■ 国際会議 平成18年7月掲載


Here I briefly report my experiences and impressions during the CalCOFI Conferences, which were held at the Scripps Institution of Oceanography, University of California (La Jolla, San Diego, USA), during November 15-18, 2004 and December 2-7, 2005. This document is written for Japanese readers; but scientific contents (e.g. programs and presentation abstracts) are available in English by clicking on the links.
1.はじめに

中央水研だより目次へ

 2004年11月及び2005年12月に開催されたCalCOFI Conferenceに参加させて頂いた。本稿では、会議の様子、発表内容を含めて参加報告をさせて頂きたい。CalCOFI Conferenceは、両年共に、米国カリフォルニア州のサンディエゴ (ラ・ホーヤ) のスクリプス海洋研究所で開催された。2004年はマイワシに焦点を当てたシンポジウムが組み込まれており、カリフォルニアマイワシの資源管理を検討するフォーラムも同時開催された。プログラム等は下記リンク先のPDFを参照されたい。

CalCOFI Conference 2004 in conjunction the Trinational Sardine Forum
開催期間: 2004年11月15日~11月18日
開催場所: Scripps Institution of Oceanography (La Jolla, San Diego, USA)

CalCOFI Conference 2005
開催期間: 2005年12月5日~12月7日
開催場所: 同上

2.CalCOFI

 California Cooperative Oceanic Fisheries Investigations (CalCOFI) (カリフォルアニ共同漁業調査) は、カリフォルニア沖でマイワシ資源が崩壊したことをきっかけに1949年にカリフォルニアの各研究機関 (“California Department of Fish and Game”“NOAA Fisheries Service”“Scripps Institution of Oceanography”) を中心に設立された国際研究協力機構である。現在では、カリフォルニア海流域の海洋環境から水産資源管理に至る各分野を広く対象としている。毎年、年次会議が開催され、各種報告書や成果の出版、データの収集が行われる。また、CalCOFIから年1回刊行されるCalCOFI Reportは、その規模のわりに国際学術誌としての評価が高く、専門分野に大きなインパクトがあった論文も公表されてきた。

3.発表内容

 海洋における最大級の謎の1つに「魚種交替」がある。マイワシとカタクチイワシは約50年を1サイクルとして大規模な増減を繰り返してきており、マイワシが増えた時期にカタクチイワシが減り、マイワシが減った時期にカタクチイワシが増えるという実に不思議な現象が起こってきたことがわかっている (スライド1)。さらに、この魚種交替現象は、我が国周辺海域に限らず、世界各地の海洋生態系 (カリフォルニア沖、ペルー沖、チリ沖) で起こっており、しかもその現象ははるか太平洋を越えて同期してきたことが知られている。近年の研究から、この魚種交替が気候変動と対応してきたことが明白となってきた。しかしながら、その具体的な生物過程については明らかにされていない。我々は、これまで、魚種に特有の適水温に着目することによって、以下の一連の疑問に理論的な解を見出すことを狙って研究を進めてきた。

何故、僅かな環境変動が引き金で魚種交替のような大規模な資源変動が起こるのか?

何故、同じ海洋環境下において、カタクチイワシは繁栄し、マイワシは崩壊し、そして、何故、それが入れ替わるのか?

何故、太平洋の東西で魚種交替は同期してきたのか?

 2004年に行った口頭発表1 (スライド2) では、まず、カタクチイワシやマイワシのような浮魚類の初期生活史における成長速度は僅かな変動が生じただけでも大規模な生残率の変動につながることに着目した。これを前提に、1990~2004年に北西太平洋で採集されたカタクチイワシ仔魚2041個体及びマイワシ仔魚766個体の成長速度を耳石微細構造解析から調べ、採集時表面水温との関係を魚種間で比較した結果、成長速度最適水温は、カタクチイワシ仔魚では22.0°Cであったのに対し、マイワシ仔魚では16.2°Cであり、約6°Cの差があることがわかった (スライド3)。仔魚が経験すると想定される平均的な水温は、概ね16~22°Cの範囲で変動してきており、この成長速度最適水温の違いとその間で変動する水温が魚種の優劣の交替を引き起こすと考え、これを「成長速度最適水温仮説」とした。

