中央水研ニュースNo.9(平成6年7月発行)掲載

【研究室紹介】
資源生態研究室(生物生態部)


 研究棟5階の真ん中に位置する我が研究室からは幾つ かの建造物越しに金沢沖の海が見える。この海の中にも いわしやさばが泳いでいるはずだが、その姿を見ること は出来ない。資源生態研究室では、主として商業漁船の 漁獲努力量と漁獲量の資料及び独自に運航する調査船調 査結果の資料や漁獲物体長組成資料と鱗・耳石標本によ る年齢査定結果とを用いて推定した漁獲物年齢組成の資 料等から、資源量の推定や資源状態の評価を行ってい る。主要浮魚類の資源状態を評価することが目的という 仕事の性格上、スタッフ各人にそれぞれ机と椅子とパソ コンが与えられている以外、特に目新しい機器は無い (実験室には鱗標本等を観察するための万能投影機や顕 微鏡はある)。頼るのはもっぱらスタッフ個々人の気力 (能力?)と体力のみというところである。
 1973年から急激に増加傾向を示していたマイワシの 漁獲量は、1988年に449万トンの史上最高値を記録した 後急速に低下を始め、1993年には170万トン程度にまで 減少したと思われる。一方、かってマイワシの漁獲量が 数万トンと極めて低水準であった1960年代に100万ト ン以上を示したことのあるさば類(大部分はマサバ)の 漁獲量は、1990年以降も20~30万トン程度とマイワシ の減少した部分を補う状態にはなってはいない。同じく 1960年代には40万トン前後の漁獲を示してマイワシを 凌いでいたカタクチイワシも、近年低水準で推移してい たが、1990年以降は30万トン台へと若干の増加傾向を 示してはいる。しかし、その漁獲が飛躍的に伸びる兆候 は見られない。
 主要な浮魚類の経年漁獲量の割合の変化は、一つの魚 が減少すると別の魚が代わって増大し、あたかも魚種が 次々と交代して海の中に多量に出現しているかの様に見 える(図)。一般にはこれを「魚種交代」と呼ぶことが多 い。しかしこれは年々の魚種合計漁獲量に占める各魚種 の百分率を示したものであり、前述したごとく多量のマ イワシ漁獲の減少分をそっくり別の魚種が埋めているこ とを示している訳ではない。
 我が資源生態研究室では、毎年太平洋北区と中区(北 海道釧路沖~熊野灘)に分布するマイワシ・マサバ・カ タクチイワシの資源状態を調査研究して、関係する他の 水産研究所や各県水産試験場と共同で、7月、12月、3月 の年3回漁況の予測を行い公表している。また、今年末 までには我が国でも批准すると云われている「国連海洋 法」が発効すると、我が国周辺の200カイリ内の主要魚 類の資源量の推定や資源状態の評価が義務づけられるこ とになる。この面からも、精度の高い推定値の算出や評 価の実施を我が研究室が求められることとなろう。
 最近のマイワシ太平洋系群資源の急激な落ち込みの原 因は、皮肉にも史上最高の漁獲を記録した1988年に発 生した年級群の再生産状態が極めて悪かったことが発端 のようである。以後毎年発生するほとんどの年級群は再 生産状態が悪く、たまたまやや良好であった1992年級 も良好な状態にあった1987年以前の年級群に比べると 水準は低く、マイワシ資源の減少傾向に歯止めは掛かっ ていない。時間的には2~3年の遅れは見られるが、九州 西部、日本海のマイワシにもほぼ同様の傾向は見られる との報告がなされている。
 減少相に突入したマイワシの生物学的・生態学的変化 の実態と、増減がマイワシの存在と無関係ではないと云 われてきたマサバやカタクチイワシの諸々の情報を細大 漏らさず記録していき、我が国沿岸に分布するマイワシ では最初に減少傾向を示しはじめた太平洋系群及びそれ を取りまく浮魚類の生態の変化等を把握しておけば、魚 種交代の有無の科学的な証明は可能であると考えられ る。資源生態研究室5人のスタッフは、我々科学者に与 えられた千載一遇のチャンスをぜひとも実りあるものに したいものだと、胸を躍らせながら仕事をしている。
参考:日本周辺主要浮魚6種漁獲の経年変化
nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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