中央水研ニュースNo.8(平成6年1月発行)掲載

【研究室紹介】
魚類生態研究室(内水面利用部)


 東海区水産研究所陸水部増殖研究室から平成元 年に上記研究室名に改称された。名前の通り、魚、 それも内水面に棲む魚(淡水魚)の生態を明かに することが目的の研究室である。「淡水」という 名前が室名のなかに入らなかったのは単にごろが 悪かったかららしい。略して生態研(現構成員は 特別研究員を含めて3名)。いかにも漠然とした 研究室名であるが、私は大変気に入っている。日 本も外国の研究者も「フム」と何もいわず納得し てくれる。これがなによりいい。内水面利用部は 北海道から沖縄までの陸水とそこに生息する生物 を対象とするというのが名目になっているし、実 際、水試との付き合いは全国に及ぶから、このく らい漠然としていていいのである。しかし、研究 は、当然のことながら具体的であった方がよい。 現在おもに3つの課題を中心に研究を行ってい る。第一は、通し回遊魚(アユなど)、陸封魚(イ ワナ・アマゴなど)、純淡水魚(コイ、モツゴ、 カワムツなどのコイの仲間)を対象にして摂餌や 繁殖生態を行動生態学的な観点から研究するこ と。たとえば、アユがなわばりを持つのはなぜか、 なわばりと成長の関係、琵琶湖産と海産の卵径の 違いとその意味、イワナにおける生活史の可塑性 とその意味などがこれらの研究の範中にはいる。
 第二は、個体群生態学的な研究。地球温暖化な どの地球規模で生じる環境変化にともなって、水 産生物(対象はアユとイワナ)はどのような影響 を受けるのか、を明かにしたいと考えている。こ れは、別枠研究の一環として本年度から始まった 課題であるが、これを機会に淡水魚類における個 体数の長期動態と個体の様ざまな挙動を迫跡した いと秘かに思っている。この手の研究は日本では 本当に少なくなってしまったけれど、研究の重要 性が少なくなったという訳では決してなく、希少 種の保護研究が叫ばれている現在ではむしろその 逆。この研究は、研究所に近い渓流を選んで行っ ている。こういう調査がお好きな方は、参加して みませんか。
 第三は、魚類群集に関する研究(群集生態学と いう)。今は、魚類とその餌生物の関係を明かに する研究を行っている。例えば、アユはこけ(珪 藻)を食べる。昆虫も藻類を食べる。ではアユと 昆虫はどのような関係にあるのか、昆虫にとって アユがいないほうがいいのかどうか。このような ことを明かにすることによって、河川の生物群集 がどのように成り立っているのかを明かにしよう とするものである。こうした研究は日本はもとよ り世界にもまだ、それほど多くはないと思う。
 課題はまだたくさんあるし、やりたいことは足 元にいくつもころがっている。手がたりないだけ。 現在は基礎的研究が多いが、基礎でも応用でも要 はそれが私たちをわくわくさせてくれる研究であ れば一層よい。また、得られた結果はなるべく早 く論文にすることを研究室のモットーのようなも のにしている。最近は、外国雑誌に投稿する研究 室員が増え(別にそうせよと言っている訳ではな い)、それがまた沢山の研究者に読んでもらうこ とになり、一層、研究意欲を駆り立てる、という ことになるのではないかと思えたりする。
 この紹介文に載せるために、研究室員に魚類生 態研究室員になってからの論文リスト(口頭発表 は含まない)の提出を求めたところ、井口(主任 研究官)、原著8、本を含む総説や解説文6、片 野(特別研究員、約一年半経過)、それぞれ4と6、 前川(室長)、それぞれ13と7であった。紙数 の関係で掲載をあきらめたが、本来このリストが もっともてっとり早い研究室紹介になるはずであ り、リストが必要な方は一報していただければす ぐに送ります。
nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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