極東海域における放射性廃棄物の海洋投棄に係わる日韓ロ共同海洋調査について

熊田 弘

はじめに
 平成5年4月に旧ソ連とロシアによる放射性廃棄物の海洋投棄に関する白書「ロシア連邦領土に隣接する海洋への 放射性廃棄物の投棄に関する事実と問題」が公表され、1960年代後半から極東海域においても海洋投棄が行われて いたことが明らかになった。
 また同年10月17日にはロシアによる液体放射性廃棄物の日本海への海洋投棄が行われ、日本周辺海域の漁場と海 産生物への影響が懸念された。
 これら一連の投棄に対して平成5年度に当中央水産研究所が北海道区水産研究所、西海区水産研究所、日本海区 水産研究所および水産工学研究所の協力を得て実施した緊急乗船調査、核種分析、国内ならびにロシアで開催され た会議の内容等については中央水研ニュースNo.8 (平成6年1月)で紹介した。当時は日本海における第1回日 韓ロ共同海洋調査の実施にむけて最終的なつめを行っている段階であったので、その後の経過について紹介したい 。

第1回日韓ロ共同海洋調査の経過について
 旧ソ連・ロシアによる一連の放射性核種の海洋投棄に対して、水産庁、海上保安庁、気象庁は平成5年4~5月と 10~11月に日本独自の緊急調査を日本海の沿岸と沖合水域で実施し、2回の調査の結果はそれぞれ「異常な値は検 出されていない」「投棄による影響は認められていない」と科学技術庁より公表された。
 一方、投棄海域での調査については、5月11・12日にモスクワで開催された第1回日ロ合同作業部会で原則的に同 意され、その後韓国も調査に参加したい旨の要請があり、11月10・11日に開催された第2回合同作業部会で3国共同 の調査を平成6年早々に行うことが合意された。これをうけて、平成5年11月29日~12月1日にウラジオストックで 開催された日韓ロ専門家会議において実施計画の合意をみた。
 調査はロシア水理気象国家委員会所属の海洋調査船「オケアン号」(4,162トン)により、平成6年3月22日(新潟 出港)から4月11日(新潟入港)にかけて投棄海域とその周辺海域において実施された(図1)。この調査に日本か らは科学技術庁、水産庁、海上保安庁、気象庁、日本原子力研究所、日本分析センターの各機関から専門家9名(水 産庁からは当研究所の鈴木頴介主任研究官と通訳の阿部敏夫氏)、韓国7名、ロシア20名およびオブザーバーとして IAEA(国際原子力機関)から1名の計37名の専門家が参加した。
 調査は天候に恵まれ順調に行われ、投棄海域7地点と投棄海域周辺のバックグランド海域の2地点計9地点で海水、 海底土、プランクトンを採取した(図2)。試料採取と並行して、船上で表層水と海底土についてゲルマニウム半導 体検出器とヨウ化ナトリウムシンチレーション検出器によるガンマー線の測定が行われた。さらに海水中の放射性 核種を捕集するために、捕集材に大量の海水を通過させた後、捕集材のガンマー線を測定した。このほかCTD観測( 1,500m深まで)、XBT観測(700~800m深まで)、気象観測も実施された。分析のための海水はフィルターでろ過し、 20Lのプラスチック製の容器に入れ、器壁への吸着を防止するために濃塩酸40mlを加えた後、日本、韓国、ロシアお よびIAEAに必要な個数の容器が分配された。海底土はPetersen型採泥器で採取し、泥の表面から2~3cm深までの層と それより下の層に分割し、それぞれについて大型のバットに入れ十分混合した後5L容のプラスチックビンに入れ各国 に分配した。当初の計画では海水と海底土を採取するだけであったが、プランクトンの採集がオプションとして加わ り、また予定外ではあったが、特別に調査海域のうちの1地点近辺で操業していたロシア漁船が漁獲した魚介類の入 手等が行われた。持ち帰った試料の各国分析機関による分析はすでに終了している。
平成7年1月9日に開催された第3回日ロ合同作業部会において、最終報告書のとりまとめ方針を調整する専門家会議 の開催について話し合いがなされ、その後会議の日程と場所について調整に手間取ったが、最終的に4月26・27日に ロシアのオブニンスク市タイフーン研究所において開催されることとなった。水産庁からは共同海洋調査で乗船した 当研究所の鈴木頴介主任研究官が出席した。会議では、各国の分析機関により実施された海水、海底土および海産生 物試料の分析結果の報告と討論が行われた。分析結果の相互比較および考察について各国間で大きな相違は無く、ほ ぼ一致した結論に達した。さらに、日本が作成してきた最終報告書案について討議がなされ、全体の構成、一部デー タの表記法について修正の必要が生じたので、今後各国との調整をはかったうえで、5月末日頃英文による最終報告 書を作成し、各国で同時にプレス発表することが合意された。

図1:ロシアの海洋調査船「オケアン号」 (新潟港にて)(71kb)

図2:日韓ロ共同海洋調査海域図(28kb)

第2回日韓ロ共同海洋調査の実施計画について
 4月26・27日にオブニンスク市で開催された第1回共同海洋調査の最終報告書のとりまとめに関する専門家会議に引 き続いて、4月28日にモスクワのロシア外務省においてロシアと日本および韓国の現地大使館関係者ならびに各国の専 門家による第2回日韓ロ共同海洋調査に関する協議が行われた。第2回調査では第1回調査で実施しなかったロシアの投 棄海域であるオホーツク海、カムチャツカ半島太平洋沖、日本の投棄海域(房総沖)および韓国の投棄海域(日本海) において調査を予定している。
 当日、各国の案を提示したが、ロシアの調査船を使用し、航海日数は45日とすることではほぼ合意された。調査の 開始時期については日本の乗船予定専門家のスケジュールと日本側投棄海域周辺の漁船の操業、準備作業の日数等を 考慮して7月中旬以降に実施したい旨主張し、ロシア側は5月下旬、遅くとも6月上旬に開始したいと主張した(その後 ロシア側は7月下旬頃開始したいと連絡してきた)。また、日本が不必要としているバックグランド測点の設定、調査 経路、経費の負担等で主張の隔たりがあった。今後は主として外務省と科学技術庁が国内の関係機関と調整を図りつ つ交渉を継続することとなった。

おわりに
 日韓ロ3国による共同海洋調査は平成7年の第2回調査をもって終了することになっているが、今後は従来から実施し ている放射能調査研究費(科学技術庁)による調査研究の中で、関係水産研究所の協力を得つつ投棄海域に隣接する 日本周辺海域の漁場の監視体制を強化していきたい。
 この原稿を執筆している時点で、第2回調査の開始時期は未定であるが、当研究所の漁業調査船蒼鷹丸による日本海 の放射能調査が6月下旬から7月末まで予定されていることもあり、日程の調整に苦慮している。共同乗船調査には極 力当研究所の職員を派遣する予定であるが、調整が困難な場合は関係水産研究所の協力をお願いしたいと考えている。

(海洋生産部長)


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