中央水研ニュースNo.1(平成元年9月発行)掲載

【新水研究発足にあたっての各部の抱負】
新発足した利用化学部研究展望
(その後の組織改正のため、現在この部署は存在しません)
徳永 俊夫

 水産物は日本型食生活を支えるタンパク質や各 種栄養素の供給源として重要な役割を果たしてい る。従って水産物の利用研究も食料への活用を目 指すものが多く、水産物の成分や栄養的特徴の解 明、新規食品素材の開発等に多くの成果を挙げて きた。200海里体制の中でこれらの研究は重要性 を増しており、利用化学部の各研究室ともに加工 流通部と連携を強めながら食料としての利用拡大 に役立つ基礎研究-タンパク質、脂質等生体成分 の種特性の体系化、変性・変質機構の解明と防止、 構造改変による新加工機能の付与等一の推進を一 つの重要な柱として位置づけている。
 また同時に、水産物の付加価値をより一層高め るためには食料としてのみではなくもっと広い範 囲、例えばファインケミカルや医用・薬用等への 素材としての利用開発も重要であり、新組織の中 ではそれらの課題対応ももう一方の柱としている。 また、新しい利用研究の目玉として期待できる 物の一つに海洋微生物の研究がある。従来の利用 研究における微生物研究は、腐敗・食中毒防止等 どちらかと言うと守勢の立場をとってきたが、こ こで180°転換し微生物の特性をうまく引き出し 利用しようとする積極的方向に転じたことである。
 海洋は生物の生活環境として極めて特殊である だけに、特有の代謝・物質生産をしながら適応し 生活しているものと考えられる。特に高圧かつ低 温できわめて過酷な条件にある生物や微生物の特 性を化学的あるいは生化学的に解明することは学 術的な意義が大きいだけでなく、特殊な機能を持 つ新規物質の発見やそれらを生産させる技術まで 発展させうる可能性もある。最近フグ毒がフグ以 外の多くの生物で見いだされ、それがある種の微 生物で生産されることや、海面あるいはサンゴに 見られる生物活性物質も共生する微生物によるこ とが示唆される等関連分野での研究の進展は目ざ ましい。
 利用化学部の微生物研究では、まだ殆ど未開発 である深海の微生物に焦点を当て、当面それらの 採取、培養、特性解明をめざすが、将来的な展望 としては好圧微生物を見いだしそれらの耐圧性に 関する遺伝子を解析し、高圧下で賦活される機能、 の利用に役立てる等の夢の現実に期待したい。こ のような研究ではサンプルの採集の原点であり、 生物・海洋関係の研究者、調査船の乗組員等多く の皆さんの協力なくして成功はあり得ないが、そ のための調査・採集活動を通じ他分野との協力関 係を一層深められればまた大変嬉しいことである。
(利用化学部長)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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