中央水研ニュースNo.1(平成元年9月発行)掲載

【新水研究発足にあたっての各部の抱負】
生物機能研究にかける夢
(その後の組織改正のため、現在この部署は存在しません)
小長谷 史郎

 海洋が育んできた多彩な生きもの達は、多くの 生物学者の探求心を駆り立ててきた。それ故に、 科学の先進国では古くから海洋研究所が創設され、 博物学を初めとしていろいろな分野で多くの成果 を挙げられてきた。これが、海洋生物の研究がそ の国の文化や科学の水準を示すものと言われる由 縁である。
 近年、海洋開発の重要性が指摘され、海洋生物 や、そこに含まれる物質の多様性が注目されてき た。また、伝統的な生物学も生化学の著しい発展 と結合してバイオテクノロジーを産みだすなど、 生物学をめぐる状況も大きく変わった。このよう な結果、海洋生物の研究も社会的要請と科学的探 求心とが錯綜する領域となってきた。
 水産においても、このような研究二一ズや社会 的要請に対応するためには、水産生物のもっ生理・ 生態的知見が急速に集積されねばならない。個体 における生命現象や個体間における生態的現象等 の生物的諸現象を生化学的機能から捉えようとす る新しい概念の基礎的・基盤的な研究分野が中央 水研の研究体制に位置づけられてきたのは、この 様な背景と認識による。
 さて、生物機能研究とは端的にいえば、海洋と いう生態系の中でどの様な物質がどの様に挙動し、 それが海洋の中でどの様な役割を果たしているか を解明しようというものである。私達のもっ小さ なメスで夢のような壮大なテーマにどれほど挑戦 できるかはわからないが、物質とその機能、細胞 と生体反応、生物の生化学的特性(比較生物学) の面からアプローチを試み、自由闊達な研究を通 じて夢をわずかでも現実のものとしたい。
 発足して間もないので、これといった成果が出 ていないが、最近、マイワシの資源変動機構を生 化学的な見地からアプローチしようという試みが 始まっている。
 この中で、海域によるマイワシ仔魚の生理状態 の違いや、プランクトンの生理状態と海域の生産 力との関係を核酸やタンパク質などの生化学的性 状から検討したところ、海域によって栄養状態が 異なったり、生産力の高い海域ではプランクトン の栄養状態も良いことが明らかとなってきた。こ の様な結果は、マイワシ資量変動機構の解明に新 たな知見を与えるものである。
 もちろんこれらの結果は、生物生態部や海洋生 産部との共同研究によってもたらされて来たもの である。このように、生物機能部の多くの研究に は他分野の研究者との共同研究が必要となる場合 が多い。ご協力や応援をよろしくお願いしたい。
(生物機能部長)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
back中央水研ニュース No.1目次へ
top中央水研ホームページへ