中央水研ニュースNo.11(平成14年7月発行)掲載 |
【情報の発信と交流】
研究室紹介-内水面利用部漁場管理研究室
木曾 克裕
私たちの研究室は平成5年4月1日付けで隅田川のほとり東京都中央区の勝どき庁舎から、ここ千曲川の ほとり上田庁舎へ移転してきた。東海区水産研究所時代の陸水部資源研究室を前身としており、さらに さかのぼれば東京都日野市にあった淡水区水産研究所にたどりつくらしい。当研究室には淡水研河川湖 沼部とペイントで書かれた年季の入った備品のいくつかが今も健在である。 私たちの研究室の定められた業務分担は「河川・湖沼の資源と漁場利用技術の開発」である。研究室 としては、遊漁も含めた内水面漁業のための水産資源管理の研究およびその基礎研究を研究の主な目標 としたいと考えている。これは海区水産研究所の資源管理部の研究内容に相当する。 魚種別にはアユ、サクラマス種群、ワカサギ、イワナを主に扱っている。この数年で担当してきた研 究課題は①放流用アユの種苗の性質に関する研究、②サクラマスの生活多型の実態解明、③蛍光色素に よるワカサギ卵の耳石標識方法の開発、④渓流棲息魚類の資源量推定方法の確立などである。このほか 、他の研究室とともに、環境庁地球環境プロジェクト研究「環境酸性化の魚類に与える影響に関する研 究」「希少魚類の個体群維持機構の解明」にも参加している。本年4月に新人を迎え、現在員3名でこれ らの研究を分担している。移転を機会に、地の利を生かした野外研究や、新実験施設を使った屋内/屋 外での実験を行い研究を発展させようと考えている。 移転を境に研究環境が一変したので、野外での新たな研究は緒についたばかりであると言える。ここ では魚類生態研究室および長野県水産試験場佐久支場と共同で平成5年よりデータを取り始め、現在調査 を継続しているイワナ調査の一端を紹介したい。 イワナは日本の河川では最も標高の高いところまで分布する魚であり、かつては山村の重要な蛋白源 であった。現在ではイワナをねらう職漁師はほとんどいないが、遊漁の対象として重要であり、河川の 漁業協同組合も強い関心を持っている。本州中部では主に河川の最上流部だけに棲むため、棲息場所は 細かく分断されており、河川改修や遊漁者の増加で数が減っているところもある。水産資源として活用 するには資源管理をする必要がある。人工孵化した魚を放流するというのも一つの方法であるが、イワ ナのように棲息場所が分かれている魚種では遺伝的多様性を保ちながら、天然の再生産を活用していく 方法も考えてゆく必要があるだろう。このためには、自然の個体群の動態や再生産の仕組みを調査する 必要があり、調査方法の確立も含めたこれらの研究を手がけている。 調査は遠くに八ケ岳を望む信濃川水系の山地渓流で行っている。写真に示す電気ショッカーという漁 具を使ってイワナを気絶させて採集し、体長・体重を測り、標識を付けて放流し、翌日に再捕して標識 の付いたイワナと付いていないイワナの割合から調査区間にいるイワナの数を求める。これを1年を通 して行い、個体数や成長の季節変化や年変化を求めている。四季の移り変わりの中で生命の躍動を十分 に感じながら調査は続けられている。ときには熊に注意しつつ...。結果を出すにはもう少し時間が 必要であり、別の機会に紹介することとしたい。
川や湖の利用の仕方はいろいろあり、内水面の水産研究の方向も当然いろいろなものがあると思う。
私たちの研究室では、川や湖の魚を資源として捉え、魚類の個体群を主な対象として研究を進めてゆき
たいと考えている。 ![]() (内水面利用部漁場管理研究室長)
Tatsuhiro Kiso
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