中央水産研究所の立場

原 武史


 西海区水産研究所に勤務していた平成5年の出来事として、総務庁九州管区行政監察局から、「地方支分部局 、附属機関定員管理等実態調査」のために、水産研究所に出向くとの連絡があったのは、紫陽花の咲く頃のこと であったろうか。総務庁からの調査というと、昭和62年以降組織の見直しを求められた経緯もあり、「また、 組織定員の問題が取り上げられるのか。」という緊張が走った。実態調査が8月と決定したので、水産庁とも連 絡を取りながら、資料等の準備を行い当日を迎えることとなった。総務庁から質問された事項のうち、水産庁研 究所の組織を維持するために重要と考えられる事項は、水産研究所間の調整に関する質問である。平成元年に施 行された水産庁長官通達では、中央水産研究所による水産研究所間の連携・調整として、中央水産研究所長を水 産研究所の連携・調整に協力する貢任者として位置付け、日常的に水産研究所間で調整を要する問題の摘出に努 めなければならないこと、連携・調整を円滑に行うため、水産業関係試験研究推進会議を開催すること、会議を 円滑に運営するため、各水産庁研究所長は所要の協力をすることが求められている。
 水産庁長官通達が発出された経緯としては、昭和62年10月の水産関係9研究所研究レビュー報告書による と、水産庁研究所相互間にまたがる総合調整機能の強化として、水産増養殖、水産工学、漁場環境保全等の各研 究分野間の連携協力の強化のため、研究の協力分担関係の明確化及び研究調整機能の強化が必要であることが指 摘されている。また、昭和63年8月の水産庁研究所マネージメントレビュー報告書によると、水産庁研究所に おける他機関との分担・連携のあり方について、総合的・効率的な試験研究の推進を図るためには、水産研究所 相互間の連携強化を図ること、農林関係等国立試験研究機関との協力の充実を図ること、産・官・学の連携を深 めることの必要性が指摘されている。さらに、昭和63年10月の行政監察勧告によると、水産研究調整のあり 方の見直しに関して、従来、各水産研究所にわたる研究の連携・調整は、水産庁(研究部)が農林水産技術会議 と連携を図りながら行うとされているが、複数の研究所による体系的・総合的な研究の推進を図る必要がある場 合において、水産庁による調整が十分に行われていない状況が認められることを指摘し、見直しを求めている。 すなわち、研究の企画・実施の段階において、水産研究所間での研究課題・内容及び研究手法の調整、研究成果 の有機的活用等研究の内容に係る調整を的確に行うためには、各水産研究所が行う研究の専門性等にかんがみ、 第一次的には水産研究所サイドに調整原案の取りまとめを委ね、水産庁はこれを基に行政施策との関連性等総合 的見地から調整することがより効果的と考えられるため、特定の水産研究所長を当該調整に協力する責任者とし て位置付け、同所長に、各水産研究所との連携・調整及び研究内容に係わる調整原案の取りまとめを委ねる等研 究調整のあり方について見直しを行うことを求めている。
 このような背景があって、水産庁としては昭和63年から平成元年にかけて、水産研究所の組織改正を行い、水 産研究所は資源管理部、海洋環境部及び資源増殖部の三部構成を基本とする体制の整備が図られ、さらに、全国 的視野からの共通基盤的研究、総合的体系的研究等を推進するため、東海区水産研究所を中央水産研究所に改組 することが決定されたのである。束海区水産研究所の見直しの方向としては、各水産研究所で分担する研究分野 のうち、全国的視野からの共通基盤的研究を推進するため、資源部及び生物化学部を廃止して、生物生態部と生 物機能部に再編し、海洋部を海洋生産部に再編したのである。また、他の水産研究所で分担していない研究分野 における基盤的研究を推進するため、数理統計部を廃止して経営経済部に、利用部及び保蔵部を利用化学部及び 加工流通部に、水質部を環境保全部に、陸水部を内水面利用部に改組し、水産研究所が行う研究分野に関する総 合的体系的研究を推進するために、放射能利用部を廃止して水産研究官を新設し、企画調整機能を充実するため 、企画連絡室を企画調整部に改組したのである。
 西海区水産研究所における総務庁との対応では、すべての質問事項に対して、水産庁長官通達に代表されるよう な文書の提出とその説明が求められたので、まず、該当の文書があるかどうかを捜すことから仕事が始まるが、 水産研究所間の調整に関しては、基本となる水産庁長官通達以外には、中央水産研究所長からの文書は見当たら ず、各年度ごとに1回開催される水産業関係試験研究推進会議の開催文書を提出したのにとどまった。
海区の水産研究所の立場としては、中央水産研究所による連携・調整という新しい方式よりも、昔から馴れ親し んでいる水産庁による総合的な調整のみが存在する従来からの方式の方が、海区の独立性と独自性を発揮し易く 、しかも所長の裁量権も大きいこともあって、実態に合致した方式と考えられる。このような事情もあって、水 産庁長官通達が発せられて以降、事務を円滑に処理するための運用方式が決まらないまま、今日を迎えたといっ ても良いのではないかと思われる。
 総務庁に対する回答としては、公文書はないけれども事務連絡あるいは電話、ファクシミリ等の連絡手段によ って、日常的に必要な連絡は行われており、水産研究所問の連携・調整は軌道に乗っている旨を説明して、お引 き取りいただいたのである。その後、平成5年9月に開催された水産庁研究所長会議において、担当所長として 総務庁による調査の概要を報告するとともに、今後の対応として水産庁研究所間の連携・調整等について、水産 庁長官通達の主旨に添って、文書化しておく必要性を提起したが、今日まで何の進展もみられなかったのが実態 である。
 今年3月に中央水産研究所に赴任して、着任の挨拶として中央水産研究所は海区水産研究所としての機能ばか りでなく、水産研究所を総合的に調整する機能を有しており、さらに、全国的視野に立った共通基盤的研究を担 当する機能があることなど、西海区水産研究所に勤務していた時に感じていたことを述べた。同時に地方にいる と中央水産研究所は海区としての姿は見えてくるが、総合的調整機能と基盤的研究機能は見えてこないので、今 後これらの機能が見えるようにすることが当面の仕事であることを強調した。中央水産研究所の発揮されていな い機能を、どのように見えるようにしていくのかは、なかなか難しい問題であるが、次のような問題について検 討し、結論を得たいと考えている。

