■ 海外出張 平成19年4月掲載



中央水研だより目次へ


写真1 会議の行われた人民会議場の広場


写真2 会場の様子


写真3 ワークショップの様子


写真4 会場付近の市場の風景

 FAOアジア太平洋地域事務局及び東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)の依頼により12月12日から16日の5日間にわたり、中国の海南島で開催された東アジア海洋会議2006(The East Asian Seas Congress 2006)に参加・発表しました。この会議は、東アジア海域の環境悪化や生物資源の減少への対処を目的として3年に一度開催されているもので、今回の中国大会では800人を超す参加者がありました。会議の主催は、地球環境ファシリティ(GEF)、国連開発計画(UNDP)、国際海事機関(IMO)の各国際機関および東アジア12カ国のパートナーシップにより組織される、東アジア海域海洋環境管理計画(PEMSEA)です。東アジア12カ国は、ブルネイ、カンボジア、中国、北朝鮮、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、韓国、シンガポール、タイ、ベトナム、によって構成されています。

 経済発展の著しい東アジア諸国においては、近年様々な環境問題が生じています。特に沿岸域は、海域の中でも人間が最も高度に利用している場所であると同時に、もっとも環境悪化の起きやすい空間でもあります。沿岸域の環境悪化と生物資源の減少に対処するため、沿岸域を海陸一体となった自然の系として括り、統合的に管理するという「統合的沿岸域管理」の必要性が指摘されています。本会議では、東アジア海域の持続可能な開発戦略に関する閣僚フォーラム、および、統合的沿岸管理や海洋管理政策に関する幅広い国際会議が行われました。その中の「テーマ1:持続可能な発展におけるコミュニティー問題」では、FAOアジア太平洋事務所と東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)の共催で「漁業権に基づく漁業管理」というワークショップが行われました。これまでFAOアジア太平洋事務所やSEAFDECは、東アジア諸国の沿岸域において漁業権を中心とした漁業管理の普及を行ってきました。この活動の主たる成果を整理するとともに議論を深めることが本ワークショップの目的です。このワークショップで私は、日本の漁業管理制度の特徴や、地元の資源利用者が環境保全において果しうる役割についての口頭発表を行い、その後の総合討論のパネリストを務めました。

 ただ、現在の東アジア海洋会議では、海運や港湾事業・埋め立て・海底資源利用・陸起源汚染問題・観光誘致など、経済開発とそれに付随する環境問題に関する議論が中心です。よって、漁業に関する関心はそれほど高くありません。「漁業権に基づく漁業管理」のワークショップへの参加者も、他のワークショップに比べるとあまり多くありませんでした。しかしながら、今後東アジアで総合的沿岸域管理を広く実践することになるとすれば、現実問題として、その費用や実施主体が問題となります。特に統合的沿岸管理において非常に重要である環境モニタリングを出来るだけ低コストで継続的に行うためには、沿岸に多数生活し、またその海域のことを熟知している地元住民や沿岸漁業者が果しうる潜在的役割は大きいと考えられます。 

 もちろん、水産業・漁業の本来的な役割は国民に水産物を安定的に供給することにあります。しかしながらこれからは、食料供給という本来的機能に加え、統合的沿岸域管理や環境保全においてどのような役割をはたすことができるかという側面についても、水産業・漁村の多面的な機能(http://www.jfa.maff.go.jp/tamenteki/index.htm)とも関連した見地から研究を進め、知見を準備しておくことが重要です。

 

 
(c) Copyright National Research Institute of Fisheries Science, Fisheries Research Agency All rights reserved.