■ 巻頭言 中央水研だよりNo.1(2006. 平成18年2月発行)掲載
中期的研究の重点化について 山田 久 Mid-term of objects in our research (2006-2010) Hisashi Yamada


中長期的研究の
重点化について
中長期的研究の重点化について
 明けましておめでとうございます。
輝かしい新年を迎えられたことと謹んでお慶び申し上げます。
 年頭に当たり、中央水産研究所の研究推進及び重点化課題等について述べてみたいと思います。
 独立行政法人水産総合研究センターは本年3月に第1期の中期計画を終了します。また、4月から独立行政法人さけ・ます資源管理センターの業務を引き継ぎ、我が国唯一の水産に関する総合的な研究機関として、新たな独立行政法人水産総合研究センターが発足する予定です。従って、第1期中期計画において掲げた目標を確実に達成しなければならず3月までの間に目標の達成状況を確認、評価するとともに、4月から新しい水産総合研究センターの業務を円滑に開始する必要があります。このために、次期5年間の中期計画の策定について検討を進めているところです。水産総合研究センターの使命は、我が国の水産業の振興及び国民のニ-ズに研究開発の側面から貢献することであり、その主要業務は研究開発であることは言うまでもないことかと思います。第2期中期計画では、水産基本法の理念である「国民への水産物の安定供給の確保」及び「水産業の健全な発展」に資することを目標に基礎から応用、実用化まで一貫した研究開発及び個体群維持のためのサケ類及びマス類のふ化及び放流を総合的に推進するために、下記の研究問題及び大課題を設定して研究開発課題の課題化を検討しています。
研究問題1:水産物の安定供給確保のための研究開発
 大課題ア:水産資源の持続的利用のための管理技術の開発
 大課題イ:水産生物の効率的・安定的な増殖技術の開発
 大課題ウ:水産生物の生息環境の管理・保全技術の開発
研究問題2:水産業の健全な発展と安全・安心な水産物供給のための研究開発
研究問題3:研究開発の基盤となる基礎的・先導的研究開発及びモニタリング等
中央水産研究所は自然科学のみならず水産経済に関する社会科学的研究、また、海域のみならず内水面に関する研究も担当するために、その研究分野は広範囲であります。また、水産経済、利用加工、遺伝子解析及び内水面の専門分野の研究は、全国的な視点での研究推進が求められています。このような状況に対応して、中央水産研究所は、上記のすべての研究問題に位置づけられる多くの研究開発課題を担当することになります。
中央水産研究所は水産経済部、資源評価部、海洋生産部、浅海増殖部、内水面研究部、利用加工部及び水産遺伝子解析センターの7研究部門で構成されています。従って、効率的に研究を推進し、さらに研究成果を深化させるためには、中央水産研究所の有する各部門が協力することにより研究資源を最大限に活用して研究業務を推進することがますます重要になっていると考えられます。そこで、中央水産研究所の各研究部門の連携・協力を強化することにより、各部門が担当する研究開発課題を関係づけながら総合的に取りまとめ、さらには、関係機関との共同研究及び協力のもとに下記の中長期的重点課題を推進し、中央水産研究所の研究目標を達成したいと考えています。以下に、重点課題(重点研究目標)の背景、研究内容及び目的を以下に述べてみたいと思います。
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1.マイワシ等浮魚資源の変動予測と管理方策の開発
1.マイワシ等浮魚資源の変動予測と管理方策の開発
 沖合漁業では、マイワシ、サバ等浮魚類が減少に伴い、まき網漁業の経営が不安定化してきています。資源低水準下でもしばしば卓越年級群が発生しますが、過剰な漁獲努力が資源回復を困難にしています。そのため、精度の高い加入量予測に基づく資源管理、魚種交代現象の機構解明が求められております。そこで、1,調査船調査による加入量の直接推定、2,加入量変動予測モデルの開発、3,海洋環境モニタリングと数値シミュレーションを統合した加入量の間接推定、4,複数の漁獲努力の削減方策による資源回復のシミュレーション、5,それぞれの資源の特性に合わせた資源管理方策の開発、6,生物学的側面のみならず経済的側面を考慮した資源管理方策の開発に関する研究を推進し、マイワシ、マサバ等の加入量を精度高く予測し、適切な資源管理方策を開発したいと考えています。
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2.カタクチイワシ等資源の高度利用技術の開発
2.カタクチイワシ等資源の高度利用技術の開発
