【研究情報】

宇宙開発事業団との共同研究「衛星観測システムの海洋生態系研究及び水 産業への利用のための基盤技術に関する研究」について

熊田 弘


はじめに
 平成 7年12月27日に、中央水産研究所と宇宙開発事業団との間で「衛星観測シ ステムの海洋生態系研究及び水産業への利用のための基盤技術に関する研究」 というテーマの共同研究の実施及び成果の取り扱いに関する契約が締結された ので、この共同研究の内容について紹介したい。

研究の目的
 この共同研究の目的は、平成8年8月に打ち上げが予定されている地球観測プ ラットホーム技術衛星 ADEOSに搭載される海色海温走査放射計OCTSや米国のNA SAが打ち上げを予定しているSeaWiFSによる水色情報を水産海洋の研究に活用し 、さらに水産業への実利用を促進することにある。そのためにはまず現場検証 の手法の開発や現場検証データに基づくアルゴリズムの開発等の問題を早急に 解決しなければならない。

研究の内容
 OCTSによる高精度の観測データ(地表分解能約700×700m)はNASDAの地球観 測センターで受信され、データ処理がほどこされた後、データの配布が行われ ることになっているが、このほかに間引きデータ(1画素6×6Km程度)を調査 船や漁船に搭載した簡易受信装置DTLで直接受信することが出来る。これらの 水色データを水産研究に活用し、水産業の現場へ利用するための現場データの 収集、DTLの有効性の評価と高次利用方法の開発、ADEOS/OCTSデータの現場検 証と高精度クロロフィル分布作成アルゴリズムの開発等について共同研究を行 うことになっている。また、SeaStar/SeaWiFSが打ち上げられた場合にはSeaWiFS データの現場検証と解析アルゴリズムの開発についての共同研究も行うことに なっている。中央水産研究所と協力機関はDTLを調査船に搭載し、現場でリアル タイムにデータを受信すると同時に、水温、水色、クロロフィル量、魚種、漁 獲量等のデータを収集する。これらのデータに基づき、DTLの機能と操作性及び 画像精度、水温・水色の時空間変動、魚種・漁場形成と水色分布との対応等に ついて解析することになっている。研究の実施期間は平成7年から9年までの 3年間である。

研究の推進体制
 この共同研究を実施するために、北海道区水産研究所、東北区水産研究所、 南西海区水産研究所、西海区水産研究所、日本海区水産研究所、遠洋水産研究 所、養殖研究所、水産工学研究所の協力を得ることになっている。DTLは中央、 北海道区、東北区、南西海区、日本海区、遠洋の各水産研究所と宮城県水産研 究開発センター、茨城県水産試験場、愛知県水産試験場の調査船あるいは庁舎 に設置される。また、現場検証については東京都水産試験場の協力も得ること になっている。協力機関は中央水産研究所に設置された「海洋生態系システム 研究会」事務局に解析結果を提出し、中央水産研究所で成果のとりまとめを行 なうことになっている。

海洋生態系システム研究会について
 この共同研究の実施要領で、研究成果の総合的とりまとめ、研究推進方針の 検討等を行うために、「海洋生態系システム研究会」を設立し、事務局を中央 水産研究所海洋生産部におくこととなった。この研究会の会員は衛星検証試験 に参加する機関、本研究会の活動に有益な助言と情報提供が出来る学識経験者 、その他中央水産研究所長が必要と認める者となっている。衛星検証試験の推 進と研究推進方針の検討のため原則として年1回海洋生態系システム研究会研 究成果報告会を開催することになっている。平成8年4月5日に中央水産研究 所において平成8年度第1回研究成果報告会が開催され、水産庁研究所、宮城 、茨城、東京、愛知各都県水産試験場、宇宙開発事業団、リモートセンシング 技術センター、水産電子協会、学識経験者が参加した。報告会において平成7 年度の活動報告、8年度の研究計画について意見交換が行われた。同日の午後 には、宇宙開発事業団主催のADEOS/OCTS高度利用技術検討会が開催され、宇宙 開発事業団側から研究概要、データ提供計画について報告がなされた後、意見 交換が行われた。さらに、ADEOS/OCTSの海洋物理、生物生産、物質循環、水産 資源、漁業等への利活用の可能性、水産における衛星リモートセンシングへの 期待について話題提供と意見交換が行われた。

(海洋生産部長)