国際センタープロジェクト「メコンデルタ」のFSに参加して
河野秀雄
国際農林水産業研究センターのプロジェクト「メコンデルタにおける農林畜水複合技術体系の評価と改善」
のフィージビリティスタディ(FS)のため、このたびベトナムを訪問する機会がありましたので、調査結果
の概要をお伝えするとともに、二,三感想を述べてみたいと思います。
東南アジアには、稲作に林業、畜産、水産を組み込んだ複合農業システムが古くから存在したそうですが、
ベトナム南部のメコンデルタでも、現在、稲、マングローブ、豚、アヒル、魚、エビ等の栽培および養殖を、
うまく物質循環しつつ、ワンセットで行う農林畜水複合システムが広く採用されています。近年ではFAOも
このようなシステムを持続的農業の1タイプとして注目しています。しかし、このようなシステムについては
、経営的な評価や生態系保全に果たす効果の解明が十分ではなく、また、システムの中の個々の技術について
も改善の余地が大きいと考えられています。国際センターのプロジェクト研究は、このような背景に立ち、当
システムの評価と改善をねらいとするものです。
今回のベトナム訪問の目的は、研究機関やその管理機関および農業現場を訪ね、日本側が案として作成した
研究計画を説明した上、ベトナム側の考えを聞いて共同研究の分野を特定し、さらに共同研究の実施拠点を選
定することでした。研究が多分野に渡るため、稲、農業経済、畜産などの数人の専門家とともにでかけました
。調査結果の詳細および考察については既に国際センターに報告済みで、ここで詳しく述べることもできませ
んので、以下に水産分野の二,三の要点とこのFSに参加して得た感想のみ簡単に述べたいと思います。
水産部門でベトナム側がとくに希望する共同研究分野は、エビ、魚の種苗生産の研究およびこれらの魚種の
病気防除の研究でした。日本側は、なるべくならこのような分野を担当することのできる派遣可能な研究者を
選び、その者にあった研究課題をベトナム側に再提案するのがよいと思います。これらの分野で派遣可能な研
究者がいない場合には、その周辺分野でもよい。ただし、研究施設が貧弱であることから、高度な分析機器を
必要とする研究課題は適さず、なるべくならそのような機器を必要としない研究課題が望ましいと考えます。
研究拠点としては、カントー大学とクーロンデルタ稲研究所の両方が適当。これは、両機関とも複合農業シ
ステムの改良に熱意を持っていること、室内実験は前者で、現場研究は後者の実験フィールドでそれぞれ行え
るからです。
さて、このFSに参加しての感想ですが、1点目は、手抜き対応ではベトナム側の信頼を裏切ることになる
ので、国際センター水産部は勿論のこと、それを支援すべき立場にあるわれわれ水産研究所も相当本気でこれ
に取り組む覚悟をしなければならないという点です。ベトナムの研究者、行政官、一般の人びとの日本人に対
する態度は、好奇心に満ち、かつ、好意的です。彼らのこのような気持ちを、少なくとも裏切らないこと、こ
れが大切だと思います。
2点目は、農林畜水複合システムの研究は、農林畜水間で物質をうまく循環させるための研究であり、この
ような研究はまず日本でこそ行うべきだという点です。先日、あるウナギ養殖場を見学する機会がありました
が、ウナギ池の底に堆積した残餌、糞が汲み上げられて池のわきの空き地に打ち捨てられているという、研究
者の怠慢を指摘するような、残念な光景を見ました。物質を循環させてこそ、われわれの生産と社会は持続可
能になると思います。金にあかせて外国から資源を買ってきて、使い終わったら打ち捨てる、こういうやり方
が持続可能であるはずはないのですから。
(内水面利用部長)
ソウハウ国営農場でコイの養殖の現状を我々に熱心に説明するベトナムの技術者
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