中央水研ニュースNo.7(平成5年10月発行)掲載


研究のスタイルの新たな始まりに
(その後の組織改正のため、現在この部署は存在しません)
嶋津靖彦

 真新しい庁舎で最先端の研究施設と機器に恵ま れた中央水研の研究活動は今後どのように先端的 に展開して行くのか、多くの関係者の熱い視線を 承知している。改めて出発点に立って研究のあり 方について考えると、もはや従来の延長ではあり 得ないことに気付く。
 今回の整備によって著しく恵まれた中央水研の 研究施設と機器を活用して研究を実施する機会を 渇望する外部の研究者は、すでにかなり多数いる し今後も増えることだろう。この恵まれた条件を どう活用するか、現在中央水研にいる私たちは真 剣に考え、行動し、成果を提示しなければならな い。
 人・金・物の3要素が揃ったとき研究は大きく 発展する。横浜新庁舎では「物」の整備は進み、 勝どき庁舎にはなかった最新鋭の施設と機器によ って先端的な研究を切り開く条件はできた。幸い にして、施設の運営経費としてはかなりの額が獲 得できているから、後はプロジェクト研究等に積 極的に応募して、自らの汗によって研究資金を獲 得すればよい。そうすれば、今まで「物」と「金」 が研究推進の制約条件となっていたような、いわ ゆるハード型の研究はここ横浜新庁舎で今後は著 しく進むことが期待できるし、その成果を提示す ることが求められている。
 中央水研にはまた、施設や機器などの装備=ハ ードに依存する度合が必ずしも大きくないいわゆ るソフト型の研究も多い。いわば「人」に依存す る度合の更に大きな研究分野である。例えば経営 経済の研究や資源管理に関連する研究の分野では、 研究者一人当りの床面積が2倍になったからとい って中に住む研究者の頭脳が直ちに2倍になるわ けではなく、新庁舎の環境が与える影響はより問 接的にならざるを得ないから、今後の研究の 成果についてはもう少し長い目で見て貰う必要が あるだろう。
 ハード型でもソフト型でも研究に占める「人」 の要素は最も大きい。人材の確保・育成の重要さ が強調されるゆえんである。毎年の新人の研修で 私は研究者としていかにあるべきかを3点に集約 して話している。まず第1に科学者であるから、 その証として学術論文を印刷・発表できなければ、 ならない。第2には水産庁の研究所に勤務する公 務員であるから、組織人として組織のルールを尊 重し、期待されている役割を誠実に果たさなけれ ばならない。第3には地域の学識経験者として、 例えば学会の裏方的な活動をも含めた地道な役割 を果たすことが期待されていると。研究に対 する意欲と情熱を持ち、絶えず自覚を新たにしつ つ自己研鑽の努力を積み重ねて行く内的な戦いが 研究であるから、ハード型の研究にしても、ソフ ト型の研究にしても、今回の新庁舎の建設と移転 が直接・問接に大きな正のインパクトを与え続け ることはまちがいない。
 しかし、最先端の施設と機器に恵まれた中央水 研の今後の研究のあり方は、これらのメリットを 活用して自らの研究を先端的に展開するという、 従来のスタイルの延長ではもはやあり得ない。外 部の研究者に対しても最先端の研究施設と機器の 利活用を促進することが期待され、要請されてい る。従来指摘されてきた研究交流、指導、研修、 成果の広報等への対応の足腰の弱さを克服しつ つ、「開かれた」運営をすること中央水研が このような研究のあり方を指向することはもはや 当然のこととなってきている。こうした新たな研 究のスタイルを実践して行くことによって研究の 活性化を目指す、いわば開かれた、優しい心での 「開かれた研究所」の運営である。このことは古 くて狭い旧庁舎では必ずしも十分認識されていな かった課題であり、新天地へ移転した今、大きな 投資に応えるべき研究者の意識と行動の変革が迫 られているのである。
(企画調整部長)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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