ワシントンDCで1996年5月19~24日に標記の会議が26年ぶりに開催された。主催はNFI(米国水産協会)でFAO、FDA(米国食品医薬品局)、NMFS(米国海洋漁業庁)、カナダ漁業海洋省、カナダ水産委員会の後援で開催され、66カ国、600人を越える政府、業界関係者および研究者が参加した。我が国からは水産庁2名、厚生省2名、民間団体4名およびJETRO駐在員1名が参加した。会議の中心課題はHACCP(Hazard Analysis Critical Control Point)であった。HACCPはO-157等の食中毒に対する対策法として頻繁に報道されたが、まだ一般的にはなじみの無い概念であると思うので簡単に紹介する。HACCPは危害分析重要管理点と訳され、食品の安全性を確保し品質を高める食品衛生管理システムである。そもそもは、1960年代に米国で宇宙食の安全性を確保するために開発されたシステムであった。従来の方式が最終製品を検査する方式であったのを、原材料から加工・箱詰め・出荷・最終製品が消費者に渡るまでのすべての段階で発生する可能性のある危害を検討し、その発生を防止する重要管理点を設定して管理する方式である。
最近になって、1993年にFAO/WHOのCODEX(食品規格)委員会からHACCPのガイドラインが発表され、それに基づいて米国、カナダ、EUなどがそれぞれのガイドラインを作成し規制を行うことを発表した。EUの規制に関しては我が国の水産物のEUへの輸出が1995年に一時ストップされた事が新聞報道されたのでご存知の方も多いと思う。米国の規制(Seafood HACCP Regulation)は1997年12月から発効するので、それ以降に対米輸出する場合はこの規制をクリアーする必要がある。
欧米でHACCPシステム導入が盛んになってきたのは、1)食中毒件数が日本に比較して桁違いに多く、被害金額も相当に上っているのでその対策を行うため。2)近年世界的に水産物貿易の量が増えて輸入時の検査がコスト的にほとんど不可能になりつつある現状への対策、および3)訴訟の多い米国においては、HACCPはすべての過程で記録を残すことを重視しているのでPL法対策のため。などが考えられる。
会議では、養殖、漁労から、加工、流通、消費者の教育にいたるまでHACCPに係わる実例や研究の発表が行われた。HA関係では、食中毒細菌ではリステリア・モノゲネシス、病原性大腸菌(O-157)、寄生虫ではアニサキス、シュードテラノーバ、魚介毒では、シガテラ、麻痺性貝毒、神経性貝毒、下痢性貝毒、記憶喪失性貝毒が多く話題とされていた。また、養殖関係では、農薬や、治療薬、その他の化学物質の残存量の管理が話題となっていた。検査では、官能検査法が紹介されていたが、日本と食習慣が異なるせいか、米国・カナダの発表はソースで煮て食べる事のできる品質という事で可食の水準に重きがおかれ、加熱加工する魚介類においても鮮度を云々する我が国の現状とは隔たりを感じた。また、米国やカナダでは民間の検査業者が、魚介毒等の簡便な検査法等の発表を行っていた。欧米ではHACCPシステムのコンサルタント業者も多数できているようである。 FDAではインターネットを通じた広報活動を行っている(http://vm.cfsan.fda.gov/list.html)との報告と展示が行われた。ここでは、米国のHACCPの規則の全文も見ることが可能である。また、米国で流通している54魚種(96年6月現在)の画像や、種を特定するのに用いるアイソザイムの画像を見ることが出来る。
我が国では、日本冷凍食品検査協会の高鳥氏、水産庁流通課加工室の長島氏、厚生省国立公衆衛生院の豊福氏の3者が、それぞれの立場からHACCPとの関わり方を述べた。 最後にrecommendation(勧告)が出されたが、HACCPの宣伝が主目的のような会議の性格上穏当なもので、各国がHACCPを基本にして水産物の衛生管理を行い、国際的に調和をはかっていく事(harmonization)が提唱された。HACCPによる規制は一面では、非関税障壁となりかねないものとして批判も多いが、世界の潮流としては衛生管理方式として定着していく方向に向かっていることを感じさせられた会議であった。会議の詳細については(社)大日本水産会で報告書を出しているので参照されたい。
(加工流通部食品保全研究室長)