中央水研ニュースNo.11(平成7年7月発行)掲載

【情報の発信と交流】
研究室紹介-海洋生産部低次生産研究室
松川 康夫

 わが研究室が主として取り扱うのは、動植物プランクトン群集の構造、動態、維持・生産機構です。 構成はパ-トを含め4名です。室長の私は海洋物理の出身ですが、温排水、深海投棄、富栄養、干潟の 浄化力、親潮の生産力などを扱ううちに「何でも屋」になってしまいました。主任研究官の中田 薫さ んは生粋のプランクトン研究者で、RNA/DNAを用いて動物プランクトンの栄養状態と活性を判定すると いう新しい分野を拓いたことで名が通っています。室員の市川 忠史さんは安定同位体分析のエキスパ -トで、これを使ってプランクトン群集内外の骨格的食物網を解明することをねらっています。パ-ト の小山さんは小柄に似合わず何にでも挑戦する頑張り屋で、顕微鏡を覗いてプランクトンのソーティン グをすることまで含めて、この部屋の雑務を広くこなしています。このメンバーで5つのプロジェクト をかかえています。
 そのひとつの「バイオコスモス」では、マイワシの資源変動にとって重要と考えられる東海区海域の 初期餌料条件の解明をめざしています。マイワシ仔魚の主な餌となる小型コペポーダのノープリウス幼 生が黒潮内側域から黒潮のフロントを経て強流帯まで多いが、その外側の亜熱帯水域では非常に少ない こと、そして黒潮内側域や黒潮フロント域ではマイワシ仔魚の競争者が少なく仔魚の生理状態が良いの に対し、亜熱帯水域では競争者が多く、仔魚の栄養状態も悪いことを実証しました。この結果から、マ イワシが1989年以降激減したのは、このころから彼らの産卵場が亜熱帯水域に移り、仔魚の生残が悪化 したためだろうと考えています。また、黒潮の大蛇行があるとその初めの年には餌料プランクトンが非 常に多くなるが、大冷水塊が内側域に居座ってしまうと沿岸性の小型コペポーダが少なくなってしまい 、仔魚にとっては内側域の初期餌料条件が悪くなることも明らかにしました。これもマイワシ資源変動 のひとつの要因と考えています。
 「黒潮の開発利用調査研究」は沖縄からフィリピンあたりにかけた海域のプランクトン群集構造とそ の維持・生産機構を把握することが目的です。クロマグロの産卵海域となる沖縄周辺にねらいをつけ、 当面はその季節変動を把握することにしています。恐らくこの海域でも黒潮周辺同様に、気象擾乱や地 形的擾乱に伴う局所湧昇がクロマグロ産卵場となる鍵を握っているのではないか。あるいは、根粒バク テリアのように窒素固定をする植物プランクトンのラン藻が栄養供給の鍵を握っているのか。それとも 、やはり春と秋のブルーミングが基本的な鍵なのか。いろいろ想像をたくましくしていますが、昨年蒼 鷹丸でデータをとったところで、解析はこれからです。
 「サンゴ礁生態系の維持機構とその保全に関する研究」は、サンゴ礁の保護のためにサンゴ礁と水質 環境の関係を明らかにすることが目的です。そこで、沖縄の非常にきれいな海域から富栄養化した海域 までの水質とサンゴの生育状況を比較しています。まだ分析精度に自信が持てていませんが、やはり富 栄養化するにつれてサンゴの生育状況が悪い傾向がうかがえます。水質分析の精度と信頼度が向上すれ ばどの辺の水質が限界か明らかにできると考えています。また、サンゴの RNA/DNA比を約1年半、毎月 測定したところ、季節変化が成長・成熟のリズムや白化とほぼ一致し、RNA/DNAがサンゴの生理状態の 指標となる可能性が分かりました。サンゴとその共生藻の炭素の安定同位体比を調べて、共生藻の活性 やサンゴの共生藻への依存度を推定できる可能性もあるようです。サンゴを扱うのは初めてで全くの手 探りでしたが、3年目にしてある程度の手がかりをつかめたということです。
 「大規模取放水内湾浅海域漁業影響調査」は、発電所からの温排水が集中する京浜運河と東京湾中央 部のプランクトン組成の違いを調べています。京浜運河は湾域に比べて水温が周年1~2℃高く、栄養塩 も多い。そして小型プランクトンが優占すると同時にプランクトンの種類数が少ない結果が得られてい ます。これが温排水の影響かどうかまだはっきりしません。
 昨年から始まった「漁場生産力モデル開発基礎調査」では、伊勢・三河湾におけるイカナゴの資源変 動機構と環境収容力の解明がねらいです。当研究所の生物生態部初期生態研究所とともに愛知、三重の 2県に協力する立場です。これもデータ解析はこれからです。
 経常研究の紹介はまた次の機会にしましょう。
Yasuo Matsukawa

back組織紹介・海洋生産部へ

back中央水研ニュース No.11目次へ

top中央水研ホームページへ