【情報の発信と交流】
水産研究に関する研究情報等について
林 小八
水産研究所は、海区毎に配置されており、地域の中核的研究機関として研究 、調整、情報発信・交流及び研修・指導の各機能を発揮することが求められて います。特に国連海洋法条約の我が国における発効など、最近の水産業を巡る 情勢の変化や研究ニーズの多様化等に適切に対処するためには、とりわけ研究 情報の発信・収集の重要性が指摘されています。中央水産研究所は、平成元年の長官通達により、水産研究所間の研究の具体 的内容に係わる事項についての連携・調整を円滑に推進するため、水産業関係 試験研究推進会議(以下、「推進会議」という。)を開催することとされてお り、推進会議を効率的に進行するため、水産研究官は、日常的に協議事項に関 する分析研究を鋭意行っているところです。そしてこの分析研究の内容をより 高度なものにするため、各研究所から所要の情報を提供していただくことにな りました。
ご承知のように、研究情報は相互に交流・共有することが重要と考えられま すので、中央水産研究所は、毎年度の四半期の最初の月(4、7、10及び1 月)に分析結果等について情報を発信し、その分析結果を踏まえて各研究所か ら最後の月末(6、9、12及び3月)までに情報を提供していただくことに しました。
第1回目の中央水産研究所からの情報発信の内容は、推進会議において協議 すべき事項に関して分析を行い、その結果を別紙1のように取りまとめたもの です。そして第1回目の情報発信を受けて、各研究所から地域情報を含めて多 くの貴重な情報の提供を受けました。それらは水産研究官の分析研究に取り入 れ、別紙2に示したようにプロジェクト研究課題化素材の練り上げと推進会議 において連携・調整すべき事項の整理に利用しました。
今後、四半期毎に定期的な情報の交換を実施し、分析研究に活用していくこ とを考えております。また、これらの分析結果等はその都度、中央水研ニュー スに掲載することとします。(水産研究官)
水産研究に関する研究情報の分析(その1)
平成8年4月(1月~3月) 別紙1-1
協 議 事 項 分 析 事 項 分 析 研 究 の 内 容 提供を受けたい情報 (1) 重要研究課題(素材)の企画に関すること 課題化素材1.水系からみた農林水産生態系の機能の解明と生態制御技術の開発による生物と生態系の持続的利用のための総合研究
・沿岸域での河川等を起源とする陸域からの影響について ・内湾や干潟域では河川等、陸水からの影響によって、水質や底質の環境が悪化している事例が多くみられる。特に、都市化が進む河口域ではその影響 が大きい。水質環境・底質環境の底生性魚類や介類への影響度合を指標化して評価している事例は少ない。 ・陸水の流入による沿岸域(干潟・藻場・砂浜域等)を生息の場とする漁業対象種に対する具体的な効果と影響についての事例。陸水の沿岸域への影響評価手法に 関する事例。 ・魚付林の生態的役割とその評価 ・宮城県気仙沼地方ではカキ養殖業者が中心となって河川の上流域に植林活動を行い、内湾域の水環境を守り、カキの成育条件を改善することをめざしている。「森は海の恋人」として北海道、九州地方でも漁業者 が中心となった植林活動を実施している。かつて北海道の春告げ魚であったニシンが消滅したのは森林開発が大きく関係しているとの指摘がされている。森林開発や河畔林の伐採が漁業資源に与えた影響の実態把握が十分でなく、因果関係を明確に論じてはいない。一方魚付林の漁業資源への効果事例も少ない。しかし、魚付林の水生生物への効果は大きいと考えられる。 ・植林活動による沿岸域に生息するあるいは回遊してくる漁業対象種に対する効果を論じた文献・資料あるいは植林等魚林の造成の事例。 ・沿岸構造物の漁業資源に対する効果と影響 ・沿岸構造物の漁業資源対象種に対する効果と影響の事例の報告は多い。魚礁は除いて、構造物が生息環境を制御し、積極的に改善していく工学的手法も取り入れられている。 ・沿岸構造物(魚礁を除く)が漁業対象種に対して効果が上がっている事例(例えば関西空港周辺の禁漁区) ・参考とした文献・資料等 1.沿岸海洋研究.第33巻3号,1996. 2.地球時代の新しい環境観と社会像.エッソ石油株式会社,1992.
3.森と海とマチを結ぶ.矢間秀次郎編著.北斗出版,1992.
4.生物の多様性保全戦略-地球の豊かな生命を未来につなげる行動指針-
WRI/IUCN/UNEP編集.中央法規出版,1993.
5.1996年度日本海洋学会水産海洋シンポジウム「水系をつないだ生態系研究
-統合的な沿岸の管理の可能性を探る」講演要旨集,1996.