 2005年に行った口頭発表2 (スライド4) では、口頭発表1の適水温に着目した考え方を拡張し、太平洋東西間で魚種交替が同期した現象を説明しようと試みた。我が国太平洋岸で実施されてきた卵稚仔調査の長期蓄積データを利用し、卵・仔魚の出現有無から、カタクチイワシ及びマイワシの産卵水温を調べた。その結果、高温性かつ広温性のカタクチイワシと低温性かつ狭温性のマイワシの特性が明瞭に描出された。この日本のカタクチイワシ (Engraulis japonicus) とマイワシ (Sardinops melanostictus) の関係は、カリフォルニア海流域でのカタクチイワシ (Engraulis mordax) とマイワシ (Sardinops sagax) の関係とは実に対照的であり、北太平洋の東西間でカタクチイワシとマイワシの水温特性の関係はちょうど逆転していると考えられた (スライド5)。同じ時期に太平洋の東西で水温の高低の関係は概ね逆になっている。しかし、カタクチイワシとマイワシの適水温特性も逆であるために、結果として魚種交替は同期した、というシナリオが少なくとも理論上あり得ることを主張した。

 ポスター発表では、魚種交替以外の成果発表も行った。2004年のポスター発表1 (スライド6) では、カタクチイワシ仔魚について、同種の親 (共食い) に襲われた場合には、成長速度が低い個体が選択的に捕食されるのに対し、カツオに襲われた場合には、成長速度に関係なく捕食されてしまうことを示した。ポスター発表2 (Oozeki et al.) は、卵稚仔調査の長期蓄積データセットを利用して、マイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシの産卵場特性の長期変動を示したもので、カリフォルニア海流域の研究者が待望した成果である 。2005年のポスター発表3 (スライド7) では、カタクチイワシの産卵特性の水温に対する反応が沿岸域と沖合域では異なることを示した。ポスター発表4 (Oozeki et al.: スライド8) 及びポスター発表5 (Nishida et al.)は、それぞれ我が国におけるカタクチイワシ及びマイワシの太平洋系群の資源評価の概要を紹介したものである 。

Takasuka, A., Oozeki, Y., Aoki, I., Kimura, R., Kubota, H., Sugisaki, H., Yamakawa, T. (2004) Growth-optimal temperature for larval sardine vs. anchovy: A possible mechanism for sardine?anchovy regime shift? Abstracts of the CalCOFI Conference 2004 in conjunction with the Trinational Sardine Forum, p. 24. (口頭発表1)

Takasuka, A., Oozeki, Y., Kimura, R., Kubota, H., Aoki, I. (2004) Growth-selective predation hypothesis revisited for larval anchovy in offshore waters: cannibalism by juveniles vs. predation by skipjack tunas. Abstracts of the CalCOFI Conference 2004 in conjunction with the Trinational Sardine Forum, p. 58. (ポスター発表1)

Oozeki, Y., Kubota, H., Kimura, R., Takasuka, A. (2004) Characteristics and decadal shifts of spawning grounds of small pelagic fishes. Abstracts of the CalCOFI Conference 2004 in conjunction with the Trinational Sardine Forum, p. 52. (ポスター発表2)

Takasuka, A., Oozeki, Y., Kubota, H. (2005) Contrastive temperature optimums for anchovy and sardine spawning between both sides of the North Pacific: Optimal growth temperature hypothesis extended.Abstracts of the CalCOFI Annual Conference 2005, p. C-13. (口頭発表2)

Takasuka, A., Oozeki, Y., Kubota, H., Tsuruta, Y., Funamoto, T. (2005) Temperature impacts on reproductive parameters for Japanese anchovy: Differences between inshore and offshore waters. Abstracts of the CalCOFI Annual Conference 2005, p. P-15. (ポスター発表3)

