中央水研ニュースNo.11(平成7年7月発行)掲載

【情報の発信と交流】
研究室紹介-利用化学部応用微生物研究室
中山 昭彦

海洋微生物の有効利用のための新たな生物機能を求めて
There are no such things as applied sciences, only applications of science. Louis Pasteur.

 当研究室の前身は、東海区水産研究所・保蔵部・微生物研究室で、その業務は、 ①水産物の保蔵のための微生物に関する研究と、②水産物保蔵のための放射性同 位元素の利用に関する研究との2点である。したがって、かっての微生物研究室の 仕事は、水産物の塩蔵、冷蔵、冷凍、および発酵食品に関する微生物研究および 放射線殺菌等のアイソトープ利用に関する研究が主なものであった。

 しかし、昭和62年8月の「国立試験研究期間の中長期的在り方について (第13号答申)」等を受けて始まった東海区水産研究所の見直しの中で、 従来と全く異なった視点に立った微生物研究が求められた。即ち、当時の組織 改変の背景には、バイオテクノロジーの急速な発展に伴い海洋微生物の利用が 今後著しく進展する情勢にあるという判断があった。そこで、水産物の腐敗や 発酵食品の実態解明といった従来の食品微生物研究から脱却し、有用海洋微生物を 探索し、バイオテクノロジーを駆使し、特殊な生物機能や細胞成分の有効利用の 可能性を探るといった新しい分野の研究を展開する必要があると考えられた。

 平成元年5月、東海区水産研究所が中央水産研究所に、保蔵部が加工流通部に、 そして利用部が利用化学部に組織改変された時に、微生物研究室は「水産生物の 有用特性の利用開発」を目指す利用化学部に移動し、応用微生物研究室と改称され、 その業務も「海洋微生物に係る有用物質に関する調査及び試験研究」に変更された。

 研究対象が食品微生物から海洋微生物に変化したちょうど平成元年度から、 運良く科学技術振興調整費による「海洋深層資源の有効利用技術の開発に関する 研究」のプロジェクトに参加し、深海性魚類の腸内物から深海微生物を分離する 仕事を始めることが出来た。この深海微生物に関する研究は、その後、平成3年度 からは、農林水産技術会議の「新需要創出のための生物機能の開発・利用技術の開発に 関する綜合研究」へと引継ぎ、現在も当研究室の主要課題として続けている。

 そもそも本深海微生物に関する研究は、当研究所所属漁業調査船「蒼鷹丸」の協力の もと水深5~6千mの深海から深海性魚類の採取方法を開発した現海洋生産部海洋放射能 研究室吉田勝彦室長の親身な実験協力と支援を得て初めて出来た仕事である。この仕事が 縁で、筆者も平成元年から8年間、毎夏の調査航海に乗船し海洋という現場での貴重な 体験をさせてもらっている。

 本研究では、深海性魚類腸内容物からは、世界で初めて独自に開発した方法で深海微生物 (好圧細菌)を単離し、約150株の深海微生物のストックカルチャーを構築した。さらに、 これらの株を用い、その脂質成分の分析および好圧酵素や抗腫瘍性物質産生株の探索を試みた。 その結果、EPAやDHA産生株および好圧酵素産生株が見つかってきている。今後は、これら ストックカルチャーを用い、好圧性等の特殊生物機能の解明を分子レベルで行い、これらの有効 利用や高圧生物学の進歩に貢献したい。そして、この過程を通じ、研究室としては、従来 の Classical Microbiologyから Modern MolecularMicrobiology へ変身を成し遂げたいと 思っている。

 当研究室の海洋微生物の有効利用という研究分野には、深海微生物の他にも、熱水 鉱床の微生物、海洋生物に共生している微生物、そして独立栄養の光合成微生物等が 興味ある研究対象として考えられ、21世紀に向かって、今後とも大いに期待される 分野である。

 折しも、今年4月より、東京水産大学と中央水産研究所の間で連携大学院がスタートした。 大学院生受け入れ研究室3室の内の1室が、図らずも当研究室である。来年度から、大学院生が 研究室に来る可能性が大きい。これを機に、卒論生および研修生の受け入れも積極的に行い、 大学はもちろん民間とも交流を図り、「開かれた研究所」の役割を微力ながら果たしたいと 考えている。いずれにしても、これら研究室の新しい状況を前向きに上手く活用することにより、 活性の高い研究室を維持していきたいと願っている。  最後に、当研究室および海洋微生物の有効利用の研究に関するご意見等を、E-Mail:ankyma@nrifs.affrc.go.jpまでお送り頂ければ幸いです。


Akihiko Nakayama

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