新蒼鷹丸搭載機器の紹介 海洋調査測器
市川忠史
「あれっ、もう、岸壁を離れて動いているんだ!」
新蒼鷹丸乗船後の、最初の驚きは、船の静かさと揺れの少なさであった。素人なので、
船の構造、性能云々は全くわからないが、船体や研究室の拡大といった見た目の変化よ
りも、旧蒼鷹丸の乗船で体が覚えていた感覚との違いが新鮮であった。
11月13~14日と21~24日の2回、蒼鷹丸の海洋観測測器のテスト航海で船上の人となった。
この間にテストを行った主な測器はCTDシステム、ロゼット採水システム、ADCP、XBT、
曳航式CTD、EPCS、SBEMSの7測器である。全ての測器の紹介はできないが、いくつか代
表的で新しい(かつ私もよく知っている)測器を選んで紹介したいと思う。
CTDシステムとロゼット採水システムは旧船でもお馴染みのものである。
CTD(Conductivity, Temperature, Depth)は海洋の水温、電気伝導度(塩分)の連続
的な鉛直構造を、ケーブルの先にセンサーを付けて沈めていくことで調べる測器である。
データはケーブルを通してリアルタイムに船上で見ることができる。新船のCTDシステ
ムには従来からの水温、塩分、溶存酸素、水圧の情報に加え、濁度、クロロフィル、光
量子、および高度(海底からCTDまでの)の各センサーが取り付けられ、より多くの情
報が一度に得られるようになった。CTDと併せて使うロゼット採水システム(船上局から
指令で必要な水深で採水することができるシステム)も従来の倍、24本の採水器が一度
に取付けられるようになり、1回の観測で山のようなサンプルとデータを得ることがで
きるようになった(写真1)。
(写真1)
(写真2)
一方、CTD観測だけでは、海洋の鉛直断面構造を調べる場合、特に測点の間隔が荒け
れば得られたデータが何を意味しているのか考察するのが難しくなる。そこで、測点
間の移動中も鉛直的なデータを得ようとして考え出されたのが曳航式CTDである。外見
は少し太めのスペースシャトルといった感じで、それにスターウォーズのR2D2よろし
く(古い!)CTDと蛍光光度計が乗っている(写真2)。船速が7ノット以上になると
ウイングを動かして表層から水深200メートルまでを上下しながらせっせとデータを記
録していく。走り回るだけで測線上の水温、塩分、クロロフィルなどの連続データが
得られる仕組になっている。これを表層について、さらに簡便(システムは全て船上)
かつ多項目について観測できるようにしたものがEPCS(Electronic Particle Counting
and Sizing System、多項目測定装置)である。
EPCSは旧蒼鷹丸でも装備していたが、新船では、プランクトンの計量に、今までの電気
伝導度方式に加え、光学的に測定するセンサーを組み込み、今までより小さなプランク
トン(だいたい数十ミクロン)も計量できるようになった。また、水温、塩分、クロロ
フィルの各センサーの精度も向上している。
SBEMS(Submersible Biological Environment Monitoring System、水中現場型浮遊粒
子計測システム)は国内初登場(!)の測器で、EPCSが表層のプランクトンなどの水平
的な分布状態を見ていたのに対し、SBEMSでは鉛直的な分布(耐水圧は6000m)を調べる
ことが可能となる(写真)。いわば、EPCS鉛直版とも言える測器である。CTD同様にSBE
MSでもプランクトンなどの情報はケーブルを通して常に船上でモニターでき、さらに、
必要な水深でサンプルを捕集することもできるようになっている。CTDの物理化学的な
情報と同時に、SBEMSで生物量に関する情報が得られる意味は非常に大きく、生物生産
過程を明らかにしていく上で有効な武器になると考えられる。ただし、本格運用までに
は、いくつか解決しなければならない課題も残っている。
さて、以上のように、各測器の作動確認は終った。これからこれらの測器をうまく操り、
観測を行っていかなければならない。測器が増え、センサーが増え、これらがはきだす
データが船内LANをかけめぐる。この膨大な量の数字とサンプルの山の中から必要なデ
ータを取りだし、新しい水産海洋の研究の物語の検証を行っていかなければならない。
新船はそのベースであり、それをうまく操っていくのが我々研究者と船の乗組員の腕の
見せ所であろう。調査船を使えることに誇りをもちたいと思う。
最後に、新船では、風速15m/s程度でもほとんど揺れず(ただし相模湾で)、私でもき
ちんと食事ができたことをつけ加えておきたい。
(海洋生産部低次生産研究室)
NRIFS Home Page
水研ニュース10目次
この記事
khamada@nrifs.affrc.go.jp