中央水研ニュースNo.7(平成5年10月発行)掲載 |
水産海洋研究のより一層の発展をめざして
熊田 弘
海洋生産部は平成元年の見直しにより、従来か ら実施してきた東海区対応の試験研究に加えて、 他の海区水研の海洋環境部の研究に関連した共通 基盤的研究を推進する役割を担っている。この一 環として、地球温暖化が海洋生態系に及ぼす影響 に関する基礎的研究や国際共同研究にも積極的に 、取り組んできている。横浜市金沢区への新築移転 にあたっては、当部の取り組むべき研究領域の拡 大と深化に対応出来るように研究施設と分析機器 の充実強化を図った。以下に新庁舎の完成に伴う 新しい施設、機器について紹介する。 地球温暖化問題では、全地球的規模での広域的 な観測や国際共同調査研究に取り組む必要があ る。そのためには、観測船による調査とともに人 工衛星によるリモートセンシング技術を積極的に 取り入れることが研究を進展させるうえで重要で ある。新庁舎では、従来行ってきた磁気媒体によ る画像解析手法に加え、人工衛星からの情報をリ アルタイムで受信出来る装置を新たに導入した。 この装置により、NOAA衛星からの海面水温情 報のみでなく、来年打ち上げが予定されている米 国の気象・海洋衛星SeaStarや、近い将来打 ち上げが予定されている我が国の地球観測プラッ トフォーム技術衛星ADEOSからの海色情報の 取得も可能となり、基礎生産力の指標となるクロ ロフィルの広域的分布と変動を把握することが出 来るようになる。また、海流調査などでよく利用 されるアルゴスブイからの直接的な情報取得も可 能である。この装置によって得られるデータは、 中央水研で実施する海洋構造の変動機構と生物生 産に関する試験研究の推進に寄与すると同時に各 海区水研、都道府県水試、漁業情報サービスセン ター等への迅速な情報提供も可能となり当所がめ ざす「開かれた研究所」としての役割も果たすこ とが出来る。 また、地球温暖化が海洋の炭素循環に及ぼす影 響に関する研究を推進するため、新たに全炭酸測 定のためのカーボンクーロメータを設置した。現 在国際共同研究として実施されているWOCE (世界海洋循環実験)において海洋の物理、化学 環境に関するきわめて精度の高い観測が実施され ているが、海水中の全炭酸の濃度についてはこの 機器によるデータのみが採用されることになって おり、当部でも国際的な信頼を得られるデータを 提供するためにこの手法を取り入れることにし た。 環境放射能関係では、近年増加しつつある各種 原子力施設の平常時及び事故時の、また近く予定 されている核燃料サイクル施設の稼働や高速増殖 炉による発電等の漁場環境への影響に関する研究 に取り組むため、超ウラン元素の分析ができるア クチノイド分析室を新設した。また、食物連鎖を 通じての海産生物への放射性核種の濃縮機構を解 明するために最先端の機器である安定同位体分析 装置を設置した。この装置を活用することにより、 海洋生態系をめぐる放射性核種の移行蓄積過程に ついての基礎的な研究が進展するのみでなく、栄 養塩類の循環過程や餌料生物の生産機構に関する 調査研究の推進にも寄与するものと期待される。 以上に紹介したように、新庁舎にはさまざまな 施設や機器の充実がはかられた。海洋生産部員一 同はこれを最大限活用し、実り豊かな成果を上げ るよう精進していきたい。 (海洋生産部長)
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