【情報の発信と交流・研究室紹介】

漁場環境研究室(内水面利用部)

Environment Section,Freshwater Fisheries and Environment Division
漁場環境研究室は東海区水産研究所陸水部の漁場研究室を引継ぎ、中央水産研究所への組織改編にともない誕生した。担当する研究分野は内水面の化学的、物理的環境変化が水産生物へもたらす影響の解明と対策技術の確立である。水質汚染や生物への配慮が十分でない開発・工事などにより、失われつつある内水面生物の多様性の保全を環境の面から進めていく研究分野である。

 研究室の誕生以来進めてきた研究の主なものと今年度から始まった研究を紹介させていただく。研究の紹介の前に現在の構成員を紹介しておくと、村上眞裕美主任研究官、伊藤文成主任研究官、山口元吉環境分析専門官と私、西村定一(室長)の4名である。

 「環境酸性化の魚類に与える影響に関する研究」は地球環境研究総合推進費で行われた研究で、養殖研究所日光支所と共同で行ってきた。酸性雨による我が国河川・湖沼の酸性化は現在のところ顕在化していないが、将来悪影響の発生が懸念される。本研究では環境酸性化の我が国特有魚種への影響や魚類への影響のうち欧米酸性雨先進諸国で未開拓の研究分野について研究を行ってきたところである。漁場環境研究室は温水性魚類を中心に、成長段階による耐酸性の変化、精子の運動能、受精、発生への環境酸性化の影響、水のpHが低くなると土中から溶出してくるアルミニウム(Al)と低pHによる複合毒性の水温・水の硬度との関係等を調べてきた。その結果6.0というそれほどは低くないpHでも、Alが0.05ppmという低い濃度でコイを受精卵から暴露すると、約20日で斃死率が高まり、条件によっては比較的穏やかな環境酸性化でもその影響が出現することを明らかにした。本研究はさらに3年間延長され、「魚類の免疫機能および繁殖生理に与える酸性化ストレスの影響に関する研究」として発展させることになった。

 平成8年度から始まった総合的開発研究「農林水産業及び農林水産物貿易と資源・環境に関する総合研究」(略称:貿易と環境)のなかで、漁場環境研究室は「周辺の農業が河川の微小生物の多様性に与える影響の解明」を担当し、初年度は大規模な高原野菜農業がそこから流れる水を通じて河川の微小生物の多様性に与える影響について、研究をスタートさせたところである。調査地点の選定のために千曲川上流の長野県川上村を中心に見て巡ったところ、自然のままの山間渓流が高原野菜畑の排水を合流させるや、河床生物相を急激に変化させる様を肉眼的に観察し得た(写真参照)。これを科学的に裏付けるデータを底生生物の種組成などから今後、取れるかどうか楽しみである。

(西村 定一)

写真1:山間渓流の河床の例


写真2:大規模高原野菜畑の排水を合流させた河川の河床の例