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2005年10月31日から11月20日まで、JICAのコスタリカ・ニコヤ湾持続的漁業管理プロジェクト短期専門家(魚年齢査定評価)として派遣されましたので、その概要を報告します。 |
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コスタリカとは「豊かな海岸」という意味です(Rich coast→CostaRica)。16世紀にやってきたコロンブスの一団が、先住民の身につけていた金の装飾品を見て、近くに黄金郷があると勘違いして「豊かな海岸」と呼んだためだそうです(写真1)。実際に19世紀から20世紀にかけては、いろいろな困難な時代があったとはいえ、コーヒーとバナナおよびそれらを含む物資輸送の商業港を擁する豊かな国でした。社会システムとしても、徹底した民主主義、広く行き届いた福祉制度、先進的な自然保護施策、人権への高い認識度など、中米の優等生といえます。加えて、コスタリカは非武装中立国として、何と軍隊を持っていない国であるということは、あまり知られていないのではないでしょうか。そして首都サンホセも、開高健が「ゴミ一つ落ちていない快適な街」と記しています。 プロジェクトが対象にしているのはカリブ海側ではなく、太平洋側のニコヤ湾(首都サンホセから北西に約100Km)。刺網、延縄、手釣り、底びき網を主体に、主にニベ、フエダイ、カマス、サワラ、エビ等が漁獲されています。ニコヤ湾の年平均漁獲量 (1990-1997)は3,401.9トン(魚類2,855.2トン、クルマエビ゙類516.8トン、イセエビ類゙1.2トン、貝類24.0トン、その他4.6トン)で、国内シェアの約40%を占めています。近年ではキハダ、カジキ類、シイラ等の沖合漁獲量が増えてきて、そのシェアは落ちてきたものの、沿岸資源は豊かであるといえるでしょう(写真2、3)。ちなみに、昨年までのチーフアドバイザーであった藤田矗さんは、ニコヤ湾において320種類の魚類の存在を確認しました。 |
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このプロジェクトは、コスタリカの大学および行政諸機関の水産担当者に対して、水産資源の管理方策および品質管理方策に関する技術移転を行うことによって、ニコヤ湾の零細漁民の生活向上を目的として実施されています。実際に生産の現場を訪れてみますと、不衛生な面、資源の無駄な利用の仕方がよくわかります。JICAでは、ニコヤ湾の漁業基地となっているプンタレナスという、首都サンホセから車で約2時間の距離に位置する田舎町にコスタリカ・ナショナル大学海洋生物研究所に拠点を構えて活動していました。2002年10月から始まったプロジェクトですが、2005年4月から、チーフアドバイザーが藤田さんから元水研センター理事の嶋津靖彦さん(写真4)にかわり、2007年9月30日までの5年間行われます。スタッフは、資源管理担当の平松一人さん、品質管理担当の石原光さん、業務調整担当の遠藤又一さんという面々です。研究所の研究員と共に実に仲良く、また前向きに仕事を展開している様子でした。 前述のようにニコヤ湾では、漁業者の増加により沿岸資源への漁獲圧が増加している状況であり、資源量および漁獲量の減少が懸念されています。しかし、資源管理、漁業管理のために必要な漁獲統計や生物情報が不足(もしくは欠落)しています。そこで、沿岸漁業対象魚種(フエダの仲間Pargo mancha, ニベの仲間Corvina aguada)の年齢と成長を明らかにすることを課題として、これまで短期専門家およびカウンターパートによって年齢査定方法が検討されてきました。一昨年には、資源評価部の木村量さん(現水研センター経営企画部)が短期専門家として派遣され、耳石を用いた切片法の有効性およびその技術が移転されました。 しかし、耳石に観察される年輪様構造の形成の年周期性が検証されておらず、また観察手法についても確立されていませんでした。そのため、上記2種にオニカマスの仲間Barracudaを加えたニコヤ湾沿岸漁業重要対象種の3種について、耳石日周輪と併せた年輪様構造の形成周期の解明、観察手法の確立および手引きの作成を行い、耳石年輪を基にした各種の年齢と成長を解明することを目的として、3週間滞在して、耳石の観察作業を行いました。 |
