中央水研ニュースNo.9(平成6年7月発行)掲載

【研究室紹介】
食品特性研究室(加工流通部)

 食品特性研究室は水産物の需要拡大・付加価値向上の ため、水産物の食品としての性質に関する調査及び試験 研究を行う研究室であり、現在、主として水産物のにお い成分や魚肉中の微量必須元素といった水産物にとって は超微量成分をテーマに取り上げている。
 超微量成分といえども食品の品質や機能を大きく左右 する成分は少なくない。たとえば、におい成分をとって みても、サザエやウニの磯の香りやイカ焼きの香ばしい 匂いあるいはカキのフルーティな匂いなど、独特のフ レーバーで食卓を彩る水産物が数多くある。その一方 で、鮮度低下した水産物は“なまぐさ臭”や“やけ臭” が発生しやすく、「魚はくさいから嫌い」といった水産物 を敬遠する大きな原因の一つにもなっている。
 この水産物にとってマイナスとなる悪臭は幾つかの成 分が複合している。“生ぐさ臭”として代表的なトリメチ ルアミンを初めとするアミン・アンモニア類、後々まで “鼻につく臭い”は揮発性脂肪酸類、水産物独特の「やけ 臭」の主体は揮発性カルボニル類、タマネギが腐ったよ うな“不快臭”は揮発性含硫化合物などが原因物質とし て知られているが、それぞれ単独では鮮度の落ちた魚の 臭いとはほど遠く、中には微量ならむしろ芳香と感じら れる物質もある。
 このような成分の多くは鮮度低下とともに微生物の酵 素作用や空気中の酸素による酸化などによって生成され る成分で、ppb(十億分の一の単位)~ppm(百万分の一 の単位)の量で臭いとして感知される。このような鮮度 低下に起因する水産物の悪臭に係わる成分の検索や発生 防止法、除去法などの研究を通じて鮮度管理、貯蔵法の 改良などに寄与してきたが、現在では水産製品の流通機 構や管理が整備されて鮮度低下による悪臭の発生は少な くなってきた。
 それに替わり、魚が生きている時から体内に蓄積して いて加工によっても除去されない成分によると思われる 臭気クレームが増えてきた。水道水でも問題になること があるカビ臭のある水で飼育された淡水魚の泥臭、ある 時期のオキアミを多量に餌としたタラの石油臭などにつ いては内外で研究されてきているが、その他にも鮮度低 下が原因とは考えられない色々な臭いについての相談が 来ている。これらは、鮮度低下に伴って発生する臭い成 分よりさらに微量で臭いに関与しているものと思われ る。
 移転に伴ってGC-MS(ガスクロマトグラフィー・質 量分析計)などが拡充整備された。GC-MSは微量成分 の分離と成分名の検索が可能で、におい研究の強い味方 である。これら新たに整備された機器を駆使して水産物 のにおいの研究を進めて行きたい。
 さらに水産物の機能の評価として魚肉中の微量必須元 素に着目している。水産物はセレン、亜鉛、ヨウ素等の 微量元素の重要な供給源となっている。その内でもセレ ンは生体への必須性が近年になって証明された微量必須 元素で、重金属の解毒作用、抗ガン作用などの生理機能 が注目されている。
 マグロ類などの筋肉には畜肉などの食物に比べ高濃度 のセレンが含まれているが、セレンの生理活性はその存 在形態によって大きな違いがあるので、マグロを主体に 魚肉中のセレンの存在形態、分布、蓄積機構について研 究を進めている。
 このような水産食品の持つ健康性の評価には、動物飼 育施設や細胞培養施設を使っての研究が必要となるであ ろうし、魚類飼育施設を用いた生理状態との関連なども また重要課題となろう。新しくなった庁舎では、このよ うな研究テーマが一つの建物の中で行える。従来の食品 学にとどまらず、生物学や医学の境界を乗り越えた研究 を行う環境が整ったのではないだろうか。このような研 究を行いたい方、うちに来ませんか。我々も、2人だけの ささやかな室構成であるが、水産加工業ひいては水産業 の発展のため、微力ながら尽力して行きたい。

(においの表現として、良いにおいを“匂い”、悪臭や異 臭を“臭い”、どちらとも言えないあるいは両方を含むに おいを“におい"とした。)


nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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