「研究室紹介」

品質保持研究室(加工流通部)


 当研究室は魚類鮮度判定恒数K値を広め、パーシャルフリージングを華々しく展開してきた東海区 水産研究所の保蔵部鮮魚保蔵研究室と、今日の冷凍魚の品質を高めマグロ肉の鮮やかな肉色保持に貢献 してきた冷凍研究室が一緒になって、平成元年の機構改革にあたり加工流通部品質保持研究室として新 たに発足しました。水産物の品質保持に関する調査及び試験研究を行うことになっています。以前にあ った製品保蔵研究室は今はなく、当研究室が旧保蔵部を背負って立つ形になりました。研究の第一はこ れまでに確立したK値ならびに魚肉色素ミオグロビンのメト化の測定技術を駆使して、安全な各種鮮度 保持技術を検討しています。最近の研究では包装材を比較し絹和紙にチルドでの鮮度保持期間の延長効 果が若干あることを見出し、現在その鮮度保持機構の解明に当たっているところです。

 近年生鮮食品に鮮度保持剤が広く使われていますが、漁獲後の鮮度低下が極めて速い水産物も例外 ではありません。水産物への鮮度保持剤の効果は暖昧で、人の目を欺くためのものとして使用が禁止さ れました。それ以来、添加物の検知技術に対する要望が多く寄せられています。マグロのサクを一酸化 炭素ガス封入して鮮赤色を発生させた例があり、数日貯蔵しても色はあまり変わらず、一旦退色したも のもこの手法により赤く戻すことも可能というものです。鮮度を測定すると明らかに低下しています。 羊羹と呼ばれる上等な赤身マグロの刺身があり、これは生で鮮度がよいことの証でした。しかしこうな るとうかうかしていられません。この時は一酸化炭素ガス処理の有無をプラスチック包装形態のまま検 知する手法を見出しましたが、鮮度保持剤の使用が後を絶たず、それらの対策が課題となってきました 。製造物責任(PL)法、危害分析重要管理点(HACCP)ならびに賞味期限表示が実施されますと 、これまでの抜き取り検査に代わって缶詰の打缶検査のような全量的な品質検査が主流になると思われ ます。食品工場に併設された検査室での化学分析ではその場に対応できません。そこで研究の第二とし て農業や食品工業分野の品質管理で高い評価を得ている近赤外等非破壊分析を用い、魚肉等の構成成分 ならびに品質を瞬時に測定することが緊急の課題と考え、近赤外分析計を導入し研究に取りかかってい ます。この研究はソフトを開発し、産業界の現場に導入し、リアルタイムで品質評価をするというもの で、鮮魚店での鮮度判定も可能になりますが、そのソフト開発までの工程は化学分析を伴う人海作戦を 必要とし、道のりはなかなか厳しいものです。この研究のもう一つの目的は、これまで困難とされて誰 も手がけていない冷凍魚を凍結状態で品質評価することです。

 冷凍の領域の一つに凍結乾燥があります。魚介類にとって凍結プラス乾燥と過酷な操作が二つ重な りますが元の性質を保存するのには便利な方法です。研究の第三として魚肉の凍結乾燥に関しこれまで に行ってきた研究実績を生かし、示差走査熱量計(DSC)による研究を開始しました。これは貯蔵安 定性と深い関わりのあるガラス化を観察するもので、これも非破壊分析の一つです。

 近年水産物の輪入量が増していますが、輪入水産物の殆どがチルドか凍結品で、その品質や安全生 に対する人々の関心が増しています。また、品質評価法を確立して欲しいとの要望が業界や研究機関か ら寄せられています。ところで魚の品質とは何でしょうか。魚の用途、刺身つまり生食用かあるいは加 工原料なのか、また、色を尊ぶのかそれとも味か、によっても品質の概念は違います。さらに、魚介類 の構成成分は季節、成熟度等による変動が大きい上に、漁獲後の鮮度、脂質やタンパク質の性質の低下 は著しく、その低下の速度は魚種によって異なります。このように魚一つ一つで特徴が異なりますので 品質を簡単に説明するのは容易ではありません。現時点ではK値のみがある程度共通の指標となり得ま すが、鮮度だけでは魚の品質を評価出来ません。HACCPが工場単位かつ品目別に作成することにな っているように、魚種別にこれまでの研究をレビューし、品質評価法ならびに品質保持技術を確立する ことも今後の課題と考えています。

(松田由美子)