【研修と指導】
ダイオキシンに係る環境水質基準の検討
山 田 久
廃棄物の焼却施設などから副次的に生成されることがあるダイオキシン類による環境汚染の顕在化に伴い、水域環境の保全目標を設定するとともにその排出抑制の検討が必要となってきた。厚生省は、ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究班を設置し、ダイオキシンの耐容1日摂取量(TDI)を2378-TCDDに換算して10 pg/kg/dayと発表した。一方、環境庁は、排出抑制とリスク評価の検討会を発足させ、水域環境の保全目標と排出抑制を含めた総合的な対策の検討を開始した。ダイオキシンの環境水質基準は水産にとっても重要な問題であるので、ここではその設定方法の考え方について述べる。 ダイオキシンは、哺乳動物に対して急性・慢性毒性(体重減少、貧血や肝障害)、さらに催奇形性、生殖に及ぼす影響や免疫毒性が認められている。しかし、DNAを損傷する遺伝毒性物質ではなく、発癌のプロモ-タ-であるので、NOAELと不確実係数からTDIが設定できると考えられている。したがって、食餌による摂取量から魚介類の許容濃度や環境水質基準を検討することができる。有害物質による海洋汚染問題は、水圏生態系の構成を乱す生態影響の危惧と、魚介類汚染による人への健康障害の食品衛生上の危惧の2つの視点に分けられる。この両者の視点は、水圏生態系の生産力を利用して水産物・食料を生産する水産業にとって無視できない重要な問題である。したがって、ダイオキシンの環境水質基準も両者の視点から検討されるべきである。中央水産研究所では、生物濃縮や生物影響の重要性を指摘し、既往の研究成果をとりまとめ報告してきた。
ダイオキシンは、水生生物に急性や慢性的な影響を与え、1 ng/lの濃度でニジマスの成長を抑制すると報告されている。水産用水基準(1995年版)で提案されているように、生態影響の視点では1ng/lが基準値の目安となると考えられる。一方、食品衛生的な観点からは、食餌中のダイオキシン源(魚介類の占める割合)、TDI、魚介類摂取量、水生生物による生物濃縮係数を用いて計算される。これら両視点の環境水質基準を総合的に評価し、生態系を保全し、かつ、安全な水産物を供給することができる海を確保する必要がある。
(環境保全部水質化学研究室長)