Oozeki, Y., Kubota, H., Takasuka, A., Akamine, T. (2005) Population fluctuation of the Northwestern Pacific stock of Japanese anchovy. Abstracts of the CalCOFI Annual Conference 2005, p. P-11. (ポスター発表4)

Nishida, H., Yatsu, A., Takasuka, A., Oozeki, Y. (2005) Assessment of the Japanese sardine stock in the northwestern Pacific for Japanese management system.Abstracts of the CalCOFI Annual Conference 2005, p. P-10. (ポスター発表5)

4. Conference等にて

 2004年は、マイワシのシンポジウムが組み込まれていたため、カタクチイワシとマイワシの魚種交替のテーマを発表するには絶好の場であった。初日は、“Session I: Status of the Fisheries” として、カルフォルニア海流域の各魚種 (サケ、カニ、ニシン、マグロ、イカ等) の資源状況が紹介された。午後からは、“Session II: Status of Fisheries for Pacific Sardine” として、マイワシの資源状況に焦点が当てられ、各海域から情報が集められた。第2日目は、“Session III: Symposium of the Conference: “Pacific Sardine - Past, Present, and Future”、即ちマイワシシンポジウムが開催され、著名な研究者が多数揃って、最新の知見が公開された。自分が勉強した論文の著者に直接質問したり、議論したりできるチャンスを得られるのは、国際会議の最大の魅力であろう。マイワシシンポジウムで発表した魚種交替に関する「成長速度最適水温仮説」は、ストーリーについては非常に好評を得た。ただし、発表の英語は見せかけが効いても、英語の聞き取りが致命的に弱いことで質疑に苦しんだのはいつものことであった。一方で、この仮説がカリフォルニア海流域 (即ち、異なる海域) でも通用するか否かについては、賛否両論であり、ここでの議論に基づいて2005年の研究テーマを吟味できた。第3日目は、“Session IV: Contributed Talks” として、様々な分野に渡って研究発表が行われた。日本からは、中央水産研究所の西田室長が参加しており、日本のマイワシ資源に関する情報をカリフォルニアに提供した。この発表がCalCOFI参加者の興味を惹いたことは、彼らはカリフォルニアのマイワシと日本のマイワシの共通点・相違点に関心を持っているという証拠である。夕方からは会場を変えて、ポスター発表が行われた。極めてくだけた雰囲気で、研究発表というよりも、ポスターを背に雑談といった印象であったが、こういうスタイルの方が議論もし易いのかもしれない。会議終了後の翌日には、“Trinational Sardine Forum Working Group Meetings” というマイワシ資源管理のための会議が開かれたので、これを傍聴し、情報を得た。

 2005年は平成17年度独立行政法人日本学術振興会の国際学会等派遣事業III期に採択されて参加した。2004年に知り合った研究者達とも再会を果たし、懐かしい気分で会議開始を迎えた。初日は、“Session I: Status of the California Current” 及び “Session II: Status of California’s fisheries” として、2004年同様、カリフォルニア海流域の各魚種の資源状況が続々と紹介された。第2日目は、“Session III: Symposium of the Conference: “CalCOFI: The sum of the parts” として、これまで過去に行われてきたCalCOFI関連の様々なプロジェクトの成果で、他の媒体に公表されたもの等がレビューされた。第2日目午後から第3日目にかけては、“Session IV: Contributed Talks” として、幅広い分野から研究発表が行われた。我々は、2004年の議論を踏まえ、日本とカリフォルニアではカタクチイワシとマイワシの産卵嗜好水温の関係が逆転していることを示す成果を紹介して水温特性による魚種交替のシナリオを再主張した。ポスター発表は第2日目に “Wine & Cheese Reception” として行われ、野外とポスター会場を行き来しながら、多くの研究者と話が出来た。それぞれ別の場所で知り合った研究者同士が、共同研究者あるいは友人としてつながっていることがわかったり、人のつながりの面白さを感じた。CalCOFIでは、参加者数自体はさほど多いわけではなく、常連によるコミュニティーが形成されているような印象を受けた。このコミュニティーの輪の中に入るのは、言語が障壁となるものの、研究という共通点をもって、そして今後は言語の壁も克服しつつ、つながりを保ちたいと思っている。