6.「陸水溶存物質のダイナミズム」講演要旨集.農業工学研究所,1996
7.生態学研究シリーズ1,2,3.沼田真監修.築地書館,1973.
8.沿岸漁場生産力評価技術高度化事業報告書.水産庁研究部,1992.
左記文献・資料の他 に課題化素材を練り
上げるのに適当と思
われる文献資料等が
ありましたら、それ
らの情報を提供願い
ます。
水産研究に関する研究情報の分析(その2)
平成8年4月(1月~3月) 別紙1-2
協 議 事 項 分 析 事 項 分 析 研 究 の 内 容 提供を受けたい情報 (1) 重要研究課題(素材)の企画に関すること 課題化素材2.有毒プランクトンの発生予察技術の開発と貝毒の減毒化技術の開発に関する研究
・有毒プランクトンの発生予察について
- 発生予察に必要な有害プランクトンの査定方法や分布動態をモニタリングする方法等に関する知見は少ない。
・原因プランクトンの発生や増殖速度、輸送については、海洋環境情報が必要であるが、従来の研究では学際的な立場からの知見の蓄積は少ない。
・有害プランクトンのモニタリング技術に関する研究事例や文献紹介。 ・環境情報を組み入れた毒化予知モデルの構築に関する研究事例や文献紹介。
・貝毒の二枚貝体内での代謝機構について ・毒化機構の解明には摂餌と代謝に関する知見及び餌に 含まれる毒の蓄積と排出に関する生理実験が必要である。 ・二枚貝の摂餌選択性についての研究事例や文献紹介。 ・D.fortiiの培養に関する研究事例や文献紹介。
・貝毒の代謝実験方法に関する研究事例や文献紹介。
・減(解)毒化技術について ・発生貝毒の生化学的な構造変換や分解過程についての研究例は少ない。 ・マウスアッセイ法以外の毒量検査方法に関する 文献紹介。 ・食品加工による減毒技術についての文献 紹介。
・参考とした文献・資料等 ・別添に記載されている文献等リスト以外の課題化素材の練り上げに適当と思われる文献・資料等。 水産研究に関する研究情報の分析(資源管理分野)(その3)
平成8年4月(1月~3月) 別紙1ー3
協 議 事 項 分 析 事 項 分 析 研 究 の 内 容 提供を受けたい情報 (2) 調査手法・研究手 法の調整
・資源調査、資源評価、管理基準(BRP)の適用実態に関する欧米の適用例の分析と我が国での手法改善方策 ・TAC制度を導入している米、加及び国際漁業機関(ICES,NAFO)での資源量推定調査、ABC算定法、資源管理基準の適用例を分析。一方、我が国の資源調査の効率的運営と手法の改善に関する問題点について、資源評価票、資源評価会議、資源調査計画等から摘出、これらの問題点の解決方法を推進会議部会等に図る。 ・海区での資源調査、資源評価・解析手法等で強化が望まれる分野で必要とする研究及び技術的事項に関する情報及び改善方策等。 (3) 研究成果の総合的体系的とりまとめ ・資源管理部門における研究成果の広報活動のあり方 ・研究成果を「水産の研究」(緑書房)に「資源管理研究の現場から」に連載して掲載中。活用の実態把握と内容の充実・活用度を高める方策を分析。質問コーナーの新設の検討 ・ブロック内水産関係機関での活用状況、改善点に関する意見。 (4) 研究のレビュー ・資源管理研究の動向 ・平成5年度に魚種別に資源研究の現状と問題点についてレビューした。 ・ABC算定に関する資源評価法及び資源解析法に関しての欧米での研究例や国内シンポジウム等から動向を分析。
・新たにレビューするのが望ましい魚種。 ・地域で開催された資源管理に関する研究集会の事例や研究情報。
(5) その他研究の具体的内容に関する事項 ・生態系の動態と資源変動との関連 ・地域の情報分析
・海洋あるいは大気の長期変動と水産資源の消長との関係(レジームシフト)について、シンポジウム等開催して研究課題を摘出。生態系の動態と資源動向予測に関する問題について、今後の重点的に取り組む課題として取り上げるよう検討中(プロジェクト研究)。 ・新聞等、全国的に注目された現象については情報収集の端緒がつかめるが、地域局所的現象でも重要な情報となる場合があるが、この情報把握は困難。
・海区における「生態系」に視点をおいた研究例及び研究会の実施例。 ・海区における特異的な漁業資源、漁況等に関する情報。
水産研究に関する研究情報の分析(海洋環境分野)(その4)
平成8年4月(1月~3月) 別紙1ー4
協 議 事 項 分 析 事 項 分 析 研 究 の 内 容 提供を受けたい情報 (2) 調査手法・研究手 法の調整
・海洋環境データの収集・管理・利用方法 ・衛星水色センサーの水産への利用方法
