■ 国際会議報告 中央水研だよりNo.1(2006. 平成18年2月発行)掲載
東南アジア漁業開発センター海洋水産資源管理開発部局(SEAFDEC-MFRDMD)主催の「南シナ海の持続的浮魚漁業に関する情報収集のための第4回技術会合」に参加して 三谷 卓美 The Fourth Technical Consultation Meeting:Information Collection for Sustainable Pelagic Fisheries in the South China Sea) Takumi Mitani


東南アジア漁業開発センター海洋水産資源管理開発部局(SEAFDEC-MFRDMD)主催の「南シナ海の持続的浮魚漁業に関する情報収集のための第4回技術会合」に参加して
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東南アジア漁業開発センター海洋水産資源管理開発部局(SEAFDEC-MFRDMD)主催の「南シナ海の持続的浮魚漁業に関する情報収集のための第4回技術会合」に参加して
 2005年11月21~23日にインドネシアのジャカルタにおいてSEAFDEC-MFRDMDの主催で開催された「南シナ海の持続的浮魚漁業に関する情報収集のための第4回技術会合(The Fourth Technical Consultation Meeting :Information Collection for Sustainable Pelagic Fisheries in the South China Sea)」に出席しました。会議には、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム、シンガポール、ミャンマー、SEAFDECの研究者と事務局及び日本から私の他にリソース・パーソンとして東京海洋大学の桜本和美教授が参加しました。
 SEAFDECの調査・研究活動では日本政府の経費負担が大きな役割を果たしています。この調査事業も、我が国からの資金(トラストファンド)で実施されており、SEAFDECの3つの部局(マレーシアのMFRDMD、タイの訓練部局-Training Department、シンガポールの調査部局-Marine Fisheries Research Department)がメンバー各国の試験研究機関の協力に基づいて調査を実施しています。
 本調査事業は、初年度の2002年に研究計画の策定がなされ、2003年から各種データが南シナ海に面した26サンプル地点より収集されています。対象魚種は、グルクマ属(グルクマと他の1種)、ムロアジ属(マルアジ、モロ、インドマルアジ)です。調査内容は、1,体長組成、生殖腺成熟特性、系群構造を把握するためのデータ・サンプルの収集と分析、2,漁業・漁獲データの収集と分析、3,各種データの加工と分析のための手法の確立です。そして、生物特性値(月別体長組成、成長式、体長-体重関係式、初回産卵体長(年齢)、性比、産卵期、系群構造-形態計測法と遺伝学的手法)の把握、並びに漁業・漁獲情報(漁獲方法、漁場、漁法別魚種組成、漁獲量、CPUE)や資源特性値(体長組成データをFiSATプログラムに取り込み成長式、F、M、Z、Eの値を得る)の把握により資源評価・管理方策の策定に資すことが計画の目標です。これら以外に、本プロジェクトでは、標本船のGPSデータによる漁場位置(漁獲データも含む)の計測、漁獲データや生物データのデータ・ベースの開発と運用、水産加工技術の開発が行われています。
 今回の会議では、2003~2005年の調査・研究結果と2006年度計画が検討されました。2006年は最終レポートの作成が主な活動となる予定です。また、2006年中にはSEAFDECによる浮魚資源の管理に関する地域会議が開催される方向で検討されました。調査・研究結果に関しては、資源特性値を求める解析に際しFiSATプログラム(このプログラムソフトは熱帯海域の資源を対象として体長組成による水産資源解析のために開発されている)に依存し過ぎており、体長組成データの分析には月別体長組成を数年間並べて図化する等初歩的な手法に重点を置く必要があると思われました。FiSATプログラムを通じて得られ、今回各国から報告されたかなり大きな漁獲利用率(exploitation rate,E)の値は注意深く解釈されるべき、との桜本先生の発言は会議記録に載せられました。
 会議の初日には、カントリー・レポートとして「日本における浮魚類の資源評価と管理の現状(Present status of stock assessment and management of pelagic fishes in Japan) 」を報告しました。会議主催者からは事前に、「資源評価精度の高い魚種と比較的低い魚種を取り上げ、これらの資源評価と漁業管理についてやや詳しい説明」、「社会経済的な観点からの漁業管理の情報についての言及」及び「日本のTAC制度の仕組みに関するパンフレット(英語版)の配布」を要請されていました。私は、ABC推定とTAC管理の現状とともに、我が国の漁業管理における資源回復計画について重点を置いて説明しました。また、パンフレットについても水産庁と協議しTAC管理に関してではなく、全国漁業協同組合連合会発行の「資源回復計画・漁獲努力量(TAE)管理制度の概要(The Resources Recovery Plan/Outline of the Management System for Total Allowable Efforts (TAE))」を配布しました。
