【研修と指導】

ペルー第三国研修に参加して

金庭正樹

 1996年2月14日から3月3日まで、国際協力事業団(JICA)の派遣専門家としてペルー共和国を訪問しました。訪問の目的は、JICAとペルー水産技術研究所(ITP)共催の第12回第3国集団技術研修で水産物の加工と包装の新しい技術について講義を行うことでした。

 成田からシアトル、マイアミを経て約24時間の空の旅ののち、2月15日の早朝、リマのホルヘ・チャベス空港に着きました。到着後宿舎でひと休みしたのち、ペルー漁業省、JICA事務所、日本大使館などへの挨拶回りに出かけました。途中、車から見えるリマ市内は、ちょうど夏の花々が咲き乱れ、ラテン系の明るい町といった感じでしたが、多くの建物には刑務所のような高い塀、鉄格子、監視塔があり、入口では警備員が銃を構えています。出発前にペルーのテロ活動は沈静化しているとは聞いていましたが、まだこんな警戒を続けているのかと改めて驚きました。2週間無事に過ごせるだろうかという不安の中でペルーの第一日目がはじまりました。

 さて、JICA/ITP第3国集団技術研修は、南米各国より参加した研修生に、約1ヶ月半、ITPで水産加工技術を指導するもので、昨年までに11回開催されています。この研修への日本の専門家派遣は、第1回から第7回まで行われており、中央水産研究所も過去6回、のべ7名が専門家として参加しています。しかし、ペルーの治安悪化のため、第8回から派遣が中断されていました。今回、治安が回復してきたので派遣が再会され、2名の専門家が派遣されました。私は最近日本で注目されているガス置換包装について、もう一人の講師、極洋の野村茂登氏はHACCPについて講義を行いました。今回の研修には南米の14カ国より25名が参加しましたが、皆、本国では研究所や大学などに勤めている人たちで、生物学や化学などの基本的な知識は十分に持っています。講義も熱心に聞き、次から次へと質問をしてきます。また、日本から持っていった水産加工品を試食してもらったところ好評で、特にタラのシートにチーズをはさんだものに関心が集まっていました。

 研修の行われたITPは、水産物の加工・保蔵技術についての研究、製品開発、技術研修などを業務としている機関で、主に研究部門と製造部門に分かれています。

講義室で研修生と

 研究部門では日本の水産研究所と同じように研究をしていますが、製造部門では実際に加工品を製造して販売も行っています。講義の合間にはITPの研究者たちから研究手法や加工技術などについての質問を多く受けました。ペルーの漁業生産高は1993年では世界第三位、漁獲の大部分はマイワシとアンチョビーです。アンチョビーのほとんどは魚粉に加工されていますが、このうちの一部を食用にして食料の不足している山岳部へ供給しようと考えているそうです。ITPではそのためのアンチョビーの加工品の開発を行っており、アンチョビーの脂質などに関する質問も受けました。

 滞在中、研修生の視察旅行に同行して、ペルー北部のパイタという町のミール工場や食品工場を見ましたが、 原料の鮮度管理や衛生管理について改善すべき点はまだまだあると感じました。ペルー国内の政情や経済状況の変化に応じて新たな問題や要望も出てくるでしょうし、今後も日本からの技術協力を継続することが必要だと感じました。  今回のペルー訪問では日本国内とはまた違った水産加工の現状を見ることができ、多くのことを学ばせていただきました。また、ITPや南米各国に多くの知り合いができ、国際交流の楽しさというものを感じました。到着したときの不安は、数日で消えてしまい、本当に充実した2週間でした。最後に本研修でお世話になった方々に感謝いたします。

(利用化学部高分子化学研究室)