 カタクチイワシの利用技術の立ち後れが、魚種交替に対応した加工原料の転換を遅らせ、低水準にあるマイワシ、マサバに過剰の漁獲努力が向けられ、資源回復にも悪影響を及ぼしています。これらの問題解決のために、1,漁獲から流通、加工技術までの見直しによる高度利用加工技術の開発、2,脂質含量、魚体の大きさなど加工適性を基準とした資源量の把握、3,経済的側面からの高度利用に向けた課題の抽出と検討等の研究を行います。これらの研究成果を踏まえて、魚体が小さく均質な原料として利用することが困難であったカタクチイワシの高度利用技術を開発するとともに、地域加工産業の活性化及び魚価の安定化を図りたいと考えています。
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3.アワビ等沿岸重要資源の減少要因の解明と生態系ベースの管理技術の開発
3.アワビ等沿岸重要資源の減少要因の解明と生態系ベースの管理技術の開発
 アサリ、アワビ類の資源の減少が続いており、減少要因の解明と解決方策が求められています。また、地球温暖化や気候変動、埋め立て等による沿岸域の開発の沿岸漁業に及ぼす悪影響が危惧されています。さらに、捕食者、競合者、餌生物を含む食物関係と環境変動を考慮した生態系をベースとした資源管理技術の開発は重要研究課題となっています。このような背景のもとに、浮遊幼生、着底稚貝、成貝など、発育段階別の成長、生残の定量的把握を行うとともに、それらに影響する物理、化学、生物環境要因を明らかにする研究を推進します。これらの研究の成果に基づき、干潟、砂浜域に生息するアサリ等の二枚貝類および岩礁域に生息するアワビ等の沿岸重要資源について、資源の維持、増殖に効果的な生態系ベースの資源管理技術を開発し、沿岸漁業の振興に貢献したいと考えています。
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4.内水面及び沿岸生態系の保全・修復技術の開発
4.内水面及び沿岸生態系の保全・修復技術の開発
 内水面及び沿岸域の漁場環境は河川工事、外来魚による食害、生活排水等の流入等に伴い悪化し、内水面及び沿岸漁業に対する悪影響が危惧されています。河川工事が漁場環境に与える影響を解明するとともに、その軽減手法開発、外来魚の駆除技術の高度化、河口・沿岸域の生態系の保全・修復技術の開発に関する研究がますます重要となっています。これらの研究を通じて、内水面及び沿岸域における漁業の活性化や振興に貢献したいと考えています。
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5.漁村・漁業等が有する多面的な機能の定量的評価と活用技術の開発
5.漁村・漁業等が有する多面的な機能の定量的評価と活用技術の開発
 水産業は本来の機能(水産物の安定的供給)に加えて、水産業を行うことによる副次的な機能(環境浄化や地域社会維持等)を併せて持っています。しかし、このような水産業の多面的な機能についてはこれまで充分に解析されていません。そのため、1,多面的な機能の公共財としての性格や漁業との関わりの明確化、2,内水面漁業が有する多面的な機能(環境浄化、景観保全、レクリエーション等)の評価と維持・活用に必要な条件の解明、3,多面的な機能の経済的評価と維持・活用に必要な条件の経営的評価に関する研究を推進します。これらの研究の成果により、多面的な機能の役割や維持・活用に必要な条件を解明するとともに、適切な経済的評価を行い、国民生活における水産業の役割や意義を再検討したいと考えています。
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6.消費者のための安全・安心・高品質な水産物評価技術の開発
6.消費者のための安全・安心・高品質な水産物評価技術の開発
 食品に対する安心・安全の意識の高まり、表示法、トレサビリティーシステムの普及等へ対応するために、魚介類や加工原料の原産地、流通加工の履歴、及び水産物の品質を正確迅速に識別する評価法が求められています。このため、1,DNA分析による魚種の判別技術の開発、2,遺伝子組換え水生生物の検証技術の開発、3,微量多元素分析による原産地の識別技術の開発、4,近赤外分析などによる成分及び流通加工履歴の評価技術の開発に関する研究を推進し、消費者の求める安全・安心・高品質を科学的に評価する方法を開発したいと考えています。
中央水産研究所が特に重点を置いて推進する課題について述べましたが、これらの研究を円滑、かつ効率的に推進するためには関係機関の連携及び協力が不可欠と思います。さらなるご指導、ご鞭撻よろしくお願い申し上げます。
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