 会議を通じて私が考えたことを以下に述べます。
 私からの報告への質問は、資源回復計画よりTAC管理について多くなされました。つまりSEAFDECのメンバー国からの参加者にはABC推定とTAC管理の方が大きな関心事でありました。日本国内では魚種によっては、TAC管理よりTAEを含んだ資源回復計画等が実質的な漁業管理として有効であるとの論調がなされ始めて久しくなります。しかしながら、10数年前に200海里全面適用を求めて幾度となく行われた農水省を取り巻くデモ行進等を思い起こすとき、日本においてもTAC制度の上にその他の漁業管理施策が可能になった経緯もあることを忘れてはならないと考えます。それを踏まえて資源回復計画等の説明をすべきであった、と反省しています。
 また、日本の資源回復計画のような施策がSEAFDECの関係水域に直ちに適用可能であると判断することはできません。我が国の資源管理法に係る基本計画では、「TAEの設定は、資源回復計画と連携させて行うこととし、具体的には資源回復計画に基づき関係漁業者が行う減船、休漁、保護区域の設定などの漁獲努力量削減措置による効果の阻害となる漁獲努力量の増加を抑制させるために用いることとする。」とされています。つまり、関係海域の漁獲努力量を全体的に低減するためでなく、卓越年級群の発生に併せて効果を発揮する休漁や保護区域の設定の成果を減じないようにするためのTAEの設定が主要な資源回復計画に導入されています。このような方策が低緯度の海域に分布する資源に適用可能であるかどうかは、各資源の年級の大きさを経年的にモニターしつつ慎重に検討されるべきと考えます。
 では、TAEを実質低減する必要がある場合は、漁業者会議等における現場の漁業者の意見調整や取り纏めを漁業調整委員会や国の資源回復計画の策定作業に反映させるといったcommunity based management やco-managementに基づく手法がSEAFDECのメンバー国でも有効でしょうか。もちろん、それを実行できる組織があれば、command and control型の漁業管理よりコストは低く抑えられますし、漁業者の管理へのインセンティブも高まるでしょう。私には現地での、この海域の地域漁業者組織や漁業種団体に関する知識はありません。今回訪問したインドネシアでの印象はそうだったのですが、水産部局は日本の海上保安庁と同じ所管にある国も多いのではないかと想定します。誤解を恐れず論を進めると、秩序のない漁業者の積み上げ意見を待つより、過剰な努力量の削減といった観点のみからは中央政府の命令によって漁業管理が可能なのかも知れません。少なくとも秩序だった協議の場の設定は可能でしょう。どのような為政者と国民との間に、どのようなタイミングでどのような支援や制度の導入が適切なのか、もちろんそこに利権が伴うか否かでも異なるでしょうが、開発経済学ではよく議論される問いかけです。その国の人々が考えればよいことでしょうし、少なくともその国の内情を知らない者が、漁業管理におけるcommunity based management やco-managementの有効性を説く必要はないのではないかと、ここでまた反省しています。今回の会議は、外務省の海外安全ホームページでみるとテロの脅威に関する注意喚起にも示されているアンチョール地区にある海洋公園内のホテルで静かに行われました。「ここは小さな家が建ち並んでいたが、海洋公園を造るために大統領が一掃した。」との運転手さんのお喋りを聞き、私の思いとは別に少し時代遅れかも知れませんがそのような国内の漁業管理の図式も描かざるをえませんでした。現地における旧来からのcommunity-based managementやその考え方を取り込んだSEAFDECの沿岸零細漁業振興のパイロットプロジェクトに関心を持って、山尾政博先生の著書などを読み直したいと思います。
 ASEAN(10か国)+3、日・ASEAN首脳会議及び東アジア首脳会議(16か国)が折しも12月14日にマレーシアのクワラルンプールで開催されました。将来の東アジア共同体に向けて、構成国に関する思惑がつばぜり合いされたといいます。日本は1967年のSEAFDEC設立に参画しその後40年間近くもこの地域の水産に関する技術開発を共に推進してきた実績がありますし、また、SEAFDECメンバー国の多くは我が国への水産物の主要な供給国でもあります。近年は、日本以上に中国が大量の水産物の生産かつ消費国になってきています。我が国はSEAFDECを通じてのこの地域の持続的な漁業、養殖業生産及び加工のための技術協力を今後も惜しまないと共に、SEAFDECのメンバー国は水産物の輸出あるいは輸入国として新たな貿易体制に関する研究を共に行っていくといった視野も必要な年代となっていると思われます。
 最後に、日本からSEAFDEC-MFRDMD次長に派遣され今回の会議では主催事務局の労を執られた小西芳信博士には現地で通訳他何かとご配慮頂いたことを、お礼申し上げます。
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