内水面利用研究の現在と将来

河野 秀雄

 我が国の内水面は、年10万トン、600億円の生産をあげる漁業の場であると同時に遊漁を中心とした国民の レクリエーションの場でもある。一方、水質汚染や河川・湖沼の改修による環境悪化が進行し、また、外来魚 の分布拡大や種苗放流が内水面生態系に与える影響、酸性雨等地球環境の変化が将来の内水面環境に及ぼす影 響が憂慮されるなど厳しい状況に直面している。
このような状況から、内水面利用部には、河川湖沼における魚類の生態や生物間の相互作用を解明するため の研究、内水面の水産資源の特性を解明し、漁場利用技術を確立するための研究および水質汚染や河川改修等 、内水面環境の変化が水産生物に及ぼす影響を解明し、その対策技術を確立するための研究が要請されてきた 。
 このような研究ニーズに応えるため、内水面利用部においては、水産上重要なアユ、ワカサギ、通し回遊魚 等の生態、増殖および資源管理に関する研究や水質汚染、環境酸性化、河川構造物が水産生物に与える影響に 関する研究で基礎的な知見を積み上げてきた。これまでに、アユのなわばり形成や産卵の生態学的メカニズム 、通し回遊魚の産卵生態とそれに対する地球温暖化の影響、サクラマスの生活多型の実態、アユ人工種苗の放 流適性、河川の環境変化が魚類の繁殖生理に及ぼす影響、魚類の環境酸性化への生理的適応過程等について重 要な知見を得ている。
 近年、生物の多様性を保全し、その構成要素を持続的に利用することの重要さが広く認識されるようになっ た。とくに内水面においては、生物の多様性が危機的な状況にあり、その保全が急務となっている。内水面利 用部は、これから先の研究に当たって、この視点を重視すべきと考えている。すなわち、生物多様性を損なわ ない種苗放流技術、漁場利用技術等今までより一段高度な増殖および資源管理の確立を目指した研究、生物多 様性の維持機構の解明、希少生物の保護、系統の保存等、内水面の生物多様性保全のための研究、生物多様性 の衰退を引き起こす因子が水生生物に与える影響の解明とそれら因子の影響を最小限にとどめる技術の確立を 目指した研究を実施していきたい。
 このためには、水産庁研究所、公立試験研究機関および大学との連携・協力が不可欠である。プロジェクト 研究への参加によってこれらの機関との協力を図る他、水産業関係試験研究推進会議、地域別推進会議および 専門分野別推進全国会議等により連携の方策を検討していきたいと考えている。
(内水面利用部長)