中央水研ニュースNo.7(平成5年10月発行)掲載


新しい施設を活用した研究の効率的推進
(その後の組織改正のため、現在この部署は存在しません)
村井 武四

 貴重な水産資源を有効、かつ持続的に利用する ために、水産生物の持つ多様な機能と特性をよく 知る必要がある。そのために、生物機能部は水産 生物の発生、分化、成長、代謝情報交換などの生 理的な機能および逃避行動や環境変化に対する適 応などの仕組みを分子、細胞、個体レベルで明ら かにする研究を行っている。近年、このようなラ イフサイエンス分野の研究の進展はめざましく、 次々と開発される新しい分析機器を用いた手法が 導入されている。最先端の研究を行うには、研究 者自身のたゆまぬ努力のみならずこのような機器 を含む研究環境の整備が不可欠となっている。横 浜新庁舎の研究環境が勝どき庁舎と比較してどの ように向上したか、具体的に紹介したい。
 当部では平成4年度から、3研究室が協力して 重点基礎研究「海水中における魚類の体内エネル ギーフローに関する研究」に取り組んでいる。こ の研究は、海水と淡水中で同時に並行して飼育可 能なシロザケ稚魚を実験動物として、魚類のエネ ルギー代謝の特異性を明らかにすることを目的と している。勝どき庁舎の飼育施設は、海水での飼 育を想定した物ではなく、淡水でさえその使用量 が限られ、長期問の給餌飼育は不可能であった。 そこで、苦肉の策として、海水(人工海水使用) と淡水飼育共に循環濾過装置を用いて、排泄物に よる水質の悪化が少ない無給餌試験を行い、この 期問中のシロザケの体成分減少量からエネルギー 消費量を算定する方法を取らざるを得なかった。 これに対して、新庁舎の魚介藻類飼育実験施設で は、3系統の調温された淡水と海水が自由に使用)」 でき、排泄物による飼育水の悪化を心配せず、長 期問の給餌試験も可能となった。このように個体 レベルの研究で勝どき時代に味わった苦労は昔話 となった。
 また、さけ・ます類などの遡河性魚類では稚魚 が降海する前後にプロラクチン、甲状腺および成 長ホルモンなど種々のホルモン分泌量が顕著に変 動することが知られている。そして、これらの変 化が魚のエネルギー代謝に大きな影響を与えるこ とも知られている。そこで、このプロジェクトで も淡水と海水中で絶食させた魚のこれらのホルモ ン分泌量の違いを調べ、エネルギー代謝への影響 を検討した。ごく微量しか分泌されないホルモン の定量にはアイソトープを用いる方法(ラジオイ ムノアッセイ)が不可欠である。しかし、勝どき 庁舎のRI実験施設は老朽化のためヨウ素が使用 できず、東京大学海洋研究所の協力を仰いで行っ てきた。近い将来当所施設にγ線シンチレーショ ンカウンターが整備されれば、ヨウ素ラベルによ るラジオイムノアッセイでこれらのホルモンの定 量が可能となる。さらに、この施設内で、短期間 であればRIを投与した魚類の飼育実験も可能で あり、生理活性物質などの機能解明に関する研究 の飛躍的進展が期待できる。
 分子レベルの研究として、バイオテクノロジー 開発研究「動物遺伝子の解析と利用技術の開発」 の中で、パルブアルブミンの遺伝子構造と機能の 解明を進めている。この研究で、魚類の筋肉中に 多量に存在するが、その機能が未解明なパルブア ルブミンのcDNAの塩基配列をRIを用いた従来 の方法で決定した。この方法では、1日目にシー ケンス反応と電気泳導を行った後、オートラジオ グラフにかけ、2日あるいは3日目に現像し、フ ィルムを肉眼で読み配列を決定するため、煩雑で 時間を要した。さらに、決定した塩基配列をコン ピュータに打ち込み、解析用ソフトを用いて解析 する必要がある。今度新庁舎に導入されたDNA シーケンサーシステムでは、1日目の反応終了後 この装置にかけると、翌朝には自動的に塩基配列 が決定されている。また、配列はデジタルデータ になっているため、そのまま解析ソフトによる迅 速な解析が可能となり、省力化も図れる。一刻を 争う分子生物学関連の研究には、この装置は極め て強力な武器となる。
 以上のように、当部の研究を推進するための研 究環境は以前に較べ飛躍的に改善された。今後こ れらの施設を有効に活用して、次々と素晴らしい 成果を上げ、多くの方々の期待に応えられるよう 努力して行きたい。
(生物機能部長)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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