1994 MAFF 国際ワークショップ

SURVIVAL STRATEGY IN EARLY LIFE STAGES

渡 邊 良 朗


 中央水研の玄関ホール受付に国外からの招へい研究者11名が到着して、"国際"ワークショップの雰囲気が一気 に盛り上がった。平成6年10月11日。今日の午後から3日間、魚類やアワビの生活史初期における生き残りに 関するワークショップの始まりである。初日の参加予定者は、国内から85名、国外から12名の合わせて97名 。受付を済ませた参加者は、12時を過ぎる頃から3階の講堂ロビーへと集まり、コーヒーを手にあちこちで話が はずんでいる。会場では午後1時から中央水研の英語版ビデオが上映され、生物生態部、海洋生産部など今回のワ ークショップに直接関係する分野のほか、利用加工、経営経済などの研究分野についても中央水研の研究活動が紹 介された。
 午後1時30分、東北水研山下室長の司会で1994 MAFF 国際ワークショップ"Survival Strategy in Early Life Stages" が開会された。最初にワークショップの主催者である農林水産技術会議事務局を代表して、丹治肇 研究開発課班長 が挨拶、続いて中央水研吉田主基所長から横浜への歓迎の挨拶が行われた。ワークショップ実行委員会事務局の中央 水研渡邊が開催の趣旨についての説明を行った後、第1セッションに入った。
 MAFF(農林水産省)国際ワークショップは、平成元年度に第1回が行われ、その後毎年1課題を取り上げて実施さ れている。水産庁研究所では、平成3年の第3回に、魚類の再生産と初期発育の内分泌をテーマとして養殖研究所で 行われたのが最初である。第6回目を迎えた今年度は、バイオコスモス水産生態系の浮魚制御系、浅海域生物制御系 、岩礁域生物制御系の3サブチームに共通する研究課題「初期生残」をテーマとして実施することが、平成5年7月 のバイオコスモス検討委員会で承認された。「初期生残」というテーマは、平成4年2月に東北水研で行われたバイ オコスモス研究打合わせ会の際に、3サブチームのサブリーダーほか数人による論議を経て提案されたものであり、 今回のワークショップはおよそ2年半の準備期間を経て実現したことになる。平成元年度から始まったバイオコスモ ス研究の中で、初期生残に関する研究成果を最新の研究動向の中で位置づけることによって、今後のバイオコスモス 研究の展開に役立てようというのが今回のワークショップのねらいである。
 第1セッション「親魚の栄養状態と卵質」では、京都大学農学部の田中克教授とノルウェー トロンハイム大学の Elin Kj rsvik 助教授の座長によって、Kj rsvik 助教授の基調講演のほか5題の研究発表が行われ、親魚の成熟と年 齢・栄養状態・環境要因との関係や親魚から卵へ添加されるホルモンなどの物質などについての論議が行われた。
 セッションで活発な論議が行われている間に、1階のラウンジでは市内のホテルからの出張サービスによってレセ プションの準備が進められた。第1セッション終了後、中央水研の浅野謙治主任研究官の司会でレセプションが始ま り、最初に水産庁研究部の嶋津参事官からの歓迎のあいさつ、次いで国外からの招聘研究者を代表してメリーランド 大学のHoude教授による感謝のあいさつが行われた。およそ90名の参加者は、グラスとお皿を手にセッションの緊張 もほぐれてなごやかな雰囲気で交流を深めた。レセプションの半ばには、ワークショップのロゴ(図参照)をデザイ ンした中央水研の岡崎恵美子主任研究官が紹介され、最後に松川康夫室長の一本締めで終了した。
 12日午前には第2セッション「仔魚の摂餌、生残、成長」が東北水研大関芳沖主任研究官と米国メリーランド大 学 Edward D. Houde 教授の座長によって行われ、Houde 教授とドイツキール大学の Catriona Clemmesen博士による 基調講演のほか、6題の研究発表に続いて、仔魚の餌料環境と栄養状態、成長と生き残りについての論議が行われた 。午後の第3セッション「卵仔魚の輸送」では東大海洋研究所 中田英昭助教授と英国スコットランド海洋研究所の Mike R. Heath 博士の座長によって、カナダ ダルハウジー大学の Christopher T. Taggart 博士、およびHeath博 士による基調講演の後3題の研究発表が行われ、卵仔魚の輸送過程と生き残りについての論議が行われた。
