中央水研ニュースNo.6(平成5年3月発行)掲載 |
「開かれた研究所」を求めて
芦田 勝朗
「開かれた研究所」という構想は、中央水研の 横浜新庁舎への移転が決定された時点からすでに 提唱されており、新庁舎の設計思想の中にも導入 されている。この構想の依りどころとしては、今 日では少なくとも次の4点があげられる。その1 は、金沢バイオパーク(研究所グループ)に参入 するにあたり、横浜市と地域住民を相手として研 究所グループが約束した遺伝子組替え等の実験を 行うバイオハザード施設の運用面での開示であり、 これは、いわば「開かれた研究所」の原点である。 その2には、水産庁企画課に所属していた水産 資料館を当所に合併吸収することに伴う漁業関係 資・史料の一般向け閲覧業務の開始があり、その 3には、研究施設の他水産庁研究所・国立研究所 等との協同利用の推進、その4には、都道府県水 産試験場への研究施設の一層の開放がある。特に、 後段の2項については従釆の研究施設の老朽化と 狭小さの制約の中で宿題あるいは心理的負担となっ ていたものであるが、幸い今回の新庁舎・施設の 拡充強化を契機として実現を図らねばならない事 項である。これらの4項目を軸とする研究所の運 営に係る構想の実現に向けて、今後さらに所内の 構成員の知恵を集めることが必要である。 どうすれば新庁舎において中央水研が「開かれ た研究所」であると言えるのか、このイメージの 具体化へ向けて移転対策本部連絡調整班では本年 2月に所内アンケート調査を行い、さらにソフト 班の協力も得て所内意見交換会を実施した。アン ケート調査の設問は計5問で、3問がイエス、ノー の選択式、2問が記述式である。 第1問の「開かれた研究所という言葉を知って いましたか?」に対しては、64%の人が知ってい ると回答した。第2問の「現在の中央水研が開か れた研究所と思いますか?」に対しては、そうは 思わない者が74%で、イエスと答えた者の3倍に 達している。「新庁舎においては、今より一層開 かれた研究所にすべきであ一ると思いますか?」と いう第3問に対しては、76%がそうすべきである と回答している。回答者個々のもつ「開かれた研 究所」のイメージに対して、現在の中央水研のあ り方は努力が足りないということが明白である。 あとの2問では、「開かれた中央水研とはどの ようなものであるのか、あなたのイメージを書い て下さい」、「開かれた中央水研にするには、具体 的に誰を対象として、どのようなことをしたらよ いのか、あなたの意見を書いて下さい。」とお願 いした。これらに対する記入意見については、連 絡調整班で対象別・項目別にほぼ集約を終えたと ころであるが、B4版で6ぺ一ジにも達する分量 があり、意見の幅広さとイメージ、アイデアの豊 かさに感心するとともに、所員の熱意を感じてい る。これらをもとに、r開かれた研究所」の実践 へ向けて今後所内で検討し、実行してゆくことが 必要である。研究所公開等の特別の催し物を実施 するだけでなく、既存の諸制度を積極的に活用し つつ研究所の日常的な運営の中で実践を積み重ね て行く、いわば地道な活動が中心となる姿が見え てきたと言えよう。 所内意見交換会には25名の参加者があり、活発 な議論が行われた。その概要については連絡調整 班が発行している移転対策本部にゅ一ず第9号に 掲載した。まず、研究者に対しては、研究発表数 が少ない、得られた結果は必ず発表する、外部へ のサービスよりもまず研究の成果自体をよりよい ものとすべき等と、研究者の質の向上を期待する とともに広報活動への対応の少なさカ潴摘された。 研究者が何をしているのか、所内での相互理解を 図る必要性が総務関係者から指摘された。 研究環境に対する意見としては、所内の研究推 進、人事交流、研修等についての運営面での柔軟 性、水研問や水試との人事交流、共同研究の必要 惟と手続きの柔軟性についての意見が多数あった。 これらについては、日常的管理・運営の中で実施 して行けばよいとの意見もあった。漁業者との交 流の必要性に対する意見もあったが、具体的なや り方は今後の課題である。一般に対する研究所の 公開については、ソフト班が準備している案内情 報システム、展示、海の相談室等のアイデアが出 されたが、一方でこれらへの対応に必要な人的資 源、予算、機器とソフトの破損リスクなどの問題 点が多く指摘された。「開かれた研究所」である 理由として、研究所の運営が国民の税金でなされ る以上当然であり、積極的な対応が期待されてい るとの意見があったことを記しておきたい。 「開かれた研究所」論は研究所のあり方論と密 接な関係を持つものであるから、本来日常的にこ の問題が意識され、議論され、実践されるべきも のであろう。現在は移転を控えた忙しい時期では あるが、この問題を所の全員で考えるよい機会だっ たといえよう。自由な発想に基づいて多数の人と 意見交換する機会は、今後とも積極的に作り、 育てて行くことが大切であることを改めて感じて いる。 (分子生物研究室長、移転対策本部連絡調整班員)
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