平成7年度水産業関係試験研究推進会議の概要

林 小八


 平成7年10月12日一13日、中央水産研究所において、平成7年度水産業関係試験研究推進会議(以下「推進会議」という)が開かれました。参加者は、会議の構成メンバーである各水産庁研究所の部長等45名、水産庁から研究部長以下9名、農林水産枝術会議事務局1名、オブザーバーとして北海道さけ・ますふ化場から1名、その他2名で合計58名でした。

 昭和63年度の海区水産研究所の再編成や平成元年の中央水産研究所の設立の際に、長官通達「水産業関係試験研究の効率的推進について」が示めされ、その中、で研究を効率的総合的に推進していくためには、水産庁研究所の連携が特に重要であると指摘しています。そして、研究所間の連携と調整を行う責任者として中央水産研究所長が位置づけられ、この推進会議を主催することになっています。

 この会議は、平成元年10月に第1回が開催されて以来すでに6回を数えていますが、水産研究所間の研究の具体的内容に関わる連携と調整を円滑に行うために開催される推進会議としては必ずしも十分機能してきていません。そこで本年度の推進会議は、長官通達の趣旨に基づき、協議すべき5つの事項のうち重要研究課題(素材)の企画に関すること、具体的には「プロジェクト研究課題化素材の検討」を協議することになりました。

 このことは、すでに平成7年4月の所長会議において「平成9年度向けプロジェクト研究課題化素材の企画・調整について」ということで決められており、それに基づいて具体的取り組みが進められてきました。すなわち、中央水産研究所企画調整部長と水産研究官は、各水産庁研究所から提案された76のプロジェクト研究課題化素材のうち、推進会議において連携・調整を必要とする素材として55の素材を選びました。さらに、それらは最近の研究二ーズを踏まえて、水産研究官によって、10のグループ化された素材に整理され、練り上げられました。

 プロジェクト研究課題化素材として練り上げた10の素材は次の通りです。
1.黒潮~親潮前線域における海洋生態系の気候変動に対する応答に関する研究
2.生物多様性を考慮した種苗生産と放流技術の開発
3.水産物の高品質化のための技術開発とブランド化のための戦略(マニュアル化)に関する研究
4.水系からみた農林水産生態系の機能の解明と制御技術の開発による生物と生態系の持続的利用のための総合研究
5.有毒プランクトンの 発生予察技術の開発と貝類の減毒化技術の開発に関する研究
6.介類の種苗生産技術の体系化と資源添加技術開発
7.水産物の国際流通に対応した安全性および品質管理技術の開発
8.底生幼稚魚資源量の推定のための幼稚魚の捕獲過程の解明と採集器具の高度化に関する研究
9.沿岸・沖合域の最適利用システムの確立に関する研究
10.個体の生息環境履歴の分析手法に関する研究

 推進会議では、協議事項1として「平成9年度向けプロジェクト研究課題化素材の具体的取り組みについて」の検討を行いました。全体会議及び各部会において、これら10素材についてそれぞれ研究の新規性、独創性、先進性、緊急性、計画の妥当性、産業及び行政上の貢献等を判断の基準にして、活発な意見交換を行い、総合評価した結果、次の3素材が重要素材として選出されました。

1.黒潮~親潮前線域における海洋生態系の気候変動に対する応答に関する研究
2.生物多様性を考慮した種苗生産と放流技術の開発
3.水産物の高品質化のための技術開発とブランド化のための戦略(マニュアル化)に関する研究

 そして残りの7素材については、今後一層の練り上げを要する素材として位置づけることとしました。次に協議事項2として「今後のプロジェクト研究課題化の取り組み方針」が論議されました。平成7年4月以降行ってきたプロジェクト研究課題素材の一連の取り組みを通して、プロジェクト研究課題化素材の仕分け基準、課題素材の評価基準及び素材の課題化についてそれぞれ協議しました。今年度の取り組み方はおおむね妥当であり、そして、推進会議として来年度以降についても今年度の方式を継承するとの結論に達し、このことを所長会議の検討に委ねることにしました。

 さらに、協議事項3として「国連海洋法条約批准後の水産研究のあり方」について検討しました。この議題を取り上げた理由は、この条約については、単に漁獲可能量(TAC)の設定というようなかなり限定された問題に位置づけられていたきらいがありましたが、TACの導入によって我が国の漁業制度の仕組みや生産方式が大きく変わっていくことが予想されるます。そのような状況のもとで、我々の研究も新たな対応を求められるでしょうから、今後の水産研究のあり方との関連において研究分野を越えて検討し、共通認識を持つことが必要と考え、推進会議として協議することにしました。全体会議及び各部会では、国連海洋法条約批准後、重要 となる研究課題、分野間、水試等外部機関との連携のあり方及び国際貢献の観点から検討しました。そして、全体会議としては、各部会での論議を尊重しながら、これから積極的に研究対応していくことが必要であるとの結論に達しました。

 今年度の推進会議は前年までのやり方と異なり、研究の具体的内容に係わる水研間の連携と調整に関する協議事項を前面に出し論議してきましたが、かなりの成果が得られたと思います。しかし、このほかにも改善しなければならないいくつかの事項があります。まず、会議の運営面では、全体会議、部会ともに協議する事項が多く、時間的余裕がありませんでした。これまで推進会議として設定した日程は1.5日でしたが、じっくりと論議が出来るように来年からは日程を2.5日に伸ばしたいと考えています。

 また、これまでの年1回の部会では、全体会議で協議した事項についてさらに深化した論議をするほかに、独自の協議事項あるいは行政部局からの報告や要望事項が多く、重要間題を論議するにはとうてい時間が足りませんでした。そこでその改善策として推進会議の運営経済第3項の3には、部会は必要に応じて開催することができることになっているので、複数回開くことを計画しています。推進会議の開催に合わせて開く部会では、主として全体会議における協議事項と連動した議事について論議することとし、部会独自の協議事項や行政部局からの報告や協議事項は推進会議とは切り離して別の日程で行いたいと考えています。

 つぎに会議の内容についてですが、今回のプロジェクト研究課題化素材の検討と評価を行うにあたって、仕分けおよび評価の基準になる研究二ーズの把握とシーズの探索が十分でなかったと反省しています。今後、研究二ーズの把握とシーズの探索について水産研究官として十分検討し、各水産庁研究所において素材を作成する際に適切に活用できるようなシステムを作る必要があると考え、その方法について検討しているところです。ところで、推進会議において、3素材が平成9年度向けプロジェクト研究課題化素材となり、残りの7素材が今後一層の練り上げを要する素材になりました。しかし、水産研究官のマンパワーではこれら7素材を限られた時間内で十分練り上げることは困難です。そこで、比較的短期間でプロジェクト研究課題化を目指す素材として「有毒プランクトンの発生予察技術の開発と貝毒減毒化技術の開発に関する研究」と、長期的展望に立 って課題化を目指す素材として「水系からみた農林水産生態系の機能の解明と制御技術の開発による生物と生態の持続的利用のための総合研究」のそれぞれ1素材を選びました。そしてこれから1年間かけて、水産研究官を中心にこの2つの素材を練り上げることとし、このことについて各水産庁研究所長間の了解を得たところです。

 以上のように平成7年度の推進会議は前年度までとは異なった内容と運営で執り行いましたが、次年度以降についてもさらに改善を加えながら開催するよう事務局として努力する所存ですので、よろしくお願いいたします。(水産研究官)