中央水研ニュースNo.1(平成元年9月発行)掲載


中央水産研究所の発足にあたって
能勢 健嗣

 本年5月29日をもって東海区水産研究所は中央 水産研究所として発足した。誠に喜ばしいことで あり、また時の水産庁長官であった田中宏尚氏に 揮毫いただいた中央水産研究所の看板は長く記念 として残るものであり感謝している。
 振り返ってみると、今年は当水研の前身である 農林省水産試験場が設置されてからちょうど還暦 の60年目にあたり、また戦後の機構改革により8 海区制度ができて東海区水産研究所が設置されて からちょうど40年が経過した記念すべき年である。 この間、戦前の水産試験場時代には水産業の基盤 を支える科学、すなわち水産学の確立に大きな貢 献を果たしてきた。また、東海水研となってから は、戦後の食糧難の時代には国民に対する唯一の 動物蛋白源であった水産物を確保するために、イ ワシ等の回遊性魚類を中心に重要な魚介類の資源 研究が積極的に行われてきた。更に、高度成長期 に発生した水銀・PCBなどの環境問題には、海 洋部・水質部のみならず、全所をあげての取り組 みがなされ、多くの環境保全に対する成果が発表 されたことは、記憶に新しいものがある。また、 利用・加工分野では、鮮度判定で国際的基準となっ ているK値、さらに新しい魚介類の保蔵方法とし て世界に普及しつつあるパーシャルフリージング、 英語の一つとなった「すり身」技術の開発など、 数多くの国際的にも高く評価されている功績が、 この研究所から生まれてきている。戦後40年問に 水産学は飛躍的な発展を遂げているが、その多く の部分に当水研の貢献を見ることができる。
 齢60年になろうとするこの歴史ある建物の中で、 先人の多くの人が苦労されて達成された多くの功 績を基盤として、中央水研はここに新たな発展を 目標にスタートすることになったが、数年先には 横浜の地に最新の設備を擁した研究所が新設され ようとしている。中央水研は誠に恵まれたスター トをきることが出来たと思っている。もちろん、 研究は施設だけで出来るものではなく施設を生か すも殺すも人にあると言えるが、しかるべき研究 環境を整えるためには、まだまだ多くの困難を乗 り越えなくてはならない。所員をはじめとする関 係諸氏には、これからの5年間は新研究所の建設 のための苦労をかけることとなるが、20年、30年 先においても、そこで活躍する研究者達が充分に 能力を発揮できるよう、また、それらの研究者か ら素晴らしい研究施設であると言われるような、 立派な施設を是非完成させてもらいたい。また、 これから行われるべき研究の在り方についても十 分な論議を続け、来たるべき発展のための基盤的 研究を行ってもらいたい。
 最近、東海区水産研究所のOBで組織している 月島会が、その機関紙で東海区水産研究所開設40 周年を特集した。その中で東海水研発足当時の花 岡研究室を主宰されていた花岡氏は、東海区水産 研究所の初代所長の田内先生には多くのことを教 示されたが、その最も大きなことは、「我々が考 えるべき水産とは何か」の問題であり、「それは 田内先生が初代会長をされた日本水産学会の英名 の中にあるScientific Fisheriesそのものであり、 それは中央官庁の研究所である水研のとるべき態 度の真髄をさしているように思う」と述べている。 中央水産研究所の英名として、National Research Institute of Fisheries Scienceを採用したが、 40年前も、現在も、水産研究のあり方の本質は全 く同じであることを改めて認識させられた。
 今回の機構改革が、その直接のモメントは行政 監査にあったとはいえ、3年にわたる所内の論議 の結果であり、他の海区水研の研究者からも全面 的な支持を得たことは、中央水産研究所の理念が 真の科学的水産研究を発展さす上でのあるべき姿 を示していると思う。60年の歴史を誇る当水研の 良き伝統を継承しっっ、さらなる発展のために所 員諸氏の一層の努力を期待してやまない。
(所長)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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