 13日午前の第4セッション「被食」は、東北水研山下洋室長と米国アラスカ水産研究センターの Richard D. Brodeur 博士の座長によって行われ、Brodeur博士およびオランダ海洋研究所のHenk van der Veer博士による基調講演に続く 5題の研究発表の後、減耗要因としての被食の重要性について論議が行われた。最後の第5セッション「着底と変態 」では、東北水研の関哲夫主任研究官と南オーストラリア研究所の Scorseby A. Shepherd 博士の座長によって、 Shepherd博士およびニュージーランド農水省水産研究所の Paul. E. McShane博士による基調講演と3題の論文が発 表され、アワビの浮遊期および着底初期の減耗などについて論議が行われた。
 第5セッション終了後、バイオコスモス水産生態系チームリーダー 森慶一郎 中央水研生物生態部長の閉会の挨拶 で研究発表を中心とするセッションを終了した。午後7時からはサンドイッチとビールが用意されたラウンジでイブ ニングセッションが行われた。バイオコスモス浮魚制御系サブリーダーの中央水研渡邊および浅海生物制御系サブリ ーダーの北水研南卓志室長からの話題提供と論議が行われた。このセッションでは、3日間の研究報告を終了した段 階で、バイオコスモス研究の今後の展開について国内外の研究者からの率直な意見を聞くことを期待した。時間の制 約もあって十分な論議ができなかったが、マイワシ研究に関してこれまでに蓄積された知見を総合的に検討すること の重要性が指摘されるなど、今後の研究計画に貴重な示唆を与えるコメントがなされた。
 今回のワークショップではマイワシや異体類、アワビの研究について、日本での研究の現状に関する国外の研究者 の認識を深めることができたと考えている。一方、招聘研究者からは、初期生残過程を成長速度と死亡率の比で解析 することの重要性など初期生残を研究する上での考え方や、それぞれの分野で新しく開発された研究手法による最新 の成果が報告され、各分野の研究の進展について参加者に刺激を与えた。ワークショップはこのような最新の研究動 向に関する情報交換の場となっただけでなく、アワビの着底と変態のセッションで研究発表した参加者がオーストラ リアへの招聘を受けたり、英国の研究者をマイワシの輸送に関する共同研究者として招聘する打ち合わせが行われた りと、今後の研究交流のきっかけを作る場ともなった。また、昼食時やコーヒーブレイクでは、論文でしか名前を知 らなかった国内外の研究者との個別の意見交換を通じて、各参加者の研究に対する意識を高める場ともなったと想像 している。Houde教授がレセプションの挨拶で話されたように、パソコンネットワークなどが発達して研究者間の情報 交換が速やかにかつ容易に行われるようになった今日でも、研究者が顔と顔とをつき合わせて論議する場の重要性は 少しも小さくなっていないことを改めて実感した3日間であった。参加者の今後の研究活動の中で今回のワークショ ップが何らかのきっかけになるとすれば、企画と実施を担当した世話役としては大変うれしいことである。
 以上のような経過で、2年あまり前から準備を進めた国際ワークショップは、新しい考え方や情報の交換、参加者 の研究に対する刺激、研究者相互の交流の面で成果を上げて予定通り終了した。今回のワークショップの開催を全面 的に支援していただいた農林水産技術会議事務局研究開発課および国際研究課の方々に篤くお礼申しあげる。今回の ワークショップでは、参加者の方々の周到な準備と活発な討論によって貴重な成果を上げることができた。積極的に ご参加いただいた参加者の方々に感謝する。また、ワークショップの成功のためのさまざまなご配慮をいただいた水 産庁研究課および中央水研総務部の方々に感謝の意を表する。

(生物生態部初期生態研究室長)


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