平成8年度内水面(中央ブロック)水産業関係試験研究推進会議が平成8年6月26・27日に中央水産研究所において開催された。都道府県試験研究機関、養殖研究所、水産工学研究所、国際農林水産業研究センター、水産庁、全国内水面漁業協同組合連合会、日本水産資源保護協会および中央水産研究所の計51機関、94名が参加した。この会議は、平成元年の水産庁長官通達(平成6年一部改正)に基づき、内水面に関する試験研究について中央水産研究所と他の公立試験研究機関との情報交換を密にし、相互の連携強化を図り、水産業振興に寄与する研究を効率的に推進することを目的として開催されるものである。平成2年度から毎年開催され、今回で7回目となった。
会議では、中央水産研究所長及び水産庁研究部長(代理:研究部参事官)の挨拶後、中央水産研究所から、昨年度の討議の結果を踏まえ本年度以降の推進会議をその本来の趣旨にそって内水面研究の長期展望および連携強化策を論議するための研究戦略会議として位置づけるよう改善を図ったこと、今後個別の研究課題について論議を深める場として、この会議に下部組織(例えば部会)が必要になった場合には、改めてその設置を検討することとしたい旨報告した。
次に、平成7年度試験研究結果および同8年度計画を中心に機関別に研究情報が紹介された。都道府県の42の内水面試験研究機関から情報が提供されるとともに、別途、北海道・東北、関東・甲信越、東海・北陸、近畿・中国・四国および九州・沖縄の各ブロックの代表機関から個別に報告が行われた。公立試験研究機関全体としては新品種作出等のバイオテクノロジー 分野で成果があがりつつあること、漁場保全対策推進事業への参画等により環境保全分野の研究計画が強化されつつあることが示された。
中央水産研究所からは温暖化、酸性化等地球環境の悪化が魚類の個体群や生理に与える影響について成果をあげつつあること、平成8年度から、総合的開発研究「農林水産業及び農林水産貿易と資源・環境に関する総合研究」を開始すること、希少魚関係分野を強化すること等を報告した。
養殖研究所から増養殖に係る生理分野を主体に研究を進めていることが報告された。酸性雨が魚類の生理等に及ぼす影響について中央水産研究所との更なる連携の強化が求められた。水産工学研究所からは淡水魚類の遡上・移動を可能にする魚道等に関する文献収集など基礎分野で研究を進めている旨報告がなされ、関連分野について中央水産研究所との連携が求められた。
近年、水産試験研究機関において希少生物に関する試験研究が実施されているが、この分野では水産としての研究推進方向、協力体制等、研究の戦略に関する共通の理解・認識が十分でないため、今後の研究需要に的確に応えられない状況にある。このような背景から、今年度は協議事項のテーマとして「希少生物の保存に関する試験研究の推進方向について」を取り上げ、現在、水産の試験研究機関で希少生物に関してどのような研究が実施されているか、今後どのような研究が必要かについて論議し、以下を確認した。
(1) 公立試験研究機関の希少生物研究に対するスタンスは、産業対象でないためそれを全く行っていない県から、研究努力のかなりの部分をそそぎ込んでいる県まで、県によってさまざまであることがわかった。しかし、内水面の試験研究を実施している42県のうち、28県が何らかの形で希少生物の研究に携わっていることが判明した。 (2) 論議の結果、当面の研究の推進方向が下記の4点に集約された(配列は緊急度による)。
①希少生物の系統保存における遺伝的多様性の保全
②内水面における生物多様性(各県内の淡水生物の分布)の把握
③希少生物保護ネットワーク体制の確立
④希少生物に関する情報センター機能の強化
①および②は公立試験研究機関主体で、③および④は中央水研および公立試験研究機関がそれぞれの守備範囲において担うことになった。とくに中央水研は業務担当に当たり、従来の水産試験研究機関間の連携の枠組みを越えて、他省庁との情報交換、水族館ネットワーク等との連携をも視野に入れることになった。来年度の会議では、この分野の研究の重点化方向、連携・分担などについて論議を進めることになった。なお、上記研究の推進方向に対する戦術(個別課題)部分に対しては、当面、別途開催される「希少淡水・汽水魚類増養殖試験研究連絡会議」において論議を進めることとした。
(内水面利用部長)