・現行の水産庁観測データの収集・管理・利用の実態調査と問題点の摘出 ・平成7年度推進会議において、問題解決の重要性を合意
- データ問題に関する専門委員会の設置を所長に建議すべく、改善すべき技術的問題点に関する分析を実施中
・宇宙開発事業団との共同研究契約締結にむけて我が国の主な研究機関における衛星研究の動向を分析
・宇宙開発事業団との協議のもとに、共同研究として連携できる事項と連携の方法を分析
・リモートセンシング委員会、海洋生態系観測システム研究会を通して水産庁研究所、水試間での共同研究体制、実施すべき研究テーマ、支援体制に関する分析
- データ利用状況と利用予、研究業務に今後必要となるデータ(項目、質、様式等)とデータ流通体制等
・地域で衛星計測の導入により強化したいと考えている研究分野・業務、水色センサーの活用に必要な研究情報・技術等
(3) 研究成果の総合的体系的とりまとめ ・研究成果広報活動の効率化 ・研究所の研究成果を「水産の研究」(緑書房)へ「研究だより」あるいは「研究トピックス」として広報中・本誌の趣旨にあった原稿を収集する方策。結果を推進会議に図り、1997年号より改善したい ・地域での利用状況、内容等に関する意見 (4) 研究のレビュー ・地球環境・海洋生態系研究の動向 ・国際会議報告、各種委員会報告、プロジェクト成果報告等による動向分析 ・「農林水産研究ジャーナル」1996年2月号に外洋域生態系研究の動向に関する特集を企画・発表
・今後水産庁研究所で重点的に取り組むべき事項を分析中で、成果を具体的な研究課題化に資する
・地域で開催された同好の志の会合の報告、研究者自らが職務上得た海外の研究情報等 (5) その他研究の具体的内容に関する事項 ・長期的視点からみた海況予測研究の方向 ・地域の情報分析
・海区で実施されている海況予測手法の分析を実施 ・1都3県漁海況予報会議等、中央ブロックにおける漁業現場でのニーズの分析、他機関の海洋変動予測研究の動向分析
・動向分析結果を推進会議に報告し、研究課題化、人材確保等に向けて検討願う
・広範囲に影響する自然、社会現象等については、既存の情報で分析。しかし、ローカルな現象の正確な把握は困難
・海区における海況予測へのニーズ(現象、 予測の時間スケール、予測内容等)の現状・現在の長期予報の水産現場での評価、利用 状況等 ・海区での特異な自然現象、地域での水産に
係わる社会・経済上のトピックス、国への
要望等
水産研究に関する研究情報の分析(資源増殖分野)(その5)
平成8年4月(1月~3月) 別紙1ー5
協 議 事 項 分 析 事 項 分 析 研 究 の 内 容 提供を受けたい情報 (2) 調査手法・研究手 法の調整 ・採集器具の漁獲効率向上と標準化について 水産業関係試験研究推進会議資源増殖部会にかける「採集器具および調査手法の標準化」では、ソリネットとビームトロールを対象に「標準化採集器具の開発」が実施されている。当研究の成果として標準化採集器具と従来型の採集器具との採集効率の補正が可能となり、従来困難であった地域間における推定資源量の比較ができる。 ・研究成果の応用範囲(底生魚類以外の摘要も含む) (3) 研究成果の総合的体系的とりまとめ ・研究所ホットラインのあり方 雑誌「養殖」に掲載されている「研究所ホットライン」の内容は専門的すぎ、読者のニーズとのギャップもあり、この点についての改善案として①内容は研究成果だけでなく普及技術的なものも含む②順番性でなく年間のテーマを決め広く執筆者を求める等が考えられ推進会議に提案したい。 ・研究成果の取りまとめ方法及び雑誌「養殖」での広報のあり方についての意見 (4) 研究のレビュー ・国連海洋法及び生物多様性条約についての資源増殖部門との係わり 生物多様性条約を考慮して「種苗放流技術」に関してはプロ研の課題化へ提案中であるが、「多様性を維持させるための海域環境の保全技術」や「望ましい生態系の管理手法」についても水研を軸としたプロジェクト研究へ結びつける努力が必要と考える。 ・水研での学際的研究を円滑に進める上での意見 ・生物多様性条約下における種苗放流に関して地域でどのような議論がなされているのか
(5) その他研究の具体的内容に関する事項 ・地域の情報分析
・これから開催される 生態系に関する研究会シンポジウム等の一覧・全国的に注目された現象については新聞等により情報収集が図れる。しかし、地域局所的現象でも重要な情報となる場合がありこの情報把握は困難。
・国際会議報告、各種委員会報告、プロジェクト成果報告等による動向を整理する。・海区における特異的な漁業と環境に関する情報 ・ローカルシンポジウム報告及び研究者自ら が職務上得た研究情報等