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カウンターパートとして一緒に観察作業をした、研究所のロサさんとフェルナンドさんは、真面目で頭の回転も速く理解力も高い研究者で大変頼もしいパートナーでした(写真5)。まず耳石の日周輪を計数することによって年輪の年周期性を確認することをコスタリカ大学CIMARで走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行ったのですが、微細構造の特徴や数から日周輪であるとは判断されず、日周輪数と年輪構造との関係を検討するには至りませんでした。そこで年輪観察に立ち戻り、2003年に技術移転され作成が進められていた耳石切片について年輪観察を行いました。フエダイの仲間Pargo mancha(Lutjanus guttatus)については、実体顕微鏡で透過光によって観察したところ、木村さんが指摘していたとおり、比較的明瞭な不透明帯と透明帯が観察されました。耳石縁辺に形成されている輪紋の季節的な出現状況を調べたところ、不透明帯は9-2月に、透明帯は3-8月に主に形成されることが分かり、形成の年周期性が確認されました。ただし、年輪第1輪の把握が難しいのです。そこで耳石の微細構造を同時に観察したところ、年輪第1輪の周辺では、内側に向かっていた耳石の成長方向が、外側に大きく曲がっていることが分かりました(図1)。したがって、この成長方向の変化を基に第一輪を把握し、その外側の透明帯、不透明帯を計数することによって、個体毎の年齢査定が可能であることが分かりました。 本標本の年齢査定を行ったところ、今回は最大16歳の個体が認められました。推定された年齢を基に年齢と体長の関係においては、年齢群毎の体長にバラツキ(成長差)が大きいという特徴がありました(図2)。しかし、これでこの魚種のおおよその成長様式は把握できました。体長のばらつきについては、春生まれ群と秋生まれ群が混在していることも関与していると思われ、Age-length keyを作成する際に、春夏期と秋冬期とを分けて作成することが有効であるものと考えられました。 ニベの仲間Corvina aguada(Cynoscion squamipinnis)については、日周輪も年輪も観察が難しく、更なる観察の工夫が必要でしょう。オニカマスの仲間Barracuda(Sphyraena ensis)については、予備的に行った実験によって、耳石を熱処理した後に樹脂に包埋して切片を作成し、その切片を蛍光顕微鏡で観察する手法(UV observation of burnt otolith)を用いると、比較的明瞭な年輪様構造が観察されることが分かりました。この年齢査定作業は、後日、カウンターパートのフェルナンドさんが荒崎に数週間派遣されて行われる予定であり、これまで全く分かっていなかった年齢と成長の解明が期待されます。 今回ある程度の成果が得られたのは、木村さんの先鞭と、カウンターパートの真面目さと、現地JICA職員の熱意と、嶋津さんのプレッシャー(いろいろな場面で「今回で年齢査定の問題は決着します」と盛んにPRしていましたので・・・)のお陰だと思っています。また異質な環境でも快適に過ごせるようにと関係各位には多大なご配慮をいただきました。この場を借りて御礼申し上げたいと思います(写真6,7)。 |
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最後に、いわば「水産研究途上国」の研究事情について。数年前に文科省のプロジェクトでタイに行ったときも、今回のコスタリカも、前線で調査や研究に当たっている方は、ほぼ全員が日本に留学もしくは研修に来られた経験を持っています。そしてそれを現地で実践しています。行ったり来たりするのは、いろいろな面で後々生きてくることであり、責任感を持って実施すべきであるとの感想を持ちました。来年もカウンターパートが来日します。是非実りのある研修にしたいと思います。付け加えさせていただくなら、多くの国々で活躍されている水産関係のJICA専門家の方々が、日本で研修したり、学会で情報収集したり、更には水研職員と共同研究したりするシステムがあってもいいと思いました。他機関のことでありますが、水研自体の課題でもあると思いました。 |
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