 2005年は、会議終了後、データベース関連のワークショップを見学した。さらに、スクリプス海洋研究所及び隣接する南西区水産研究所で何人かの研究者を訪問し、今後魚種交替の東西比較を展開するための情報収集と共同研究の打診を行った。漁獲量情報等、喫緊に必要な情報はその場で得、充分な吟味・相談を要する項目については、時間も無かったことから、帰国後e-mail等で議論を続けることになった。2005年の開催期間中には、スクリプス海洋研究所に滞在されている東京海洋大学の田中祐志助教授、中央水産研究所から同大学に留学中の森田貴己氏、学振海外特別研究員の高橋素光氏ともお会いでき、皆様の活躍ぶりを伺うこともできた。

 全体を通じて、たしかにカリフォルニア周辺の研究者は、太平洋の対岸である我が国周辺海域の海洋生態系で起こっている出来事について興味を持っていると感じた。一方で、情報は独自に集められているので、ある意味、散逸的とも言える。現在、様々な国際協力研究機構において、異なる海洋生態系の情報を比較、統合化しようという動きがあり、喫緊の課題となっている。例えば、2006年4月下旬には、ホノルルで “PICES/GLOBEC Symposium on Climate variability and ecosystem impacts on the North Pacific: A basin-scale synthesis” が開催され、北太平洋各地の海洋生態系における物理・生物情報に関する知見が比較のため集められた。また、昨年11月には、東北区水産研究所の伊藤進一室長らが中心となって各海域の魚種交替をモデル化するためのワークショップ “Global comparison of sardine, anchovy and other small pelagics: Building towards a multi-species model” が開催され、現在もこの仕事が進んでいる。今後、益々、このような動きは盛んになり、きっといくつもの “breakthrough” につながると思われる。

5. 雑感

 2004年のCalCOFI参加が決まるまでSan Diegoがどこにあるのかすら知らなかった。水研に就職以来、ことあるごとに学生時代の不勉強のつけが回ってきているのだが、今回も実感した。とりあえずカリフォルニアなので気候は日本と大して変わらないだろうと思い、事前にCalCOFIのホームページで学会関連の情報はつぶさに調べ上げたが、開催地や気候等の情報は一切無視していた。2004年は出発日の午前中に東京大学農学部弥生講堂で開催された日本水産学会関東支部大会シンポジウムで発表していたので、そのままスーツで行った。到着時、昼から夕方は日差しが強く、非常に暑かったので、スーツは最悪であった。そもそも参加者にスーツは皆無であったため、浮いていた。逆に、夜の冷え込みは日本の関東以上だった。初日だったか、ディナーはなんと野外であり、凍えながら過ごした。大多数の参加者は、昼はTシャツ、日没後はその上にパーカーやジャンパーであった。2005年は、2004年に昼夜の気温差を学び、万全の準備をしていったので、実に快適に過ごせた。

 2004年参加時に苦しかったのはポスターの移動である。旅行用スーツケースとノートパソコン入りの手持ちのカバンに加え、巨大なポスターケースを抱えての旅程はきつかった。同様の経験を持つ方にはこの煩わしさがご理解頂けると思う。ついでに帰りは空港から自宅までの間に寄った横浜のカフェでポスターケースを置き忘れてきてしまった (一応後日取りに行った)。そこで、2005年はポスターを光沢紙に印刷して丸めるのではなく、折りたたみ可能な布地に印刷することを思いついた。直前だったが、当研究室室長の迅速な考慮のおかげでこれは実現した。出力の質は紙に勝るとも劣らない。何より、紙だと丸めるしかないのに対し、布の最大の利点は小さく折りたためるということである。A0サイズのポスター3枚分でもA3封筒に収まった。これは最高だ。荷物は大幅に軽減された。海外でポスター発表をされる方はぜひ試して頂きたい。

 

 
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