 1)当面、中央水産研究所長が水産研究所間の連携・調整に協力する責任者と位置付けられてはいるので、水産 研究所間の連携・調整の具体的方式を決定しなければならない。2)農林水産省組織令(第213条)によると 、水産庁の施設等機関として、水産研究所、養殖研究所、水産工学研究所とが併記されており、これをみる限り 総合的な調整は水産庁に委ねるという考え方で良いのであろうか。しかし、水産庁長官通達によると、中央水産 研究所長は、水産研究所の連携・調整を円滑に行うため、水産業関係試験研究推進会議を開催し、各水産庁研究 所長は中央水産研究所長に所要の協力を行うこととされている。水産庁研究所間の連携・調整については、行政 監察勧告でも言及されていないが、研究の推進方向等もっぱら専門的立場から連携・調整を必要とする事項につ いて、この推進会議の場を利用することは、現行の制度上から問題があるのであろうか。3)中央水産研究所に は全国的視野からの共通基盤的研究を担当する研究部門が存在するので、水産研究所ばかりでなく、養殖研究所 及び水産工学研究所との研究の連携を強化することが必要であるが、問題は研究の推進に係わる事項なので、水 産庁研究所問で調整できるシステムを構築しなけれぱならないと考えている。4)農業場所のように専門調整と 地域調整に分け、それぞれに調整協力責任者が決められており、その貢任者が試験研究推進会議を開催すること とされている。しかし、水産では調整区分は「水産」のみであり、専門調整に係る部分が見当たらないので、研 究問題に対する調整を水産庁に委ねるのか、第一次的に水産庁研究所間での調整が行われるようにするのかを議 論しなけれぱならないと考えている。

 東海区水産研究所が中央水産研究所と改称されてから6年が経過し、庁舎が横浜市金沢区の現在地へ移転して きてから、早くも2年が経過しようとしている。その間に、研究施設、設備は以前より格段に整備され、研究環 境も飛躍的に改善されたが、そこで研究に従事している職員の意識はどのように変わったのであろうか。平成6 年に改訂された研究基本計画においては、「はしがき」では研究対象は地域と全国の2つの役割を持っており、 海区水産研究所としての機能と、全国的な立場として共通基盤的研究の機能が意識されていると考えられる。し かし、研究問題及び研究推進方向、研究課題の体系、研究課題の段階的達成目標と連携協力などの項では、最も 少ないといわれる海区水産研究所としての機能のみが強く印象付けられ、本来中央水産研究所が持つべき機能に ついては、読みとることが困難であるように感じられる。研究レビューを平成8年度に迎えることとなっている が、再び水産研究所間あるいは水産庁研究所間の研究の連携・調整に関して、触れられたくないと考えるのは小 職だけであろうか。

(所長)


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