光光 度計の利用可能性、来年春季に予定されている三陸沖フィールドキャンペーンについて 意見交換を行い、それぞれ対応を決定した。

共同研究の将来構想
 共同研究は始動したばかりであるが、共同研究契約の期限が平成9年3月であること から、契約期間終了後の方針についても若干の意見交換を行った。ADEOS衛星の稼動年数 は、公式的には3年であるが燃料の残存量等からみてそれよりもかなり長い稼動が見込 めること、1999年あるいは2000年にADEOS-2の打ち上げが予定されているが、ADEOS-2に はOCTSよりはるかに高解像度の水色センサー(GLI)が搭載されており、外洋域のクロロ フィル分布のみならず沿岸水域の複雑な物質循環過程のモニタリングにも対応できるこ と等の情報提供があった。我が国の水色センサーだけについてみても、今後10年近くに わたって運用が保証されていること、水色センサー利用研究は始まったばかりであり今 後ますます利用範囲が広がり、数年後には外洋域だけでなくこれまで取り組みが遅れて いた沿岸域の生態系研究の推進においても欠くことのできない観測手段となることが予 想されること等を背景に、共同研究を発展的に継続してゆくことの重要性が参加者の共 通認識となった。
 今後、事務局は共同研究参加各機関及び NASDAと相談しつつ、新しい共同研究の構想 を固めてゆくが、特にADEOS-2 /GLIを利用した沿岸域の研究の促進を図るため、広く都 道府県の水産試験研究機関の参加を呼びかけたいと考えている。
 最後になったが今回の研究成果報告会では、通常のメニューに加えて共同研究参加機 関以外の機関の研究者もまじえたシンポジウムを開催した。NASDA首席研究員である鳥 羽東北大学名誉教授と原所長の企画によるもので、物理・化学・水産の分野から衛星利 用研究の方向とADEOS搭載センサーの利用に関するアイディアの提案があった。
 水産研究はその推進にきわめて幅の広い科学的知識を要する分野であり、研究を効果 的に推進してゆくためには水産研究に携わるものが視野を広げることはもちろんである が、他分野の研究者にいろいろな側面で水産研究に効果的に協力してもらえる仕組みを 作ってゆくことが必要である。
NASDAとの共同研究は、衛星計測に関する最先端の電子・ 情報技術と大学における基礎研究の成果を水産庁研究所と水産試験場の研究者を介して 、効果的に水産研究と水産現場に取り込むためのひとつの枠組みである。今回開催した ような学際的なシンポジウムは、この枠組みを十分に機能させるうえでも、また、幅広 い視野に立った新しい水産研究者の育成の場としても大変意義があると考えている。今 後も研究成果報告会の主要なメニューとしてさらに充実を図ってゆきたい。

(海洋環境研究官)


Kuniaki Okuda
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