中央水研ニュースNo.7(平成5年10月発行)掲載


新しい建物の中に有機的な組織を
(その後の組織改正のため、現在この部署は存在しません)
森 慶一郎

 容物がどこまで中味に影響するかを一般的に定 義するのは難しいが、研究の環境としては、思考 の集中とその継続を可能とする静かさと、ある程 度の空間が必要なことは確からしい。幸いにして、 新庁舎ではほぼ申し分なくこれらの条件がかなえ られてる。実験を主体とする部門とフィールドワ ークを主とする部門との違いがあっても、企画・ 立案と結果の解釈はすべて頭の中での思考による ものであるから、このような環境ならばおそらく よい仕事が出来るであろう。
 移転に前後して生物生態部でも耳石日輪自動解 析システム、組織学標本自動作製装置等いくつか の新しい研究機器が整備された。これらの装置は それぞれ画期的なもので、例えば耳石解析装置で は体長10mmにも満たない仔魚の耳石上の輪紋を 読み取り、卵から孵化した後の経過日数すなわち 日齢を知ることが出来る。画面上の映像にカーソ ルを合わせて中心と読み取りの方向を定め、外向 きに読み取って行き、輪紋がたどれなくなったら 測定軸を切り替えて読み取りを続ける。最後に一 本の軸上で読み取ったのと同じ結果になるように プログラムが作られているし、耳石の映像を磁気 媒体に保存し、更に必要とあればその個体の成長 式、成長曲線の計算まで瞬時にやってのける。こ の装置の導入で、発育初期の成長、減耗に関する 研究の質が飛躍的に向上した。しかも、これらの 装置はときたま使われるというのではなく、ルー チンとして研究に組み込まれているのだから、資 源部も変わったものだという感じが強い。
 これを言い替えれば、研究の間口が広くなった ということになるし、資源部門でもこれからの趨 勢として専門分化がいっそう進んでいくことは確 実であろう。そこで必要になるのは全体を統合す る共通の理念、意識ということになるかと思う。 これは建物や装置類の問題ではなく、専ら人問の 側の問題で、共通の目標を意識し、それに向かっ て分担しながら協力するという有機的な組織を作 って行く必要がある。管理が統制や強制にならな いように、十分な配慮が必要ではあるが、それ以 前に個々の研究者が研究対象に対する確かな認識 を持つことの方がより重要かと思う。新人を含め て、それぞれの研究者が自信と誇りを持って仕事 に取組めるよう配慮し、活発な議論を起こして行 きたいものと思う。
 勝どきから横浜へという地理的な移動の影響 は、日常生活に関する限りほとんど感じられず、 周囲の様子に慣れるにしたがって、横浜も大東京 の一部という印象が強くなって来る。むしろ、ワ ックスで磨きあげられた長い廊下、音もなく動く エレベーター等々横浜庁舎のほうがよほど「都会 的な」感じがするし、高級な機械類を使いこなし て、抽象化されたレベルでの研究をやるにはこち らの方が似合うかも知れない。しかし、勝どきと 異なり、ここからは海が見えるし、網を曳いてい る漁船を窓からながめることもできる。そして何 よりも心強いのは、伝統と実績のある神奈川県水 産試験場が気軽に往復できる距離内にあることで ある。研究の専門分化、高度化は避けられないに しても、資源研究が基本的にフィールド科学であ る以上、研究テーマの正しい設定、つまり、何が 問題なのか、どこをつつけば良いのかの判断は現 場から離れては成り立たない。その点でフィール ドに強い水試の研究者に学ぶところ大であると期 待している。これから必要なことは、居心地の良 さにひかれてひたすら閉じ込もることなく、水試 その他とのおつきあいも含めて、自分の方からと にかく外に出て行くことであることを銘記した い。
(生物生態部長)

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