【研究調整】

平成8年度水産利用加工研究推進全国会議概要報告

山澤正勝
 平成8年6月5~7日にかけて、標記会議が中央水産研究所で開催された。参加者は、都道府県試験研究機関、大学、民間、厚生省、農林水産省、水産庁、中央水産研究所、の合計74機関、190名であった。

6月5日の本会議では、中央水産研究所原所長及び水産庁後藤研究課長の挨拶の後、水産利用加工試験研究の最近の動向として、中央水産研究所における利用化学部及び加工流通部の最近の研究成果を紹介した。次に、平成8年度の国の利用加工関係事業及び情勢について、食品流通局企業振興課技術室、農林水産技術会議事務局企画調査課、水産流通課水産加工室、研究課水産ハイテクノロジ-開発室及び研究課研究調整班から各室・課の事業の説明があった。食品総合研究所からは、食品産業における最近の動向と展望についての報告があった。

本年度の重要検討課題は、我が国漁業生産量の低下及び国民の水産物に対する嗜好の高度化や多様化に伴い、輸入水産物が著しく増加している背景の基、「輸入水産物を巡る諸問題-安全性と品質特性」として、輸入水産物を取り巻く諸問題のうち、輸入水産物の安全性及び輸入原料とそれに対抗する国内原料の品質特性についての話題を取り上げた。 まず、北海道、東北、中央、近畿・中国・四国、九州、日本海の各ブロック幹事から、事前にアンケ-ト調査したブロック内の輸入水産物の現状と問題点及び解決策についての報告があった。

 話題提供として、「輸入水産物の安全性確保」について、厚生省生活衛生局乳肉衛生課梅田氏から、水産物の輸入の現状、輸入水産物の食品衛生法違反事例、輸入検査手続きなど、輸入水産物の安全性を確保するための現在の監視体制について報告された。  さらに、「加工原料としての品質特性」として、サバ(青森県水産物加工研究所:中谷氏)、イカ(中央水産研究所:浅川氏)、サケ・マス(中央水産研究所:岡崎氏)、冷凍すり身(紀文食品:加藤氏)について、それぞれの品質特性及び問題点、技術的対応などについて報告された。

これらの話題提供に基づき、今後の研究の推進方向等について討議した。その結果、輸入水産物の安全性の確保については、細菌汚染、異物混入、毒サバフグ、ジェリ-ミ-トなど、食品の安全性上問題となる原料が輸入されている現状があり、国民に安全な食品を供給する立場からは、輸入水産物の監視体制を強化する必要がある。また、新しい衛生管理方式(危害分析重要管理点:HACCP)を導入し、食品衛生微生物等に係わる基礎的な研究を推進するとともに、国や都道府県の試験研究機関が協力してこのシステムについて指導・普及を図っていく必要のあることが確認された。

 加工原料としての問題については、輸入原料なくして加工業は成り立たないが、国内漁獲物の2/3が加工業向けとして利用されている現状から、加工業が輸入原料に依存しすぎて漁業をつぶすことのないように配慮していく必要がある。そのため、国内原料については、高鮮度の利点を生かした加工・流通技術の開発や地域のブランド化を図る必要がある。また、地域水産物の付加価値向上のための新技術開発や低・未利用魚の完全利用技術が必要である。さらに、輸入及び国内原料ともに、それぞれの特性を生かした利用技術の開発が必要であり、それらを支えていくための基礎的研究が期待されている。
以上の討議内容を踏まえて、産学官の連携をとりつつ、今後の研究推進を図っていく必要のあることが確認された。

6月6日、7日には部会が開催され、品質部会24課題、加工技術部会9課題、ねり製品部会16課題の研究報告について討議された。その中で、従来の原料特性、加工技術や品質保持技術の他に、水産物の生理活性物質の検索や、その機能性を重視した新製品の開発あるいは水産物を原料とした非食品の開発など、新しい分野への取り組みがみられた。
(加工流通部長)