中央水研ニュースNo.9(平成6年7月発行)掲載


第1回日仏ワークショップ開催の裏話
「堆積物中における水質汚濁物質の挙動及び水産生物への毒性に関する知見の最近の進歩」
高柳 和史

 気候の比較的温暖な三浦半島でも寒さの身にしみる 1994年2月7日から2月11日まで標記ワークショップ を中央水産研究所横浜庁舎で開催した。中央水産研究所 とフランス国立海洋開発研究所(IFREMER)は日仏科 学技術協力協定のもと、沿岸海域の環境問題解決のため 種々の共同研究を行ってきた。その一環として底泥堆積 物に蓄積された水質汚濁物質が水環境及び海洋生態系に 及ぼす影響についてより一層理解を深め日仏二国間の研 究協力体制を堅固にするために標記ワークショップを開 催した。基調講演に石渡良志東京都立大学教授、海洋地 球化学研究所(パリ)のJ.M.Martin教授を招待し、フ ランス、カナダ、日本の簡単な研究紹介の後、地球化学 分科会(座長:松本英二名古屋大学教授)、生態毒性分科 会(座長:清水誠東京大学教授)、底質管理分科会(座 長:大槻晃東京水産大学教授)、水質・底質基準分科会 (座長:C.Alzieu IFREMER環境・沿岸整備局次長)に 分かれ活発な議論、意見交換が行われた。参加者はフラ ンスからフランス側の予算による者を含め13人、カナ ダからの招待者1名、記帳をしていただいた日本人51人、 その他レセプション、コーヒーブレイク、夜の部だ けの参加者も多数あった。ワークショップの内容につい ては報告書を読んでいただくとして、ここでは表からは 見えなかった隠れた話を幾つか紹介させていただく。
 標記ワークショップは科学技術庁の科学技術振興調整 費による重点国際交流課題として採択されたもので、確 か5月末に正式に農林水産技術会議を通して採択の旨連 絡があったように覚えている。初めの内は、実際開催す るのは翌年2月と言うことで時間も十分あるしと気軽に かまえていたわけであるが、実際準備を始めると難題が 続出してきた。この事業は科学技術庁の予算なのである が、実際に執行するのは(社)科学技術国際交流センター (JISTEC)ということで科学技術庁あるいは中央水産研 究所から企画運営委員の先生方およびワークショップ参 加者に公式に出席依頼状を発出することが出来なかっ た。それ故、企画運営委員会に出席される際は年次休暇 を取得して、またワークショップヘの参加は研究集会参 加ということで参加者には協力をお願いした。いつもは 余り感じていなかったが、この時はじめて研究交流促進 法のありがたみを感じた。
 次に困ったのはポスター、プログラムの印刷であっ た。12月は年賀状の印刷の季節。印刷屋さんはどこも大 混雑、無理をいってポスターだけは何とか早く仕上げて もらいフランス人には大変好評なものが出来上がった。 記念にとフランス人は庁舎内に掲示してあったポスター を持って帰るほどであった。しかし、プログラムはワー クショップの公式言語が英語(フランス人にとっても日 本人にとっても外国語)ということで、すべて英語で書 かれてあった。印刷屋さんは横文字には弱いようで、こ の通りコピーをし、綴じるだけと説明しても、なぜか間 違って出来上がってくる。結局完成品が出来上がったの はワークショップ10日前、関係者の方にはプログラム の郵送が遅れてご迷惑をかけたが、事務局の方もはらは らのしどおしだった。プロシーディングの印刷もしかり であり、200頁を越えるもので、通し頁をこちらで付け この通りと説明しても何故かうまくいかない。予算の執 行上すべて3月末までに完了せねば成らず、気苦労が多 かった。
 外国人参加者が宿泊するホテルについても困った。中 央水産研究所のある横浜市金沢区の埋立地一帯には八景 島シーパラダイス、人工海浜の海の公園と娯楽施設はあ るものの宿泊施設が無い。いろいろと思案したが結局旅 行代理店に依頼し横浜市の繁華街伊勢崎町のビジネスホ テルに、総勢16人の外国人(夫婦で来日した人が2組あ り)には泊まってもらうことにした。庁舎まで電車を乗 り継いで約1時間、迷子になる者が出ないか心配であっ たが期間中、驚くことに遅刻者は1人もいなかった。フ ランス人は時間にルーズだという先入観念を捨てる必要 があるかもしれない。電車賃が高いと苦情もあったが、 兎小屋に住む(ちょっと占い?)働き蜂のラッシュア ワーを経験するという得難い体験を積んでもらった。ま た、中華街も近い繁華街のホテルでの宿泊となれば、当 然のように夜は随分盛り上がったようである。日本人参 加者も加わってのカラオケ、パリとは比べようがないほ ど治安の良い深夜の港町の散策等ワークショップ以外で も横浜を満喫したようであり、1時間の通勤を心配した がこれでかえって良かったのではと、とりあえずはほっ とした。日本人参加者には各自でホテルの手配をお願い したのだが、ワークショップ参加者は全員同じホテルあ るいは近隣のホテルに宿泊をした方が良かったのではな いかと後悔している。歴史は夜作られるではないが、 ワークショップの様な機会には夜の親睦、交流も大切で あると実感した。しかし、国際交流が益々盛んになって きており、外国人研究者が気楽に泊まれるホテル、宿舎 等が庁舎の近くに欲しい。
