研究室紹介
漁業管理研究室(経営経済部)
漁協等で聞き取り調査する時、自然を相手の夢とロマンに満ちた冒険談をよく聞かされる。このような話を聞くことは聞き取り
調査の楽しみの一つでもある。しかし、現実の漁業は経済行為として行われていることから「先獲り競争」や「漁家経営」などの
やっかいな問題にどう対応していくのかが必ず必要となる。そこで当研究室は漁業管理に関する社会経済学的問題の解明に当たっ
ている。
まず、室名にある漁業管理について少し説明する。水産生物学で言われる「資源管理」に対して、生物生産以外の経済学・社会
学・法学等の側面をも含んだ管理が「漁業管理」と考えられている。ただ現在推進されている「資源管理型漁業」はこの経済・社
会等の要素も加味されており、漁業管理に類した言葉がいろいろと使われているのが実情である。
「漁業管理」研究の中で生物的要素と経済的要素の評価はかなりの程度で可能と考えられる。もっとも、漁業の場合は他の産業
と比較して、デ-タがきちんとあるわけではなく、評価が困難であるが、デ-タさえ確保されれば評価出来る段階である。
さらに「漁業管理」には社会学及び法学の要素を考慮した評価についての研究も必要だがあまり多くなされていない。この理由
としては、水産に関するこの分野の研究者が育っていないこと、デ-タが少ないこと、価値判断の基準を取りにくいこと等ではと
考えている。一方、社会学からの評価への大きなヒントを与えるものとして厚生経済の視点から、当研究室の黒沼吉弘主任研究官
が「混合財(私財と公共財)としての水産資源の管理」で、天然水産資源の利用に関する新しい考え方を提言している。
現在行っている研究の中心の1つは、多様な漁業管理の形態を解明することである。
簡単に欧米の漁業管理にふれると基本的にはTAC(総許容漁獲量)を決めて、これをIQ(個別漁獲枠割当制)として個別の
漁業者に配分したり、これを譲渡可能としてITQ(譲渡可能個別割当制)を導入するケ-スが見られる。また、TACを決めた
後、このTACにあわせて漁獲努力量等(漁船数、馬力、操業日数、漁具等)の規制を行なうことで、総漁獲量をコントロ-ルし
ている国も多くある。
我が国の漁業管理は、沿岸域の共同漁業権に見られる漁業権漁業をもとにした自主的な漁業管理や共同漁業管理が行われている
。さらに沖合域や浮魚の管理は知事許可漁業や大臣許可漁業で制度として管理されており、さらに近年は「漁業管理指針」等によ
り漁業管理されている。
漁業管理の手法はこのようにinput規制(漁獲努力量等)とoutput規制(漁獲量等)の2つに大きく分けられるが、国連海洋法
の発効(1994年11月16日)にともない、我が国でもoutput規制が必要となってくる漁業もあると考えられている。そのた
めに外国の漁業管理の事例を知るためOECD水産委員会に出席して、各国の漁業管理の研究者と意見等を交わして、各国の漁業
管理の多様性を研究している。
もう1つの研究の焦点は「漁業管理システムの開発」で、これは水産資源の分析によって推定された資源量から設定される許容
漁獲量等を社会経済的視点から検討し、沿岸・沖合資源および漁場の最適な利用・漁業経営経済の持続的活動を考慮して我が国内
外の実情にそくした漁業管理システムの開発に取り組んでいる。
我が国は四方を海に囲まれ、世界の四大漁場の1つを200海里内に持つことからも、漁業が食料生産と地域経済にとって、極
めて重要な産業であることは論議をするまでもない。ただ天然生物資源を漁獲することから再生産を考慮すれば持続して何世代に
もわたって、海を経済活動の場として利用出来るわけだから、これを効率的に利用するためのマネージメントである漁業管理研究
の必要性は今後も増すものと考えている。
漁協や浜への聞き取り調査等に出かけた折には、よろしくお願いいたします。
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khamada@nrifs.affrc.go.jp