 昼食についても思案を巡らした。庁舎の回りにレスト ラン、食堂の類はほとんど無い。電車に乗り洋食を食べ させるレストランヘ連れて行くか、隣の横浜市人病院内 のレストランに行くか、仕出し弁当を注文するか非常に 迷った。フランス人の意見を聞き、とりあえず初日だけ は仕出し弁当を注文し日本人参加者の希望者と共に庁舎 内ラウンジで会食ということにした。正直な話、ご飯も 冷えており余り美味しいとは思わなかったが、フランス 人には意外と好評であった。ナイフ、フオークを用意し たが、器用に箸を使い日本人参加者と歓談しながらの 上々な昼食であり、以後すべて仕出し弁当にして問題が また一つ解決した。イギリス人はフランス人をカエルを 食べる国民と馬鹿にするという話を聞いたことがある が、フランス人の何でも気味悪がらず食べてみるという “食べる事”に関する好奇心、興味には敬服する。また、 フランスはベトナム植民地時代の旧宗主国であり、フラ ンス国内にはベトナム系のレストランが多数あり(最も 中華料理とベトナム料理の区別が曖昧のようであるが)、 そこで箸を使う訓練は十分に積んでいたようであった。
 最終日は横須賀庁舎見学であったのだが無事京浜急行 三崎口駅まで約束の時間に来てくれてまずは安堵。2月11日 は建国記念日、祝日であったのだが横須賀総務分室 庶務係長以下総務の方も快く応援してくれた。休日に勤 務することは滅多に無いフランス人は恐縮していたが、 日本人の働き蜂ぶりが良く分かったのではないかと思 う。風光明媚な荒崎海岸、油壺湾見学とピクニック的な 要素も多分にあったが、天気も良く、ワークショップの フィナーレとしては有意義な一日だと感じた。
 やっと5日間の会議がこの様につつがなく終了したの であるが、最後に大変な難題が持ち上がった。2月11日 までは寒いながらも晴天が続いたのだが12日早朝から 横浜は大雪。週末を利用して京都、広島へ行く者あり、 すぐに成田へ行き帰国する者あり、11日の天気予報では 12日は雪と聞いていたがどうせ大本営発表の類であろ うとたかをくくっていたが朝起きてびっくり、そして頭 の中はからっぽになった。とにかく伊勢崎町のホテルま で直行。成田までのリムジンバス、成田エクスプレス、 京成スカイライナー全部運休。新幹線も遅れ始めている らしい。何とか新横浜まで京都広島グループを引率した が新横浜駅では電光掲示板が機能していないし駅員に聞 いてもいつ電車がくるか全く要領を得ず地下の待合室と ホームを行ったり来たり、結局吹きさらし横殴り、吹雪 のプラットホームで待つこと30分。やっと目的の新幹 線に乗せる。その後京都のホテルヘの連絡、成田空港近 辺でのホテルの手配等大変であったが、2日後皆無事に 東京駅に帰って来て、皆から有難うという言葉を聞き、 ほっとする。“ああ、やっとワークショップが終わった、 さあこれから報告書を書かなければ”がこの時の正直な 気持ちであった。
 近代的設備を備えた講堂、国際会議室等その機能を十 分に発揮させるほど使いこなせなかったのが残念である が、何事も初めての事務局としては一応合格点と考えて いる。横須賀庁舎勤務の者が事務局となり横浜庁舎で会 議を行うこととなり、新庁舎故わからぬ事も沢山あり企 画調整部、総務部の方々には色々と助けてもらった。特 に、赤嶺国際協力研究官(現生物生態部)、坂上会計課長 補佐(現日水研)、山田庶務係長(現水工研)には大変お 世話になり、感謝している。事務局ともなるととかく雑 用に追われ忙しいだけであるが、これにこりずまたの機 会には今回よりも盛大なものを開催したいと思ってい る。
(環境保全部水質化学研究室)
出席者集合写真
nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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